胃・十二指腸憩室

内科学 第10版 「胃・十二指腸憩室」の解説

胃・十二指腸憩室(胃・十二指腸疾患)

概念
 胃・十二指腸憩室は,胃や十二指腸の壁の一部が限局性に囊状に拡張・突出したものである.消化管憩室のなかでは,大腸憩室(colon diverticulum)や十二指腸憩室(duodenal diverticulum)の頻度が比較的高い.
病因
 一般に,消化管憩室は発生時期により先天性憩室と後天性憩室に分類される.また,組織学的所見に基づき,筋層を伴う真性憩室と筋層を欠く仮性憩室に分けられる.成因として内圧亢進に伴う圧出性憩室と,周囲癒着などによる牽引性憩室に分類される.胃憩室の多くは後天性であり,真性憩室である.十二指腸憩室は管腔外型と極めてまれな管腔内型に分類される.通常みられる管腔外型憩室は圧出性憩室である.【⇨8-8】
病態
 上部消化管憩室のなかでは,十二指腸や食道と比較して胃憩室の頻度はかなり少ない.胃憩室は噴門部に好発し,幽門前庭部に発生することはまれである.噴門部憩室の原因は局所的な筋層の脆弱性による圧出であることが多く,幽門部憩室の原因は胆囊膵臓などの周辺臓器の炎症・癒着による牽引であることが多い.幽門前庭部にみられる迷入膵により陥凹形成することもある.十二指腸憩室は,ほかの消化管と比較して頻度が高い.十二指腸憩室の発生原因については明らかではないが,十二指腸壁の脆弱部において蠕動収縮を繰り返した結果生じるものと考えられる.十二指腸憩室の好発部位は十二指腸下行脚の内側に圧倒的に多く,特にVater乳頭部に多くみられる.ついで水平脚に認める.十二指腸下行脚の内側,Vater乳頭部は発生学的に腹側膵と背側膵が融合するため腸管壁が脆弱であることが,十二指腸憩室が好発する原因であると推察されている.
臨床症状
 胃憩室は一般に無症状である.ときに心窩部痛,悪心の原因となる場合もある.潰瘍,憩室炎,憩室穿孔などの合併症も報告されている.十二指腸憩室は一般に無症状であるが,ときに上腹部痛の原因となる.傍乳頭憩室は解剖学的に胆管膵管の走行に隣接するため,ときに胆汁膵液の排出障害をきたし,慢性胆汁うっ滞や膵炎を併発することがある(Lemmel症候群).憩室炎や,憩室出血,カプセル内視鏡の滞留などの報告もある.
検査成績
 無症状であることが多いため,上部消化管造影検査や上部消化管内視鏡で偶然発見されることが多い.上部消化管造影検査では,胃や十二指腸に辺縁平滑で円形あるいは卵円形の突出像として描出される.上部消化管内視鏡では,周辺粘膜と同様の粘膜で覆われた円形,卵円形の陥凹部として描出される.
鑑別診断
 上部消化管造影検査にて胃潰瘍を胃憩室と誤診しないよう注意すべきである.上部内視鏡検査では,通常診断は容易である,胃憩室や十二指腸憩室に憩室炎や憩室出血などの合併症を伴った場合には,同疾患を念頭においた慎重な診断が必要である.
経過・予後
 胃憩室の予後は一般に良好であり,通常は治療対象とならない.外科手術を含めた治療を検討すべきものとし,悪性疾患の合併,幽門狭窄,憩室内潰瘍,憩室穿孔の可能性などがあげられる.十二指腸憩室も大部分が無症状であり,治療対象にならない.十二指腸閉塞,胆管や膵管の閉塞,憩室炎,憩室穿孔などの合併症は治療対象となる.おもに外科治療であるが,十二指腸憩室圧排による総胆管閉塞に対する内視鏡的ステント挿入や,十二指腸憩室出血に対する内視鏡治療も報告されている.[喜多宏人]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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