内科学 第10版 「肝吸虫症」の解説
肝吸虫症(胆道寄生虫症)
病態生理
十二指腸で脱囊した幼虫がVater乳頭部から胆道系へ到達する.主に肝内胆管に寄生するが,ときに胆囊,膵管にも寄生することがある.多数かつ10~20年におよぶ長期感染により胆道系に炎症・増殖性病変をきたし,胆汁うっ滞性肝障害を惹起する.
臨床症状
無症状のことが多い.まれに腹部膨満,食欲不振,下痢など消化器症状を訴える.
検査成績
好酸球数増加,血清IgE高値,肝・胆道系酵素値上昇を呈する.
診断
検便や胆汁中の虫卵の確認を行う(寄生数が少ない場合は確認不能).腹部超音波により,虫体(10~25×3~5 mm)の確認ができることがある.肝生検により肝内胆管枝の成虫断面の確認,ERCにより胆管炎性変化(硬化,蛇行,狭窄など),虫体による陰影欠損像を呈する.腹腔鏡検査では黄白色斑状変化,胆管拡張所見が認められる.
経過・予後
多数の寄生により胆道炎を惹起し,慢性化すると肝硬変となる.
治療・予防
プラジカンテル内服.1回20~40 mg/kg/日,1日2回,3日間,あるいは1回75mg/kg/日,1日3回,1日間とする.治療後は少なくとも3回の検便を行い,無効例には改めて治療を試みる.駆虫後の便より虫体が得られることもある.[河上 洋]
■文献
生田修三,水口泰宏,他:駆虫剤の経皮経肝的胆囊内注入が有用であった胆囊内回虫迷入症の1例.日消誌,107: 768-774,2010.
大前比呂思,千種雄一:肝外胆道寄生虫症.別冊日本臨牀 肝胆道系症候群(Ⅲ 肝外胆道編),第2版(井廻道夫,他編集),pp489-496,日本臨牀社,東京,2011.所 正治:寄生虫性肝胆系疾患.肝胆膵,57: 565-570,2008.
肝吸虫症(寄生虫による肝疾患)
肝吸虫はメタセルカリアの感染した中間宿主である淡水魚を生食することで感染し,腸管で幼虫となり,逆行して肝内胆管に至り成虫となり,ヒトをはじめ種々の動物(終宿主)の肝内胆管や胆囊に寄生する.かつては,日本各地に分布していたが,いまは流行地(八郎潟,利根川流域,琵琶湖周辺,岡山県児島湾周辺,吉野川流域,筑後川流域)を含め激減している.感染すると虫体や虫卵が胆管枝に塞栓するので機械的な胆汁うっ滞や,繰り返す細菌感染による炎症により胆管炎を起こし,重症例では肝硬変やまれに胆管癌を合併する(前田ら,2009).
臨床症状・診断
腹部不快感,腹痛,発熱,倦怠感などの症状があり,感染が重症(感染数が500~1000匹以上)であれば黄疸も出現する.しかしわが国ではメタセルカリアの少ないコイやフナなどで感染するので症状も軽く,多くの症例が無症状で,剖検でわかることも多い.肝硬変に至る症例はきわめて少ない.
治療
プラジカンテル40 mg/kg,分2,2日間,経口投与が有効である.[田中正俊]
■文献
前田健一,下松谷匠,他:肝吸虫症に合併した胆管癌の1例.日臨外会誌,70: 1481-1485, 2009.
中島 収,渡辺次郎,他:肝の凝固壊死を呈する肉芽性結節に関する臨床病理学的研究.肝臓,35: 527-535, 1997.
佐藤 公,他:日本住血吸虫症合併肝細胞癌におけるHCV抗体の検討.Clinical Parasitology, 2: 71-72, 1991.
肝吸虫症(吸虫症)
肝吸虫(Clonorchis sinensis)による感染症であり,日本を含む東アジア一帯に広く分布する.タイ,ラオス,マレーシアなどにはタイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)が濃厚に分布しており,本疾患との区別は困難である.
病因・感染経路
第二中間宿主であるコイ科の淡水魚であるモツゴ,モロコ,フナなどの鱗もしくは筋肉内にメタセルカリアが生息しており,これらを経口摂取することで感染する.
臨床症状
少数の寄生では無症状に経過するが,胆管内の多数寄生の場合には腹痛,肝腫大,下痢,上腹部痛などを生じる.場合によっては胆汁うっ滞から肝硬変を生じ,黄疸,腹水,浮腫などを引き起こす.
診断・治療
糞便もしくは胆汁液から虫卵を検出することで診断するほか,血清診断も補助診断として有効である.腹部CT,MRCP,腹部エコー検査では不整形に肝内胆管の拡張を認める.治療はプラジカンテルの投与を行う.[前田卓哉]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報