内科学 第10版 「肝包虫症」の解説
肝包虫症(寄生虫による肝疾患)
エキノコックス属条虫の幼虫(包虫)に起因する疾患で,ヒトには,成虫に感染しているキツネ,イヌ(終宿主)などの糞便内の虫卵を経口摂取して感染する.また,虫卵に汚染されている井戸水や河川水からの感染も起こり得る.ヒトに感染すると腸管内で幼虫となり,小腸壁に侵入し門脈血やリンパ流に乗って肝に到達し寄生した後,肝に囊包を形成する.原因寄生虫種により多包性エキノコックス症(多包条虫)と単包性エキノコックス症(単包条虫)がある.近年多発している,多包性エキノコックス症は北海道に定住する感染動物からの感染と思われるが,単包性エキノコックス症は1881年に熊本で最初の症例が報告されて以来,現在までの数十例の報告例の1/3は国外での感染が示唆されているとともに,国内感染は九州,四国,近畿などの西日本であった.
1999年4月より感染症法で四類感染症に指定され,全例届出が義務づけられた.その報告では,感染域は北海道東部から全域へと伝搬域が拡大し,近年では年間20例以上の多包性エキノコックス症と数例の単包性エキノコックス症が報告されている(www.iph.pref.hokkaido/kansen/402/data.html).
臨床症状・診断
感染初期(約10年以内)は,無症状で経過することが多い.多包性エキノコックス症では,98%が肝に一次的に病巣(囊包)を形成する.肝に生着した微小囊包は外生出芽によりサボテン状の連続した充実性腫瘤を形成し,進行すると肝腫大により腹痛,肝機能障害,黄疸などが現れる.さらに進行して胆道,脈管などに浸潤すると,閉塞性黄疸や病巣感染を起こして重篤になる.肝肺瘻となると胆汁喀出,咳が認められ,病巣が脳に拡大すれば意識障害や痙攣発作などを呈するようになる.肝の多包性エキノコックス症は超音波検査(図9-14-2A),CT検査(図9-14-2B,C),MRI検査(図9-14-2D)による画像診断が診断のきっかけになる.図9-14-2に示すように,石灰化を伴う多房性の腫瘤性病変が診断された場合に,疾患の地域性も含めて,免疫血清学的検査(ELISA法,ウェスタンブロット法など)により陽性となったとき,本症と診断される.確定的な診断は,手術材料から包虫を検出することによる.
治療
外科的切除が唯一の根治的治療法であり,切除できる症例の予後は良好であるが,進行病巣の完全切除は困難なことがある.切除不能例にはアルベンダゾール10~15 mg/kg,分3,28日投与,14日休薬で経口投与するが効果は十分ではない.したがって,感染予防が大切である.[田中正俊]
■文献
前田健一,下松谷匠,他:肝吸虫症に合併した胆管癌の1例.日臨外会誌,70: 1481-1485, 2009.
中島 収,渡辺次郎,他:肝の凝固壊死を呈する肉芽性結節に関する臨床病理学的研究.肝臓,35: 527-535, 1997.
佐藤 公,他:日本住血吸虫症合併肝細胞癌におけるHCV抗体の検討.Clinical Parasitology, 2: 71-72, 1991.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報