改訂新版 世界大百科事典 「膜集積回路」の意味・わかりやすい解説
膜集積回路 (まくしゅうせきかいろ)
film integrated circuit
セラミックスなどの絶縁基板上に膜の形で回路素子を形成し,超小型の電子回路を作りあげたもの。ここで膜というのは機械加工では作れないような薄い膜の総称であり,そのうち,真空蒸着,スパッタリングのように真空技術を用いて形成する薄い膜を薄膜,またスクリーン印刷技術を応用して形成するやや厚い膜を厚膜と呼んで区別している。狭義には,トランジスター,ダイオードなどの能動素子,抵抗,コンデンサーなどの受動素子のすべてを膜で形成したものを指すが,膜による能動素子が実用段階に達していない現状では,受動素子を膜で作りこれに個別の能動素子や膜化の困難な受動素子を取り付けたものまで膜回路と呼ぶことがある。この場合には混成集積回路と同義語になる。薄膜集積回路はニクロムや窒化タンタルなどの金属薄膜により高精度の導体,抵抗,コンデンサーなどの回路素子が作れるほか,フォトエッチングにより微細な回路パターンが形成できるので集積度を高められる特徴がある。そのため,通信・工業用などのやや特殊な用途に用いられることが多い。厚膜集積回路はスクリーン印刷機を用いてセラミックス基板上に厚膜ペーストを印刷し,焼成して電子回路としたものである。薄膜集積回路のような微細パターンの形成は困難であるが,製造工程で真空技術を必要としないため,生産性,経済性に優れ,民生機器をはじめ広い分野に応用されている。近時,アモルファスシリコン薄膜などを用いた薄膜トランジスターの研究も進展しており,今後,能動素子を含んだ膜集積回路の出現も期待される。
→薄膜
執筆者:金親 良一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報