肝吸虫症
かんきゅうちゅうしょう
Clonorchiasis
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)
肝吸虫症は、肝吸虫のメタセルカリアが寄生しているコイ、フナ、モツゴなどの淡水魚の刺身を食べたり、加熱処理が不十分な場合に感染する疾患です。腹部症状や肝機能障害が現れ、慢性感染例では胆管細胞がんが合併することもあります。
肝吸虫は、韓国、台湾、中国大陸に広く棲息し、日本では、八郎潟、岡山県の児島湾沿岸、琵琶湖湖畔、九州の筑後川流域に広く分布しています。
肝吸虫は胆管や胆嚢に寄生し、虫卵は胆汁とともに腸管に排泄されます。糞便に排泄された虫卵は、第1中間宿主のマメタニシに摂食され、体内でセルカリアに成長し、さらに第2中間宿主の淡水魚に入り、メタセルカリアとなります。メタセルカリアは、ヒトの腸管で幼虫となり、逆行して肝内胆管に至り成虫となります。
虫体が胆管を閉塞すると胆汁うっ滞が生じます。また、虫体自体によって胆管炎が引き起こされます。慢性化した症例では、虫体の胆管内寄生による機械的障害や虫体の代謝産物、細菌感染などによる胆管炎などが関係し、肝硬変に進展します。病理学的には肝表面は凹凸不整で大小不同の粗大顆粒となります。
また、胆管はさまざまなレベルで拡張や肥厚を呈します(図14)。拡張した胆肝内には多数の成虫が認められるようになります。
症状は、腹部不快感、食欲不振、下痢、肝腫大などの消化器症状がみられ、肝硬変になると黄疸、浮腫、腹水、脾腫が生じます。
これらの症状は肝内胆管内に寄生している虫体の数、感染の期間などに関係します。日本では、ほとんどが軽症の肝吸虫症であり、多くの症例は無症状に経過します。ほかのアジアの汚染地域に比べて、肝悪性腫瘍が合併する頻度は低く、まれです。
診断は、糞便あるいは胆汁中の虫卵の検出によってなされます。また、肝吸虫特異抗体を検出する免疫血清学的診断も有用です。
血液生化学検査では、好酸球増多、トランスアミナーゼ、ビリルビンの上昇がみられることがあります。
エコー、CT、逆行性膵胆管造影などの画像検査で、肝内胆管の拡張像や異常がみられることがあります。
第一選択薬は、吸虫駆除薬のプラジカンテルです。効果判定のため、虫卵検査を行います。
肝硬変にまで進展した場合には、肝硬変に対する治療を行います。
鹿毛 政義
肝吸虫症(肝ジストマ症)
かんきゅうちゅうしょう(かんジストマしょう)
Clonorchiasis (Hepatic distomiasis)
(感染症)
肝吸虫という寄生虫が肝臓の胆管に寄生する病気で、全国各地で報告されています。肝吸虫の幼虫は、淡水にすむ魚のうろこや筋肉に寄生していて、幼虫をもつ淡水魚を生で食べると感染します。
幼虫は直径約0.1㎜の球形で、肉眼では見えません。成虫は体長が1~2㎝で、笹の葉のような形をしています。
肝吸虫の幼虫を飲み込むと、約1カ月で成虫になります。成虫は胆管に寄生し、産卵します。そのため、肝臓から胆汁が流れにくくなり、肝臓で炎症が起こります。
主な症状としては、だるさを感じたり、下痢を起こしたりします。胆管のなかで多数の虫卵が固まって胆石ができることもあります。成虫は20年以上生きるので、治療しないと慢性化します。肝吸虫症が進行すると、腹水や黄疸の症状が出て、いわゆる肝硬変に移行します。
便のなかから虫卵を検出します。また、血清検査も有効です。一般に、肝臓の超音波検査などで胆管に異常が見つかり、肝吸虫症とわかることが多いようです。
特効薬は、抗寄生虫薬のプラジカンテル(ビルトリシド)です。肝硬変にまで進行した場合には、肝硬変に対する治療を行いますが、予後は不良です。
肝吸虫症に特有の症状はないので、感染しても気づかない場合がほとんどです。そのため予防が大切です。
肝吸虫は、とくにコイ科のモツゴに高率に寄生しています。また、フナやコイ、タナゴ、ワカサギにも寄生します。これらの淡水魚を生で食べないことが大切です。
奈良 武司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
肝吸虫症(胆道寄生虫症)
(2)肝吸虫症【⇨4-17-3)】
病態生理
十二指腸で脱囊した幼虫がVater乳頭部から胆道系へ到達する.主に肝内胆管に寄生するが,ときに胆囊,膵管にも寄生することがある.多数かつ10~20年におよぶ長期感染により胆道系に炎症・増殖性病変をきたし,胆汁うっ滞性肝障害を惹起する.
臨床症状
無症状のことが多い.まれに腹部膨満,食欲不振,下痢など消化器症状を訴える.
検査成績
好酸球数増加,血清IgE高値,肝・胆道系酵素値上昇を呈する.
診断
検便や胆汁中の虫卵の確認を行う(寄生数が少ない場合は確認不能).腹部超音波により,虫体(10~25×3~5 mm)の確認ができることがある.肝生検により肝内胆管枝の成虫断面の確認,ERCにより胆管炎性変化(硬化,蛇行,狭窄など),虫体による陰影欠損像を呈する.腹腔鏡検査では黄白色斑状変化,胆管拡張所見が認められる.
経過・予後
多数の寄生により胆道炎を惹起し,慢性化すると肝硬変となる.
治療・予防
プラジカンテル内服.1回20~40 mg/kg/日,1日2回,3日間,あるいは1回75mg/kg/日,1日3回,1日間とする.治療後は少なくとも3回の検便を行い,無効例には改めて治療を試みる.駆虫後の便より虫体が得られることもある.[河上 洋]
■文献
生田修三,水口泰宏,他:駆虫剤の経皮経肝的胆囊内注入が有用であった胆囊内回虫迷入症の1例.日消誌,107: 768-774,2010.
大前比呂思,千種雄一:肝外胆道寄生虫症.別冊日本臨牀 肝胆道系症候群(Ⅲ 肝外胆道編),第2版(井廻道夫,他編集),pp489-496,日本臨牀社,東京,2011.所 正治:寄生虫性肝胆系疾患.肝胆膵,57: 565-570,2008.
肝吸虫症(寄生虫による肝疾患)
定義・概念・病因・疫学
肝吸虫はメタセルカリアの感染した中間宿主である淡水魚を生食することで感染し,腸管で幼虫となり,逆行して肝内胆管に至り成虫となり,ヒトをはじめ種々の動物(終宿主)の肝内胆管や胆囊に寄生する.かつては,日本各地に分布していたが,いまは流行地(八郎潟,利根川流域,琵琶湖周辺,岡山県児島湾周辺,吉野川流域,筑後川流域)を含め激減している.感染すると虫体や虫卵が胆管枝に塞栓するので機械的な胆汁うっ滞や,繰り返す細菌感染による炎症により胆管炎を起こし,重症例では肝硬変やまれに胆管癌を合併する(前田ら,2009).
臨床症状・診断
腹部不快感,腹痛,発熱,倦怠感などの症状があり,感染が重症(感染数が500~1000匹以上)であれば黄疸も出現する.しかしわが国ではメタセルカリアの少ないコイやフナなどで感染するので症状も軽く,多くの症例が無症状で,剖検でわかることも多い.肝硬変に至る症例はきわめて少ない.
治療
プラジカンテル40 mg/kg,分2,2日間,経口投与が有効である.[田中正俊]
■文献
前田健一,下松谷匠,他:肝吸虫症に合併した胆管癌の1例.日臨外会誌,70: 1481-1485, 2009.
中島 収,渡辺次郎,他:肝の凝固壊死を呈する肉芽性結節に関する臨床病理学的研究.肝臓,35: 527-535, 1997.
佐藤 公,他:日本住血吸虫症合併肝細胞癌におけるHCV抗体の検討.Clinical Parasitology, 2: 71-72, 1991.
肝吸虫症(吸虫症)
概念
肝吸虫(Clonorchis sinensis)による感染症であり,日本を含む東アジア一帯に広く分布する.タイ,ラオス,マレーシアなどにはタイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)が濃厚に分布しており,本疾患との区別は困難である.
病因・感染経路
第二中間宿主であるコイ科の淡水魚であるモツゴ,モロコ,フナなどの鱗もしくは筋肉内にメタセルカリアが生息しており,これらを経口摂取することで感染する.
臨床症状
少数の寄生では無症状に経過するが,胆管内の多数寄生の場合には腹痛,肝腫大,下痢,上腹部痛などを生じる.場合によっては胆汁うっ滞から肝硬変を生じ,黄疸,腹水,浮腫などを引き起こす.
診断・治療
糞便もしくは胆汁液から虫卵を検出することで診断するほか,血清診断も補助診断として有効である.腹部CT,MRCP,腹部エコー検査では不整形に肝内胆管の拡張を認める.治療はプラジカンテルの投与を行う.[前田卓哉]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
かんきゅうちゅうしょう【肝吸虫症 Clonorchiosis】
[どんな病気か]
モロコ、タナゴ、フナなど、コイ科の川魚についているメタセルカリアといわれる幼虫(被嚢幼虫(ひのうようちゅう)といいます)を生食あるいは加熱不十分のまま摂取することで感染します。成虫は胆管枝(たんかんし)や胆嚢(たんのう)に寄生します。
[症状]
少数の寄生では無症状ですが、多数が寄生すると下痢(げり)、肝腫大(かんしゅだい)(肝臓の腫(は)れ)、好酸球(こうさんきゅう)(白血球(はっけっきゅう)の一種)の増加などの症状がみられます。
慢性化すると、腹水(ふくすい)がたまったり、浮腫(ふしゅ)(むくみ)や貧血(ひんけつ)をおこし、肝硬変(かんこうへん)や脾腫(ひしゅ)になります。
糞便(ふんべん)か胆汁(たんじゅう)を採取して検査し、虫卵が見つかれば診断がつきます。
[治療]
プラジカンテルを3日間内服します。また、川魚はよく火をとおすことが予防となります。
出典 小学館家庭医学館について 情報
肝吸虫症
肝ジストマ症ともいう.肝吸虫[Clonorchis sinensis]の胆管への感染で,胆管の炎症,胆汁の流出障害,腹部膨満感などを引き起こす.
出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報