内科学 第10版 「肺寄生虫症」の解説
肺寄生虫症(感染症)
肺吸虫症(paragonimiasis)【⇨4-17-2)も参照】
ウェステルマン肺吸虫(図7-2-18)と宮崎肺吸虫が知られており,第2中間宿主であるサワガニやモクズガニ,待機宿主であるイノシシの肉を経口摂取することで感染する.摂取された幼虫(メタセルカリア)は小腸内で脱囊し,腸管壁を貫通して腹腔内に出たのち,いったん腹腔内の筋肉内に穿入する.そこで発育後,腹腔内から横隔膜を穿通して胸腔内に侵入し,臓側胸膜を貫いて肺実質内へ侵入して成虫となり周囲に囊胞を形成する.
咳,血痰,胸痛などの症状,好酸球増加を認め,胸部画像では浸潤影,結節,空洞影のほか,胸水貯留や気胸を認めることがある.診断は痰,便,気管支洗浄液,生検検体中に虫卵を証明するか,血清学的に抗体陽性を証明すること(ELISA法,Ouchterlony法など)でなされる.治療としてプラジカンテルの内服が有効である.
(2)トキソカラなどの内臓幼虫移行症(visceral larva migrans)
トキソカラ(イヌ回虫(図7-2-18)またはネコ回虫),ブタ回虫など動物由来の回虫類による幼虫移行症は,いずれも感染経路や臨床症状が類似しており,経口摂取した幼虫包蔵卵が小腸で孵化し,幼虫は腸管粘膜から門脈を経て肝,肺および全身に移行してさまざまな症状,画像所見を呈する.以前は砂場で遊ぶ子供が経口摂取して生じる例が問題となったが,近年ではペット愛好家による固有宿主との接近,有機野菜流通の増加,グルメブームによる待機宿主の肉の生食により成人発症例が頻発している.
診断は血清学的な抗体検出が主体である.イヌ回虫症では約半数で肺病変や呼吸器症状を認め,好酸球増多,Löffler症候群,肺野の多発性小結節病変などを呈する.胸部画像において,短期間に移動もしくは消失と出現を繰り返す結節状陰影,なかでもCTにてハローサイン(halo sign)を呈する結節影(図7-2-19)をみた場合は,本症を念頭においた血清寄生虫抗体のスクリーニング検査が勧められる.治療としては,アルベンダゾールが第一選択薬として用いられている.[石井 寛・門田淳一]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報