六訂版 家庭医学大全科 「肝吸虫症」の解説
肝吸虫症
かんきゅうちゅうしょう
Clonorchiasis
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)
どんな病気か
肝吸虫症は、肝吸虫のメタセルカリアが寄生しているコイ、フナ、モツゴなどの淡水魚の刺身を食べたり、加熱処理が不十分な場合に感染する疾患です。腹部症状や肝機能障害が現れ、慢性感染例では胆管細胞がんが合併することもあります。
肝吸虫は、韓国、台湾、中国大陸に広く
原因は何か
肝吸虫は胆管や
虫体が胆管を閉塞すると胆汁うっ滞が生じます。また、虫体自体によって胆管炎が引き起こされます。慢性化した症例では、虫体の胆管内寄生による機械的障害や虫体の代謝産物、細菌感染などによる胆管炎などが関係し、
また、胆管はさまざまなレベルで拡張や肥厚を呈します(図14)。拡張した胆肝内には多数の成虫が認められるようになります。
症状の現れ方
症状は、腹部不快感、食欲不振、下痢、肝腫大などの消化器症状がみられ、肝硬変になると
これらの症状は肝内胆管内に寄生している虫体の数、感染の期間などに関係します。日本では、ほとんどが軽症の肝吸虫症であり、多くの症例は無症状に経過します。ほかのアジアの汚染地域に比べて、肝悪性腫瘍が合併する頻度は低く、まれです。
検査と診断
診断は、糞便あるいは胆汁中の虫卵の検出によってなされます。また、肝吸虫特異抗体を検出する免疫血清学的診断も有用です。
血液生化学検査では、好酸球増多、トランスアミナーゼ、ビリルビンの上昇がみられることがあります。
エコー、CT、逆行性膵胆管造影などの画像検査で、肝内胆管の拡張像や異常がみられることがあります。
治療の方法
第一選択薬は、吸虫駆除薬のプラジカンテルです。効果判定のため、虫卵検査を行います。
肝硬変にまで進展した場合には、肝硬変に対する治療を行います。
鹿毛 政義
肝吸虫症(肝ジストマ症)
かんきゅうちゅうしょう(かんジストマしょう)
Clonorchiasis (Hepatic distomiasis)
(感染症)
どんな感染症か
肝吸虫という寄生虫が肝臓の胆管に寄生する病気で、全国各地で報告されています。肝吸虫の幼虫は、淡水にすむ魚のうろこや筋肉に寄生していて、幼虫をもつ淡水魚を生で食べると感染します。
幼虫は直径約0.1㎜の球形で、肉眼では見えません。成虫は体長が1~2㎝で、笹の葉のような形をしています。
症状の現れ方
肝吸虫の幼虫を飲み込むと、約1カ月で成虫になります。成虫は胆管に寄生し、産卵します。そのため、肝臓から胆汁が流れにくくなり、肝臓で炎症が起こります。
主な症状としては、だるさを感じたり、下痢を起こしたりします。胆管のなかで多数の虫卵が固まって胆石ができることもあります。成虫は20年以上生きるので、治療しないと慢性化します。肝吸虫症が進行すると、腹水や
検査と診断
便のなかから虫卵を検出します。また、血清検査も有効です。一般に、肝臓の超音波検査などで胆管に異常が見つかり、肝吸虫症とわかることが多いようです。
治療の方法
特効薬は、抗寄生虫薬のプラジカンテル(ビルトリシド)です。肝硬変にまで進行した場合には、肝硬変に対する治療を行いますが、予後は不良です。
病気に気づいたらどうする
肝吸虫症に特有の症状はないので、感染しても気づかない場合がほとんどです。そのため予防が大切です。
肝吸虫は、とくにコイ科のモツゴに高率に寄生しています。また、フナやコイ、タナゴ、ワカサギにも寄生します。これらの淡水魚を生で食べないことが大切です。
奈良 武司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報