胆囊(読み)たんのう(英語表記)gallbladder

改訂新版 世界大百科事典 「胆囊」の意味・わかりやすい解説

胆囊 (たんのう)
gallbladder

肝臓でつくられた胆汁を一時蓄えておく役目をする囊で,発生的には(輸)胆管壁の膨出として生じ,胆囊管により総胆管に開く。脊椎動物全般にみられるものだが,ヤツメウナギや鳥類,哺乳類のなかには胆囊を欠くものもある。ヒトでは肝臓の下面,胆囊窩(か)と呼ばれるくぼみに接着し,セイヨウナシ形をしている。長さ7~9cm,幅2~3cm,容量30~50ml。頸部,体部,底部に分けられ,頸部は,らせん状のハイスター弁と呼ばれる弁状構造を示す粘膜皺襞(しゆうへき)をもつ胆囊管に接続している。胆囊壁は粘膜,平滑筋層および漿膜からなり,うすく弾力性に富み,内腔面に多くの粘膜皺襞があり,胆道の内圧によりかなり拡張する。この胆囊粘膜が炎症などに付随して胆囊壁内の筋層あるいは漿膜下組織に偽憩室状に入り込んで洞状になったものをロキタンスキー=アショッフ洞と呼ぶ。胆囊壁内胆石あるいは胆囊炎の原因となりうる。

機能的には胆囊は,毎日肝臓でつくられ,肝胆汁として排出される胆汁のおおよそ1/2くらいの量を蓄え,放出を調節している。しかし,胆囊をもたない動物も多く,またヒトの場合も,胆石などが存在すれば積極的に胆囊摘出術が行われており,胆囊は生体にとって必要不可欠の臓器ではない。胆囊内に入った胆汁は,その壁からの吸収により1/5~1/10に濃縮される。水分のほか,ナトリウム,カリウム塩素などの塩類も吸収されるが,コレステロール胆汁色素(大部分がビリルビン)は正常の状態では吸収されない。抱合胆汁酸もほとんど吸収されないとされている。しかし,細菌感染などによりビリルビンや胆汁酸が脱抱合されると,胆囊壁から吸収されやすくなる。他方,壁からは粘液の分泌などが行われるため,胆囊胆汁の粘稠度は高くなる。

 食事を摂取すると胆囊は収縮し,胆汁を十二指腸へ送り出す。この仕組みは,食物中に含まれるある種のアミノ酸,脂肪酸の刺激により十二指腸あるいは空腸上部の腸管壁からコレシストキニンCCK)という消化管ホルモンが分泌され,これが直接胆囊壁の平滑筋に作用して収縮をおこすことによる。もっとも,胆囊は空腹時においても一定のリズムで軽い収縮と拡張を繰り返していることも知られており,この仕組みはまだ完全に解明されてはいない。しかし,モチリンmotilinという消化管ホルモンの関与が示唆されている。

正常の胆囊が腹壁の外から触れることはまずない。もし痛みを伴わないで腫大した軟らかい胆囊が触れる場合には,胆管の出口が癌などにより完全に閉塞された可能性が大であり,クールボアジエ徴候Courvoisier's signとして,古くから医師の間で重要視されている所見である。痛みを伴って触知する場合には,胆囊炎などの病気が考えられる。また胆囊頸部などで閉塞される状態がつづくと胆囊水腫をきたし,この場合も体外から球状で平滑な胆囊を触れることができる。

 胆囊の働きや病気を調べる方法としては,かつては造影剤を使用してのX線検査が主として行われてきたが,最近は被検者に負担の少ない超音波による検査法が広く用いられるようになり,大きな成果をあげている。

 胆囊の病気として最も多いものは胆石であり,そのほか胆囊癌,胆囊炎などが問題となるが,癌や炎症の多くは胆石に合併しておこることが多いので,胆囊の病気の中心は胆石症といえる。胆囊にみられる胆石の種類はコレステロール胆石,胆汁色素胆石,脂肪酸カルシウム石,炭酸カルシウム石などであるが,最も頻度の高いものはコレステロール胆石である。そして,この胆石はほとんど胆囊の中でのみ形成され,胆汁色素胆石などが胆管においても形成されることと対照的に,その形成には胆囊が必要であることが定説となっている。すなわち,肝臓でつくられたコレステロールを相対的に多く含んだ胆汁が胆囊内に流れ込むことが最も重要ではあるが,これのみではコレステロール胆石は形成されず,胆囊の収縮力の低下,胆汁の鬱滞(うつたい),粘液物質などの増加などが必要である。他方,正常のヒトの胆汁中のある種のタンパク質は,胆石の形成を抑制しているらしい。胆汁色素胆石のなかで,カルシウムを多く含むビリルビンカルシウム石の原因としては,胆汁の細菌感染や胆汁鬱滞があげられている。

 そのほか胆囊におこる病気として,先天性胆囊欠損症,二重胆囊などがまれに報告されている。胆囊の形の異常は比較的しばしばみられるが,他の合併症を伴わないかぎり,病気として取り扱われないことが多い。
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