日本大百科全書(ニッポニカ) 「腸炎菌」の意味・わかりやすい解説
腸炎菌
ちょうえんきん
[学] Salmonella enterica serovar Enteritidis
腸内細菌科に属する細菌でグラム陰性、通性嫌気性のまっすぐの桿菌(かんきん)(0.7~1.5×2.0×5.0マイクロメートル)。
周毛性の鞭毛(べんもう)をもち、運動性がある。胞子(芽胞(がほう))は形成しない。普通寒天でよく発育する。ヒトがこの菌によって発症する場合をサルモネラ症とよぶ。サルモネラ症はその発症にあたって食品中にこの菌が多く(105個以上)存在することが多く、食中毒菌として取り扱われる。ヒトからヒトへの感染はきわめて少ない。ゲルトネル菌ともいう。1888年ドイツのゲルトナーA. Gärtner(1848―1934)はフランケンハウゼンという町で病死牛による食中毒を研究した際、腸炎菌がその原因菌であることを発見した。サルモネラ食中毒症の原因菌としては腸炎菌のほかにネズミチフス菌S. enterica serovar Typhimuriumがある。サルモネラ食中毒症の流行の原因は、かつては腸炎菌が多くを占めていたが、現在はネズミチフス菌が優位を占めることもあり、複雑となっている。
食中毒サルモネラ症は感染型食中毒であり、次のような経路をたどり成立することが多い。まず、ネズミがこれらの菌に感染し、その糞尿(ふんにょう)が食品を汚染する。ついで、その食品中で食中毒が成立するまでに菌量が増加し、それを食べることにより食中毒症状となる。サルモネラ食中毒はこのように動物が介在するか、動物性食品が原因となる場合が多い。鶏肉・鶏卵、牛豚肉は感染源として重要である。食品以外ではペット(アメリカミドリガメ、イヌなど)がサルモネラ中毒菌保有動物として問題視されている。
[曽根田正己]