改訂新版 世界大百科事典 「サルモネラ症」の意味・わかりやすい解説
サルモネラ症 (サルモネラしょう)
salmonellosis
サルモネラ菌によって起こる感染症の総称であるが,同じサルモネラ菌に属するチフス菌とパラチフス菌(A,Bなど)によるものは,それぞれ腸チフス,パラチフスという独立した疾患として別に取り扱われている。
チフス菌,パラチフス菌以外のサルモネラ菌は家畜や家禽に広く分布し,肉,卵,乳およびその加工品などがこの菌でかなり汚染されている。最近,輸入食品の増加とともに,この疾患がますます増える傾向にある。また,ペット(ミドリガメ,イヌ,ネコなど)からの感染も問題となっている。海外旅行での感染も多い。通常ヒトからヒトへの感染ではなく,食品の中で増えた菌が食品とともに口から入って感染する。しかし,乳幼児では成人に比べてこの菌に対する感受性が高く,ヒトからヒトへの感染の可能性があり,院内感染の原因菌としても重要視されている。多くは食中毒ないし急性胃腸炎の形で発病し,発熱,腹痛,下痢などの症状を起こすが,一般にこの菌による腸炎は他の細菌による腸炎よりも症状が強く,その回復もおそい。ときには赤痢のように血便をみることもある。乳幼児,高齢者とか,糖尿病などの基礎疾患をもっているものでは,菌血症を起こして重症となることもある。しかし一方では,きわめて軽い経過をとるものや,まったく症状の出ない保菌者も非常に多い。近年,食品を取り扱う業者とか,給食・調理者の定期検便で保菌者が発見されることが多い。診断は糞便などの細菌検査による。症状が強ければ入院治療を受ける必要がある。保菌者の治療は外来で行われるが,実際には除菌にはたいへんてこずるもので,いろいろな抗菌剤を使用してもなかなか菌が陰性にならない。予防のためには肉や卵の生食を避けることのほか,十分な手洗いが最もたいせつである。
→チフス
執筆者:松原 義雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報