改訂新版 世界大百科事典 「職域保険地域保険」の意味・わかりやすい解説
職域保険・地域保険 (しょくいきほけんちいきほけん)
保険には被保険者を職場単位でとらえて保険集団を組織する方式と地域単位で組織する方式とがある。とくに人々を強制的に加入させる社会保険ではいずれを採用するかが問題となる。一般に職域保険は,雇主による拠出が得やすく,本人の所得も把握しやすく,所得に応じた高い給付を保障しやすい反面,全国民への適用が困難で給付に格差が生まれるなど,最低限度の保障に欠ける面もある。また地域保険は,各人を居住地でとらえるため適用もれがなく,すべての国民に最低限度の給付を平等に保障するには適しているが,雇主負担が得にくいなど保険料の調達は容易でなく,公費への依存度が高いのが一般である。いずれの方式が採用されるかはそれぞれの国の歴史的経緯に依存するところが大きく,ヨーロッパ大陸諸国では職域保険が中心で北欧諸国では地域保険が多いなどの違いがある。また保険事故の性格からすると,職業との関連性の強い失業保険,労災保険はもとより年金保険の場合も通常は事業所単位で加入を義務づけることが多く,とくに地域保険の有効性が問題となるのは給付の提供が地域性を持つ医療保険の場合である。
日本ではまず被用者を対象に職域で医療保険が発達し,ついで農村人口を対象とする地域単位の国民健康保険が導入され,第2次大戦後の1961年にこれが全市町村に設けられることになって,両方式を併用する形で皆保険が達成された。農山漁村住民,自営業者,零細企業従事者,老齢者等が対象となる国民健康保険は,加入者の支払能力が一般に低いうえにその判定が必ずしも容易でなく,雇主負担もないために保険料収入を大幅に上回る国庫負担が支払われているが,なおかつ給付水準は被用者保険より劣っている。こうした財政力格差,年齢構成差を修正するために,老人医療費に関して一定の財政調整効果を持つ老人保健法(1982公布)が,83年より実施されている。
執筆者:一圓 光弥
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報