鶏卵(読み)ケイラン

精選版 日本国語大辞典 「鶏卵」の意味・読み・例文・類語

けい‐らん【鶏卵】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ニワトリのたまご。〔文明本節用集(室町中)〕
    1. [初出の実例]「あん平 〈略〉鶏卵温飩の卵とじ也」(出典:随筆・守貞漫稿(1837‐53)四)
  3. 菓子の一種。もち米、またはうるち米の粉をこして水でこね、中に黒砂糖を包みキンカンほどの大きさに丸めて蒸したもの。〔日葡辞書(1603‐04)〕
  4. 米の粉をこね、中に餡を入れて作る、団子に似た食品。〔物類称呼(1775)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鶏卵」の意味・わかりやすい解説

鶏卵
けいらん

ニワトリの卵。卵がいつごろから食べられたかということはよくわからない。ニワトリの飼育が始まったときからとも考えられるが、日本では、信仰的な見地から卵もあまり食べられなかったようである。しかし、安土(あづち)桃山時代になると、南蛮菓子の渡来とともに、その材料として卵も使われるようになった。中国との交流によって砂糖が入り、安土時代になると南蛮貿易が開始され、砂糖の輸入量が激増している。これに伴って、カステラ、ボーロなどがつくられるようになった。カステラには鶏卵が多く使われる。江戸時代に入ると、徳川将軍の日常の食事に鶏卵などがみられる。たとえば『千代田城大奥』によると、一例として朝食の一の膳(ぜん)には、蒸飯(むしめし)、落玉子(おとしたまご)のみそ汁、その他が、二の膳には、卵焼きに干海苔(ほしのり)を巻いたお外(そと)の物、その他が出されたと記されている。また同じく江戸時代の天明(てんめい)年間(1781~89)になると、卵の入った海苔巻きや卵焼きもできている。しかし本当に卵が普及したのは明治以後である。

 西欧では、ギリシア時代に、小鳥の脳、卵、ワイン、香料をバラの花といっしょにすりつぶして油で揚げた、手のこんだ料理がすでに食卓にあがっていた。11世紀ごろになると、カトリック信仰から、金曜日に肉を食べるのを忌み、僧侶(そうりょ)は卵料理を研究し、金曜日には肉のかわりに食卓に出したといわれる。18世紀ごろになると、イースターキリスト教の復活祭)の行事とともに卵が使われた。すなわち、復活祭のときに、卵を金色に塗って食卓に出した。19世紀末になるとカクテルが発明され、これに卵も使用されるようになった。

河野友美

構造

卵は大きく分けて、卵黄、卵白、卵殻の3部よりなっている。卵殻の厚さは、ニワトリの種類、季節、栄養状態などによっても変化するが、0.26~0.36ミリメートルである。卵殻の表面には気孔とよばれる小孔が無数にあり、この気孔は、新鮮な間はクチクラとよばれる薄膜で保護されている。しかしクチクラは乾燥するとはがれやすく、産卵後日数がたつとクチクラがはがれて気孔が露出し微生物が卵内に侵入するようになる。古くなった卵が腐敗するのはこのためである。卵殻膜は内卵殻膜と外卵殻膜の2層からなっている。2層の膜は鈍端部では分かれているが、他の部分では二つ密着している。この二つの膜で囲まれている空間を気室という。気室は、産卵直後の温かい卵には認められないが、卵が冷却され、内容物が収縮すると生じる。貯蔵しておくと、卵内容物の水分が蒸発するため、気室の容積はますます増加する。したがって、古い卵ほど気室が大きい。卵の鮮度をみる透視法は、この気室の大きさを卵を明かりに透かしてみて判定する。卵黄は、比較的色の白い白色卵黄と、黄色の濃い黄色卵黄の2層からなっている。卵黄の表面は薄くてじょうぶな卵黄膜で包まれている。このため、割った卵であっても、卵黄をそのまま電子レンジで加熱すると、できた水蒸気が卵黄膜によって閉じ込められ、一定の圧になると破裂し、卵が飛び散ることになる。小さい卵ほど卵黄の占める割合が大きい傾向にある。卵白は粘性の高い濃厚卵白と、粘性の低い水様卵白よりできている。水様卵白はさらに内水様卵白と外水様卵白に分かれる。卵黄のすぐ周囲にあるのが内水様卵白、次を取り巻いているのが濃厚卵白、さらにその外側にあるのが外水様卵白である。卵黄の両端には、カラザという白色不透明の糸状のものがある。カラザのもう一方の端は濃厚卵白についていて、卵黄を一定の位置に保つ。胚盤(はいばん)は卵黄表面にある径2~3ミリメートルの白い部分で、有精卵では分裂成長する部分、無精卵では卵核のあったところである。胚盤から卵黄に向かい細長く伸びている白い部分はラテブラという。

[河野友美]

生産と消費

鶏卵は、主要なタンパク質食料の一つとして大きな価値のあるところから、欧米ではその生産に力を入れてきた。日本も、第二次世界大戦後、鶏卵の生産は飛躍的に増加し、それに伴って消費量も増大している。とくに、アメリカから導入された大量養鶏の手法により、多量の鶏卵生産が可能となった。世界的にみると、第一の生産国はアメリカである。

 鶏卵は、そのまま食品として市場に出るもののほか、食品工業用としての利用も多い。たとえば、マヨネーズドレッシング、菓子類では鶏卵は主要な材料の一つである。菓子原料としては、冷凍液卵なども使用される。液卵は、砂糖を加えることで冷凍による変化が防げる。

[河野友美]

成分

鶏卵は、殻を除いた全卵の36%が卵黄で、64%が卵白である。卵黄のタンパク質はリポビテレニンlipovitellenin、リポビテリンlipovitellinとよばれる2種のリポタンパク質がその約76%を占める。リポタンパク質と結合している脂質の大部分はリン脂体(主としてレシチン)である。このリン脂体と結合したタンパク質は、脂肪の乳化力が強い。この性質を利用したのがマヨネーズである。卵黄中のビタミンは、脂溶性ビタミンであるA、D、Eが多く、ビタミンCはほとんど存在しない。また卵黄の黄色い色素はカロチノイド系のカロチンキサントフィルである。これらの色素は、ニワトリが食べる餌(えさ)中に含まれるカロチノイド色素が卵に移行したものである。化学的に安定なカロチノイド化合物を飼料に混ぜ、卵黄の色を濃くしていることも多い。卵黄の色が濃いということは、カロチノイドが多く含まれていることであるが、これを食べた場合ビタミンAの効果が大きいとは限らない。一方、卵黄の色の薄い卵は、ビタミンAが少ないということではない。飼料の中にビタミンAを添加しておけば、色は白くてもAの多い卵ができる。また、ヨード、ビタミンEを多くした卵もある。卵黄中には、リン、鉄、ビタミンB2の多いことが特徴である。

 卵白の成分は水分とタンパク質が主で、卵白タンパク質は卵白の乾燥物中で約82%もある。そのタンパク質はアルブミンalbuminからなっている。その代表的なものはオボアルブミン75%、オボムコイド13%、オボムチン7%、コンアルブミン3%、オボグロビン2%である。

[河野友美]

栄養

卵の栄養でもっとも特筆すべきはタンパク質である。鶏卵1個に約6グラムのタンパク質を含み、たいへん質がよい。とくにわれわれの日常食において不足しがちな必須(ひっす)アミノ酸のうち、リジン、メチオニントリプトファンが多く、理想的なタンパク質といえる。そのうえ、必須アミノ酸含有比率は、人体にとって理想的なものにたいへん近い。すなわち、タンパク質の栄養的な価値を表すアミノ酸価では、鶏卵は100(最高が100)である。また、卵の脂肪はよく乳化されているので、消化吸収もよい。リン脂体の主成分であるレシチンは、肝臓の脂肪を取り除く働きをする。このほか、ビタミンA、D、Eや、リン、鉄、カルシウムなどが含まれている。なお、コレステロールが卵に含まれているが、卵黄中の脂質レシチンが、血中コレステロール値を減らすような働きをするため、血中コレステロール値は上昇しにくい。卵の消化は卵黄、卵白によって、また調理法によって異なる。調理法による消化率は、半熟卵、生卵、卵焼き、ゆで卵(全熟)の順に悪くなる。なお、生卵は、卵白中にトリプシン抑制物質があり、小腸における消化を阻害するため、消化がよくないといわれるが、実際にはあまり大きな差はない。

[河野友美]

見分け方

自然の状態の新鮮な卵は殻がたいへんざらざらしている。反対に古いものはつやがあって滑らかである。ただ、洗浄したものは新しくても殻のざらついていないものがある。また、電灯の光に透かしてみると、内部が半透明で明るいのが新鮮である。古い卵ほど気室が大きくなるため、黒っぽい影が動く。割ったとき黄身が盛り上がり、濃黄色で、箸(はし)で挟んでも膜が切れにくいものが新鮮である。黄身が崩れているのは古く、腐敗していることが多い。新しいものほど、ゆでたものは殻がむきにくい。卵の鮮度を判別するもっとも正確な方法は割卵による。卵を平板上に割卵して、卵白および卵黄の状態から卵の品質を判定する。卵黄については卵黄係数、卵白については卵白係数の測定を行う。


 卵が古くなるにしたがって卵黄係数も卵白係数も小さくなる。卵黄係数が小さくなるのは、浸透圧で水分が卵白より卵黄へ移るためである。卵白係数が小さくなるのは、濃厚卵白が水様化したためで、割ったとき卵が平らになるからである。新鮮なものはこんもりと盛り上がっている。濃厚卵白の水様化とは、卵が古くなるにしたがって、濃厚卵白が破れて水様卵白が増加することである。

[河野友美]

『今井忠平著『鶏卵の知識 その保蔵と加工の科学』(1983・食品化学新聞社)』『浅野悠輔・石原良三編著『光琳テクノブックス3 卵――その化学と加工技術』(1985・光琳)』『今井忠平・南羽悦悟・栗原健志著『タマゴの知識』改訂増補版(1995・幸書房)』


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食の医学館 「鶏卵」の解説

けいらん【鶏卵】

《栄養と働き》


 鶏卵(けいらん)は世界中の人々が、毎日のように口にしている極めてポピュラーな食品です。日本は世界的にみても鶏卵の利用がさかんな国で、その生産量、消費量ともにトップクラス。1人あたり、ほぼ1日1個ずつを食べている計算になります。
 生産、供給が安定している鶏卵は、他の生鮮食品にくらべて比較的安価なうえ、価格の変動も少ないことから、物価の優等生ともいわれます。
〈たんぱく質の栄養的な価値は、トップクラス〉
○栄養成分としての働き
 たんぱく質を漢字で書くと「蛋白質」となりますが、これは「たまごの白身」という意味です。このことが示すように、鶏卵は8種類の必須アミノ酸をすべて含んだ、栄養面からみて理想的なたんぱく質食品。たんぱく質の栄養的な価値を示すアミノ酸スコア満点の100を示します。
 なかでも注目したいのは、メチオニンの含有量が多い点。
 メチオニンは肝臓の機能を活性化する働きをもつ必須アミノ酸ですが、ダイズや穀類にはあまり含まれていないため、鶏卵は絶好の供給源になります。
 このメチオニンをはじめとした良質のたんぱく質の働きにより、肝機能障害の改善に役立つほか、冷え症、虚弱体質、疲労倦怠感(ひろうけんたいかん)、病後の体力の低下などにも効果を発揮します。酒の肴(さかな)にすれば、悪酔いや二日酔いを防ぐのにも有効です。
〈各種ビタミン、ミネラルも豊富に含む〉
 また、鶏卵にはひなが誕生するまでに必要となる栄養素が、すべて含まれており、ビタミン、ミネラル類も豊富です。ビタミン類ではビタミンAやビタミンD、ミネラル類では鉄、カルシウム、リンを多く含有。それらの相乗効果で、かぜ、気管支炎、肌荒れ、貧血、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、情緒不安定などを改善するのに効果を発揮します。
 ただ、こうした豊富な栄養を含む反面、鶏卵がコレステロールの多い食品であることは、ご存じのとおり。実際、鶏卵1個には250mgを超えるコレステロールが含まれており、これは一般的に食卓にのぼる食品としては、飛び抜けて高い数字です。
 とはいえ、一度に消化吸収されるコレステロールの量には限度があることに加え、鶏卵には、コレステロールを低下させる作用があるレシチンという成分が含まれています。
 そのため、あまり極端にコレステロール値に神経質になって、鶏卵を敬遠する必要はないのです。
 脂質異常症脂質異常症や動脈硬化などの持病のため、医師から指示を受けているような人でなければ、1週間に2~3個くらいは食べても差し支えありません。
〈栄養強化卵をじょうずに利用しよう〉
 ところで、最近では栄養強化卵が多く出回っています。ヨード卵は、鶏にヨードの豊富な、粉末の海藻などを食べさせてつくった鶏卵。その名のとおり、ミネラルの一種であるヨードを通常の鶏卵の約20倍も含んでいます。ヨードは成長を促進して、新陳代謝を活発化する働きをになっており、心臓病にも効果があるといわれます。ほかにも、ビタミンB群やビタミンE、DHAなどを強化したたまごも販売されています。これらの栄養強化卵は、強化された栄養素の効果を知って、じょうずに健康に役立てたいものです。

《調理のポイント》


〈表面がザラザラしていても新鮮さの目安にはならない!?〉
 購入する場合のポイントとして、昔から殻(から)の表面がザラザラしたものが新しいといわれますが、これは輸送中に鶏卵どうしがこすれあうことの多かった時代のことです。
 現在の鶏卵は、パック入りのものが多くてこすれあったりしないため、殻の表面では、よく見分けがつきません。
 パック入りのものは、回転のよい店で出荷年月日を確認して買うのがいちばん。ほかに、光に透かしてみたとき明るいこと、振ってみても音のしないこと、割ったときに黄身やそのまわりの白身が盛り上がっていること、なども新鮮さの目安です。
 鶏卵には、侵入してきた細菌を殺菌するリゾチウムという酵素が含まれているので、比較的鮮度が落ちにくく、室温で産卵日から3~4日、冷蔵庫なら3週間くらい保存できます。
 ただ、流通段階で要する日数などを考慮して、冷蔵でも購入後10日以内に使い切るのがいいでしょう。
 保存の際に注意すべき点は、細菌を防ぐための卵核膜(らんかくまく)が殻の中で安定するよう、尖ったほうを下にして冷蔵庫に入れておくこと。においの強いものをそばに置かないこと。それから、殻の表面を洗うと、中身を保護しているクチクラ層がはがれてしまうので、汚れはふきんや紙で拭きとるだけにしておきます。
○新鮮なたまごの見分け方
◆卵黄の盛り上がりで見分ける
 新鮮なたまごの中身は卵白の濃い部分の層が厚く、卵白の薄い部分との境目が明確です。上にのった卵黄も半球状で盛り上がりが大きくなります。古いたまごは全体に偏平となり、卵白の濃い部分が少なくなります。
◆たまごの浮き沈みで見分ける
 濃度15%の食塩水にたまごを入れてみたときの状態が、産卵直後のたまごは、横になって底に沈みますが、一般に市販されているレベルの新鮮なたまごは、沈みます。1か月以上経った古いたまごは上に浮きます。
〈鶏卵は白身が70度以上、黄身は65度以上でかたまる〉
 料理の際に気をつけたいのは、火のとおし加減。加熱しすぎると、スが入ったりかたくなったりして、本来の持ち味が失われてしまいます。
 ゆでたまごをじょうずにつくるには、黄身も白身も半熟にする場合、70~75度の湯で約15分、黄身だけやわらかい半熟たまごの場合は100度の湯で約5分、かたゆでたまごの場合は100度の湯で12~13分ゆでるのが目安です。
 また、鶏卵には白身が70度以上、黄身は65度以上でかたまるという性質があります。これを利用して、65度程度の湯に30分間つけてつくるのが、黄身だけかたまって白身は半熟という、いわゆる温泉たまご。
 そして、消化のための時間が短いのは、半熟たまごがいちばんで、以下、生たまご、かたゆでたまごの順になります。
 なお、さまざまな栄養素を含む鶏卵ですが、ビタミンCと食物繊維はまったく含まれていません。食べるときには、野菜類などといっしょにとりましょう。

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改訂新版 世界大百科事典 「鶏卵」の意味・わかりやすい解説

鶏卵 (けいらん)
egg

ニワトリの卵は卵殻,卵白および卵黄の三つの部分からなる。各部分の重量比は,卵殻8~11%,卵白56~61%,卵黄27~32%。また,卵殻を除いた可食部中の重量比は,卵白約64%,卵黄約36%である。卵殻はほとんど炭酸カルシウムからできており,その厚さは約0.3mmである。表面には直径15~65μmの微細な気孔が,1cm2あたり100~300個存在している。炭酸ガスや水分はこの気孔から逸散し,微生物の侵入径路ともなる。産卵直後の卵殻表面には,輸卵管分泌物が乾いてできたクチクラという薄い膜があって微生物の侵入を防いでいるが,この膜ははがれやすく,日数の経た卵には残っていない。卵用種の卵は白色で,卵肉兼用種の卵は淡褐色である。淡褐色になるのは卵殻にプロトポルフィリンという色素が沈着するためで,卵内容物の組成や栄養価とは関係がない。卵殻の内側には内外2層よりなる卵殻膜があって互いに密着し,卵の鈍端部で離れてその間に気室ができている。卵白はタンパク質を約10%含む液体で,粘度の高い濃厚卵白約60%と粘度の低い水様卵白約40%およびカラザよりなっている。卵白タンパク質は,オボアルブミン,コンアルブミン,オボムコイド,リソチームその他の成分よりなり,オボアルブミンが全体の約60%を占める。卵黄は,タンパク質と脂質からなる固形物を約50%含んだ半流動体で,卵黄膜に覆われている。カラザは卵黄を卵の両端につなぐ働きをしている。卵黄タンパク質の主要成分はビテリンとビテレニンで,どちらも脂質と結合したリポタンパク質の形で存在している。卵黄には白色卵黄と黄色卵黄があり,互いに層をなしている。白色卵黄は少なく,全体の3~4%に過ぎない。

卵内容物のうち微生物の汚染を受けやすい卵黄は,卵殻および抗微生物作用をもつ卵白に囲まれ,さらにカラザにより卵の中央に保持されて微生物の侵入から守られているのみならず,外部からの振動に対しても保護されている。卵白の強い抗微生物作用は,溶菌作用をもつリソチーム,微生物のタンパク分解酵素作用を阻害するオボムコイドやオボインヒビター,微生物の生育に必要な鉄と結合するコンアルブミン,ビオチンと結合するアビジンなど,各タンパク質成分の特異な作用によるものである。また,微生物の作用によらない変化として重要なのは,濃厚卵白の水様化である。卵から炭酸ガスが失われてpHが上昇するにつれ,約60%を占めていた濃厚卵白が徐々に水様卵白に変わり,卵黄を中央に保持できなくなる。卵白中を浮上して卵殻に近づいた卵黄は微生物の汚染を受けやすくなる。通常行われる貯蔵法は,0℃,湿度80~85%の条件で冷蔵する方法であり,少なくとも3ヵ月は鮮度が保たれる。鮮度の見分け方には次のような方法がある。光を通して卵を見ると,新鮮な卵では卵黄が中央部にあって形がはっきりしており,長径を中心に卵を回しても卵黄は動きにくい。また,古い卵では気室が大きくなっている。割卵すると古い卵ほど卵黄や卵白の広がりが大きい。卵黄係数(卵黄の高さ/直径)は新鮮卵では0.36~0.44以下である。

鶏卵はビタミンA,Dを多く含み,良質のタンパク質からなる栄養価の高い食品で,その用途は家庭や料理店で調理用に使用されるものが70~80%を占める。そのほか製菓,製パン,マヨネーズなどの製造に用いられるが,これには生卵のほか液卵(卵を割って内容物のみを集めたもの),凍結卵,乾燥卵などの加工卵も利用される。これらの加工卵にはそれぞれ全卵,卵白,卵黄の3種類がある。

日本の鶏卵生産は昭和40年代後半に約180万tに達し,その後も微増が続いて,1995年には250万tになったが,やや供給過剰の傾向にある。1人当りの年間消費量は平均約17kgで,アメリカやドイツと並ぶ世界有数の鶏卵消費国になっている。価格は第1次石油ショック時(1974)に高騰したが,その後は比較的安定している。鶏卵の等級は,通常外観検査および透光検査により特級,1級,2級,級外に区分される。また重量によりLLからSSの6段階に分けられ,表示用ラベルの色も各段階について指定されている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鶏卵」の意味・わかりやすい解説

鶏卵
けいらん
hen's egg

ニワトリの卵。卵黄とそれを取り巻く卵白,さらにそれを包む卵殻とからなる。非常に栄養価の高い食品として重視される。卵黄には多量の蛋白質と脂肪のほかリン,鉄,ビタミンA,ビタミンDなどおもな栄養素のほとんどが含まれ,卵白も蛋白の主要な供給源となっている。近年は特殊飼料を与えて有機ヨウ素やビタミン類を強化したものも数多くみられ,これらは特殊卵と呼ばれている。卵白の消化率は加熱によって高まり,60℃以上の加熱が望ましい。卵黄では加熱してもあまり変わらない。日本における鶏卵の生産量は 250万~260万t,国民 1人あたりの年間消費量は平均 320個以上で,世界でも上位。

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百科事典マイペディア 「鶏卵」の意味・わかりやすい解説

鶏卵【けいらん】

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普及版 字通 「鶏卵」の読み・字形・画数・意味

【鶏卵】けいらん

鶏の卵。

字通「鶏」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の鶏卵の言及

【卵】より

…動物の雌が体外に産み出す卵子のこと。卵細胞は動物の諸細胞の中で最大で,とくに鳥類の卵は大きく,最小のハチドリの1種の卵でも1.2cm×0.8cm,最大のダチョウ卵に至っては16cm×12cmもの大きさがある。鳥類では,体の大きな鳥ほど大きな卵を産む傾向がある。ただし,体重に対する卵重の比は,大きな鳥ほど小さくなる傾向がある。体外に産み出される卵は,外敵からの保護や乾燥の防止などのために,膜membraneや殻shellによっておおわれていることが多い。…

【卵】より

…同一種の動植物において,生殖に関与する配偶子に形態学,生理学的な差が認められ,2種類以上のものが区別される場合に,それらを異型配偶子と呼ぶ。異型配偶子は形の大小にしたがって,それぞれ大配偶子,小配偶子と名づけられているが,大配偶子は一般に運動性をもたず,細胞質内には栄養物質を多量に有し,卵または卵子と呼ばれる。これに対して小配偶子は運動性に富み,細胞質はほとんどなく,細胞のほとんどすべてが細胞核成分と,運動のための小器官で占められていて,精子と呼ばれる。…

【卵】より

…すなわち,大きな卵を産むものほど産卵数は少ない。鶏卵産卵【樋口 広芳】
【象徴,民俗】
 卵は西洋の象徴体系において,しばしば宇宙の原初状態を表現し,その場合は〈宇宙卵Cosmic egg〉と呼ばれる。錬金術では宇宙霊が封じこめられている混沌(カオス)を意味し,これをプリマ・マテリア(第1質料),すなわち宇宙創造の原物質とみなす。…

【畜産】より

…新大陸諸国の例外はニュージーランドで,ここは国土面積がそう広くはないのに人間の5倍もの家畜を飼っており,面積当り家畜密度はヨーロッパなみになっている。 これらの家畜が供給する畜産物には,羊から得られる羊毛,牛などからとる牛皮などといった非食料生産物もあるが,大部分は牛乳,肉,鶏卵などの食料生産物である。畜産食料品は人間の栄養上重要な役割を果たす動物性タンパク質の供給源であり,欧米諸国では動物性タンパク質のほとんど(90%以上)を畜産物からとっている。…

【鳥】より

…しかし,神事に関係する鳥や家禽に対しては特別な感情が働き,これを食べることは忌避されてきた。たとえば,鶏肉,鶏卵を食するのを禁じてきた地方は,最近まで各所に見られた。日本人がどのような場合に肉食を忌避したかは,他の動物の場合とあわせて考察する必要がある。…

【養鶏】より

…鶏卵や鶏肉などニワトリの生産物を利用するためニワトリを飼養することをいう。飼い方により平飼い養鶏,ケージ養鶏,バタリー養鶏あるいは庭先養鶏などと区分することもあるが,生産目的によって分類すれば採卵養鶏とブロイラー養鶏とに大別され,それぞれはさらに種鶏生産と実用鶏飼育に区分される。…

※「鶏卵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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