改訂新版 世界大百科事典 「脂漏性湿疹」の意味・わかりやすい解説
脂漏性湿疹 (しろうせいしっしん)
eczema seborrhoicum
頭や顔,背中や胸の正中部,腋窩(えきか),股など,皮脂腺が発達して皮脂の多くでる部位を脂漏部位というが,その脂漏部位にかゆみのある紅斑,落屑(らくせつ)をくりかえすタイプの皮膚炎を脂漏性湿疹という。脂漏部位すべての部位に生ずる教科書的脂漏性湿疹はきわめてまれであり,あまり見かける病気ではない。この皮膚炎はピチロスポルムPityrosporumというカビの寄生で起こったり,それがさらにAIDSでひどくなったりする。また肝臓障害に関連して発症する症例もある。
日本では以前から,頭部のみに限局した湿疹をほぼ自動的に脂漏性湿疹とみなす伝統があり,また女子の顔面の皮脂分泌過剰性の強い湿疹を拡大解釈してやはり脂漏性湿疹とする傾向もあった。これらはパッチテストなどで原因分析をすると,整髪料,シャンプー,化粧品,美容品中の香料や色素,殺菌剤に対するアレルギー,すなわち頭部接触皮膚炎であることがよくある。事実,香粧品アレルゲンを除去した日用品しか用いないようにしていると,このような症例の発疹は消失して再発しないことから,上記の脂漏性湿疹としてはおかしいということになる。また,脂漏性湿疹がさらに悪化して,尋常性乾癬(かんせん)になることもあるので,十分な観察と経過の追求が必要である。肝臓障害のあるときに頭部の脂漏性湿疹のみられることもあるので,これは内因性湿疹のひとつと考えられる。経静脈栄養を行っている患者で亜鉛欠乏症になると,やはり脂漏性湿疹とそっくりの発疹がでる。二重盲検法でビタミンB2の本症に対する有効性を検討すると,2回行われた試験で2回とも有意差をもって有効であったので,以前からいわれているように,本症はビタミンB2欠乏と関連している可能性がある。このように原因は単純ではないので,治りにくいときは極力原因を調べることが必要である。
執筆者:中山 秀夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報