脂漏性皮膚炎

EBM 正しい治療がわかる本 「脂漏性皮膚炎」の解説

脂漏性皮膚炎

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 顔面、頭部、わきの下、陰部(いんぶ)など皮脂(ひし)の分泌(ぶんぴつ)が盛んな場所によくみられる病気です。皮膚が赤くなり、細かく皮がむけます。新生児や乳児では、頭、まゆ、ほおなどに黄白色のかさぶた状のものができます。思春期以降では、頭ではフケ、顔では細かいアカ状のもの(鱗屑(りんせつ))がでます。成人の頭部のフケも脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)の症状の一つです。かゆみを伴うこともしばしばあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 フケや鱗屑など脂漏性皮膚炎の代表的な症状は、表皮のターンオーバー、つまり、古い細胞と新しい細胞が入れ替わる代謝のサイクルが非常に速まることで発症すると考えられています。
 皮脂の分泌が多い箇所が、皮膚に常にいる菌(皮膚常在菌)によって刺激を受けることで炎症が引きおこされ、次々、細胞が傷つき死んでいき、さらに再生されるというサイクルがくり返されることになります。
 最近ではカビ(真菌(しんきん))の一種であるマセラチアが強く関係しているのではないかとの指摘があります。
 これは皮脂の多い部分を好んで住んでいる真菌ですが、皮膚に炎症をおこさせる作用が強いことが知られています。さらに、分泌される皮脂の成分が変化することも症状を悪化させます。
 唐辛子(とうがらし)やわさびなど刺激性の強い食べ物を好む人もこの病気になりやすいとされていますが、それはこれらの食物が、皮脂の過酸化を促進するためで、ビタミンB2・B6の不足も同じ影響を与えるといわれています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

治療とケア]抗真菌薬入りシャンプーを用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 頭皮を抗真菌薬入りの薬用シャンプーで洗うと、脂漏性皮膚炎の症状を抑えるということは、いくつかの非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。わが国ではイミダゾール系抗真菌薬(硝酸ミコナゾール配合のシャンプーとして、持田製薬の「コラージュフルフル」とロート製薬の「メディクイックH 頭皮のメディカルシャンプー」が医薬部外品として発売されています。(1)~(6)

[治療とケア]外用の抗真菌薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 外用の抗真菌薬の有効性が、いくつかの非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。(2)(3)(6)

[治療とケア]外用の弱い副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬(やく)を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 弱い副腎皮質ステロイド薬外用薬が脂漏性皮膚炎に効果があることが、非常に信頼性の高い臨床研究で確かめられています。(7)~(10)


よく使われている薬をEBMでチェック

外用抗真菌薬
薬名]ニゾラール(ケトコナゾール)(2)(3)(6)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 外用の抗真菌薬の治療効果は、非常に信頼性の高い臨床研究によって確かめられています。

弱い副腎皮質ステロイド薬の外用
[薬名]フルコート(フルオシノロンアセトニド)(7)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]デルモベート(クロベタゾールプロピオン酸エステル)(8)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 弱い副腎皮質ステロイド薬の外用薬が脂漏性皮膚炎に効果があることは、非常に信頼性の高い臨床研究で確認されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
塗り薬をうまく組み合わせる
 皮膚の分泌機能に異常がおきる、皮脂の成分が変化する、さらに常在菌の刺激が加わるというこの病気の成り立ちからいって、抗真菌薬と炎症を抑える薬をうまく使い分ける必要があります。
 まずは抗真菌薬のニゾラール(ケトコナゾール)を用いて外用治療を行います。それだけで炎症がおさまらない場合は、副腎皮質ステロイド薬の外用治療を行うこともあります。いずれの治療効果についても臨床研究によって確かめられていますが、使用する際には、医師の指示に従って注意深く用いなければなりません。

日常のケアも気を配る
 抗真菌薬が入っている薬用シャンプーで頭皮を洗うと、脂漏性皮膚炎の症状を抑えることができます。日常の洗髪の際にこのようなシャンプーを用いて頭皮のケアを行ったり、洗顔後にローションやクリームを使用して顔面のケアを行ったりすると、症状が緩和されます。

(1)Shuster S, Meynadier J, Kerl H, Nolting S. Treatment and prophylaxis of seborrheic dermatitis of the scalp with antipityrosporal 1% ciclopirox shampoo. Arch Dermatol. 2005; 141:47.
(2)Peter RU, Richarz-Barthauer U. Successful treatment and prophylaxis of scalp seborrhoeic dermatitis and dandruff with 2% ketoconazole shampoo: results of a multicentre, double-blind, placebo-controlled trial. Br J Dermatol. 1995; 132:441.
(3)Danby FW, Maddin WS, Margesson LJ, Rosenthal D. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of ketoconazole 2% shampoo versus selenium sulfide 2.5% shampoo in the treatment of moderate to severe dandruff. J Am Acad Dermatol. 1993; 29:1008.
(4)Lebwohl M, Plott T. Safety and efficacy of ciclopirox 1% shampoo for the treatment of seborrheic dermatitis of the scalp in the US population: results of a double-blind, vehicle-controlled trial. Int J Dermatol. 2004; 43 Suppl 1:17.
(5)Piérard-Franchimont C, Goffin V, Decroix J, Piérard GE. A multicenter randomized trial of ketoconazole 2% and zinc pyrithione 1% shampoos in severe dandruff and seborrheic dermatitis. Skin Pharmacol Appl Skin Physiol. 2002; 15:434.
(6)Pari T, Pulimood S, Jacob M, et al. Randomised double blind controlled trial of 2% ketoconazole cream versus 0.05% clobetasol 17-butyrate cream in seborrhoeic dermatitis. J Eur Acad Dermatol Venereol. 1998; 10:89.
(7)Ramirez RG, Dorton D. Double-blind placebo-controlled multicentrestudy of fluocinolone acetonide shampoo (FS shampoo) in scalp seborrheic dermatitis. J Dermatol Treat. 1993; 3:135.
(8)Reygagne P, Poncet M, Sidou F, Soto P. Clobetasol propionate shampoo 0.05% in the treatment of seborrheic dermatitis of the scalp: results of a pilot study. Cutis. 2007; 79:397.
(9)Kastarinen H, Oksanen T, Okokon EO, et al. Topical anti-inflammatory agents for seborrhoeic dermatitis of the face or scalp. Cochrane Database Syst Rev. 2014; 5:CD009446.
(10)Freeman S, Howard A, Foley P, et al. Efficacy, cutaneous tolerance and cosmetic acceptability of desonide 0.05% lotion (Desowen) versus vehicle in the short-term treatment of facial atopic or seborrhoeic dermatitis. Australas J Dermatol. 2002;43:186-189.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「脂漏性皮膚炎」の解説

脂漏性皮膚炎
しろうせいひふえん
Seborrheic eczema
(皮膚の病気)

どんな病気か

 頭や顔面などの皮脂の多い部位(脂漏(しろう)部位)や、(わき)の下などの汗や摩擦(まさつ)の多い部位に皮膚炎が現れる病気で、新生児期から乳児期にみられるものと思春期以降、主に成人にみられるものに分けられます。

原因は何か

 皮脂の多い部位に常在するマラセチアなどの酵母による皮膚炎という説が有力です。成人では、ビタミンB群の不足や、肉体的・精神的ストレス、低温度・低湿度が悪化の原因になります。

症状の現れ方

 乳児脂漏性皮膚炎は、生後まもなくから発症し、髪の生え際から頭の皮膚、額や眉毛部に黄色いかさぶたと淡い紅斑(こうはん)がみられます。かゆみはほとんどありません。

 成人脂漏性皮膚炎は青壮年期に多く、頭部から髪の生え際のフケと淡い紅斑(こうはん)、額や鼻翼部(びよくぶ)から時には顔面全体に広がる黄白色の鱗屑(りんせつ)(皮膚表面からはがれ落ちる角質)がついた紅斑が特徴です。(わき)の下や鼠径部(そけいぶ)、前胸部や上背部のVゾーンにも同様の症状がみられることがあります。軽いかゆみを伴います。

検査と診断

 脂漏部位に境界がはっきりした紅斑が現れた時には、本症を疑います。頭部のほかに(ひじ)(ひざ)に厚い鱗屑のついた紅斑がみられる場合は尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)、腋の下や鼠径部(そけいぶ)の紅斑はカンジダなどの真菌感染症の可能性があるので、皮膚科で診察を受けます。

 乳児では体幹や四肢の皮膚炎の有無、かゆみの強さ、家族のアレルギー歴などを参考にアトピー性皮膚炎と見分けます。

治療の方法

 乳児脂漏性皮膚炎は一般に短期間で治ります。頭部の厚い鱗屑にはベビーオイルやワセリンを塗った数時間後に洗髪し、かさぶたを優しくとってあげます。顔の炎症が強い時には、ステロイド含有軟膏を数日間外用します。症状が強い時には頭部にステロイドローション、顔面・体幹の病変にはステロイド軟膏を外用します。軽くなったものや軽度の病変なら抗菌剤のケトコナゾール(ニゾラール)クリームやローション、ミコナゾールシャンプーが有効なことがあります。

病気に気づいたらどうする

 乳児、成人とも石鹸やシャンプーでの洗髪・洗顔・入浴を適度に行うことが大切です。成人の脂漏性皮膚炎は、慢性・再発性で数カ月から数年続いたあと次第に治癒に向かうことが多いので、根気よく治療を続ける必要があります。

加藤 則人

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「脂漏性皮膚炎」の解説

しろうせいひふえん【脂漏性皮膚炎 Seborrheic Dermatitis】

[どんな病気か]
 頭、顔面(鼻のわきや額など)、わきの下、股(また)など、皮脂腺(ひしせん)がよく発達し、皮脂の分泌(ぶんぴつ)の多い部位にできる湿疹(しっしん)です。赤みのある境界のはっきりした湿疹で、皮膚がふけのように細かくむけてきます。わきの下や股のところにできると、湿った感じになります。前胸部や背中の中央部にできることもあります。
 乳児と20~40歳代の人によくできます。乳児の場合は、成人よりも脂(あぶら)っぽいかさぶたが頭や顔にできます。
 かゆみはあまりありませんが、できやすい体質があるため、治ってもすぐ再発します。体調が悪かったり、入浴できなかったりすると悪化します。
 頭部の皮膚が細かくカサカサとむけるふけ症は、炎症症状をともなわない軽症の脂漏性皮膚炎です。
[治療]
 毎日入浴し、局所を清潔に保つだけで軽快することもあります。
 頭部にできた場合は、硫黄(いおう)を含むシャンプーが効果的です。
 厚いかさぶたが付着しているときは亜鉛華単軟膏(あえんかたんなんこう)や親水軟膏を厚めに塗った布を貼(は)ります。赤みが強いときは、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)薬を塗ります。ビタミンB2、B6などを内服します。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「脂漏性皮膚炎」の意味・わかりやすい解説

脂漏性皮膚炎
しろうせいひふえん
seborrheic dermatitis; eczema seborrhoicum

脂漏性湿疹。脂漏部位に生じた湿疹性の病変で,脂漏とは皮脂の分泌が多く,皮表に固着した状態をいう。前額の髪ぎわ,眉毛,鼻唇溝,わきの下,臍のくぼみ,前胸部などに顕著で,分泌された皮脂はしばしば鱗屑と結合し,脂漏性痂皮を形成する。脂漏性皮膚炎は毛包に一致した炎症性丘疹として初発し,のちに融合して紅斑性,落屑性,結痂性の局面になる。痂皮はやや黄色を帯びる。当初はかゆみはないが,のちに生じることがある。原因は,皮膚の分泌機能異常が基底にあり,これに脂質代謝,細菌感染などが関与するという説が有力であるが,なお不明な点が多い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

栄養・生化学辞典 「脂漏性皮膚炎」の解説

脂漏性皮膚炎

 →皮脂異常

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の脂漏性皮膚炎の言及

【ふけ】より

…成人にみられるふけ症には,炎症症状を伴わない頭部粃糠疹(ひこうしん)とよばれるものと,頭皮が赤みを帯びていて炎症症状を伴うものとがある。後者には,脂腺の皮脂産生が高まっていることが一因となっている脂漏性皮膚炎や,表皮細胞の角化現象が亢進しているために角質細胞層がつぎつぎとつくられては脱落していく尋常性乾癬(かんせん)などがある。【松尾 聿朗】
[医術]
 古代医術ではふけを〈頭垢〉と呼び,まるめて吐き気の治療に服用したほか,ムカデや犬にかまれたときや,竹や木を刺して出て来ない場合に塗る。…

※「脂漏性皮膚炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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