扁形(へんけい)動物門吸虫綱二生(にせい)亜綱住胞吸虫科Paragonimus属の寄生虫の総称。肺臓ジストマともいう。いろいろな哺乳(ほにゅう)類の肺に寄生し、世界中に約30種が知られる。そのうち、日本に分布してヒトに寄生する種類はウェステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫の2種である。
ウェステルマン肺吸虫Paragonimus westermaniは、体は赤褐色で肉厚、長さ7~16ミリメートル、幅4~8ミリメートル、厚さ3~6ミリメートル、体表には小さな棘(とげ)が生えている。腹吸盤は口吸盤とほぼ同じ大きさで、体の中央よりやや前方に位置する。ヒト、ブタ、イヌ、キツネ、ネコ、トラなどの肺に袋をつくり、その中に二匹入っているのが普通で、日本、朝鮮半島、中国、台湾、フィリピン、インドネシア、タイなどに分布する。卵は痰(たん)や糞便(ふんべん)に現れる。ヒト以外の動物では痰が吐き出されずに飲み込まれるので、卵は糞便とともに排出される。水中で卵から孵化(ふか)した幼虫のミラシジウムは第一中間宿主のカワニナに侵入して、その体内でスポロシスト幼虫、レジア幼虫と発育し、多数のセルカリア幼虫を生じる。セルカリアはカワニナから第二中間宿主のモクズガニやサワガニなどに侵入し、筋肉やえらの血管内で袋に包まれてメタセルカリア幼虫になる。固有宿主はこのようなカニを食して感染する。また、カニ汁を調理する際、カニから飛散したメタセルカリアが調理器具に付着して、これから感染することも多い。イノシシのような非固有宿主がカニを食べると、幼虫はイノシシの肺で成虫にならずに筋肉内にとどまっている。このようなイノシシ肉の生食から肺吸虫に感染する例もある。固有宿主体内に入ったメタセルカリアは小腸内で袋から脱出する。幼虫は腸壁を穿通(せんつう)して腹腔(ふくこう)に出、腹壁筋肉内に侵入して一定の発育ののち、ふたたび腹腔に出、横隔膜を貫いて胸腔に至り、肺肋膜(ろくまく)面から肺に入る。成虫が肺で産卵を始めるのは感染60~80日後である。ヒトでは肺に成虫が寄生すると、咳(せき)や暗褐色の血痰が出る。また、幼虫はいろいろな臓器組織に迷入することが知られ、脳に迷入すれば頭痛、嘔吐(おうと)、てんかん様発作、運動麻痺(まひ)などをおこす。日本ではこのような脳肺吸虫症が100例以上報告されている。
宮崎肺吸虫P. miyazakiiは、成虫はウェステルマン肺吸虫に似ており、イタチ、イノシシ、イヌ、ネコ、タヌキなどの肺に寄生する。日本のみに分布。第一中間宿主はホラアナミジンニナとミジンツボ、第二中間宿主はサワガニで、メタセルカリアはカニの心臓付近に寄生していることが多い。ヒトは宮崎肺吸虫の好適宿主ではないので、ヒトが感染サワガニを食うと、肺吸虫は幼虫のまま肺に入ったり、あるいは胸腔に出たりして移動する。したがって、ウェステルマン肺吸虫症のような咳や血痰はみられず、好酸球増多を伴った気胸、胸水貯留、胸膜炎などをおこす。
これらの予防には、感染源となるモクズガニやサワガニあるいはイノシシ肉の生食を避けることが第一である。
[町田昌昭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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