改訂新版 世界大百科事典 「サワガニ」の意味・わかりやすい解説
サワガニ (沢蟹)
Geothelphusa dehaani
谷川の清流にすむ甲殻綱サワガニ科のカニで,日本固有種。本州,四国,九州に生息する唯一の純淡水産のカニで,南限は屋久島である。近年ではペットとしても人気があるほか,空揚げにしたり甘辛く煮て食用とされる。生息場所によって色彩は必ずしも一定していないが,濃紫褐色,茶褐色,淡青色が基本3型とされる。これらの色彩型の一般的な分布には地域性が認められることが多いが,分類学的には同種として扱われている。甲幅2.5cmほどの丸みのある四角形で,甲の前側縁がやや張り出し,鰓室(さいしつ)の容量が大きい。眼窩(がんか),外歯に続いて甲の前側縁に小さな切れ込みがある。はさみ脚は雄では左右で大きさが異なり,右側が大きい個体が多い。雄でははさみの両方の指を合わせたときに広い隙間ができるが,雌と小型の雄では両指はかみ合う。卵は直径3~4mmと大きく,すべての幼生期を卵内で過ごしてから稚ガニとして孵化(ふか)する。海のカニが数万~数十万の卵を産み,ゾエア,メガロパという幼生期をもつのとは対照的で,幼生をもつ間接発生から幼生をもたない直接発生へという繁殖型の変化は,エビ類におけるザリガニ類と同様に淡水生活への明らかな適応である。奄美大島以南の琉球列島では,ごく近縁のリュウキュウサワガニG.obtusipesなど3属12種の淡水産のカニ類が知られているが,サワガニ科は7種で,他はミナミサワガニ科3種とヤマガニ科2種である。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報