膵石は
典型的な患者さんでは、初回の膵炎発作から約5年の経過で現れ始めます。膵石の外観は白色調で硬く、表面が不整で、大きさは5㎜以下の小結石から10㎜を超える大結石までさまざまです。
膵管内に形成された膵石は膵液の流出障害を引き起こし、腹痛発作や急性炎症の一因になると考えられています。膵石が原因となって腹痛症状や発熱、炎症症状が引き起こされた場合を膵石症といいます。
膵石とまぎらわしいものに、膵臓の血管壁や膵病変(
膵石の主成分は炭酸カルシウムです。膵石が形成される機序(仕組み)は十分にわかってはいませんが、膵液の性状の変化や、膵液のうっ滞などが原因になって膵液中の蛋白質が析出(結晶として出てくる)し(蛋白栓)、それにカルシウムが沈着して作られると考えられています。
膵石症の成因は、慢性膵炎の成因とほぼ同じです。アルコールの多飲、高カルシウム血症(
この成因の違いにより、膵石の形態や分布にも特徴があることがわかっています。たとえば、アルコール性の場合には膵全体に小結石が分布することが多く、一方、原因不明の特発性膵炎の場合には比較的大きい膵石が限られた部位に認められることが多いとされています。
慢性膵炎の痛みは、膵管や膵組織内圧の上昇、疼痛関連物質の産生、神経の変性、
膵石症に伴う腹痛は、比較的起伏に乏しい持続性の痛みであることが多いとされています。痛みは
慢性膵炎では、膵炎発作を繰り返すことにより膵外分泌機能、膵内分泌機能の障害が進行します。慢性膵炎が進行して膵外分泌機能、膵内分泌機能が損なわれてくると腹痛症状は軽くなり、代わりに
従来、膵石症は慢性膵炎の終末像にみられる病態と考えられていましたが、「どんな病気か」でも述べたように、膵石が急性炎症の原因と考えられる場合もあり、膵石が現れたからといって必ずしも腹痛がおさまる兆候とはいえないところがあります。
また、慢性膵炎は膵がんの高危険群とされていますが、とくに膵石症からの発がんの頻度は高く、健常人の20~30倍(年率1%程度)といわれていますので、膵がんによる腹痛や体重減少などにも注意が必要です。
膵石の多くは石灰化を伴っているため、腹部単純X線検査でも診断することができます。ただし、膵臓との位置関係を正確に把握するためには、超音波検査やCT検査が必要です。
このうち超音波検査は外来で簡便に受けられ、体への負担が少なくリアルタイム(即時)に画像が得られる点で優れています。しかし、検査する医師(技師)の技量、検査を受ける患者さんの体格(肥満)や消化管ガスの影響を受けやすく、必ずしも膵全体が描き出せるとはかぎりません。その点、CT検査はX線被曝の問題はありますが、微小な石灰化であっても鋭敏に描出が可能であり、体格や消化管ガスに左右されないという特長があります。
近年では、MRI装置を用いて膵管内の膵液成分を画像化することにより、膵管像を描き出すMRCP(MR胆管膵管造影)検査が広く行われています。MRCP検査では、膵液成分が白く強調される反面、膵石は無信号となる(白くならない)ため、CT検査と比べると膵石そのものの診断には劣りますが、膵管の拡張や狭窄、仮性嚢胞など、膵液うっ滞の評価に有用です。
このほか、膵石のある膵管の情報を得る精密検査として
基本は、禁酒と食事療法、そして薬物療法です。症状が落ち着いてる時でも、膵液分泌刺激の少ない低脂肪食を心がけます。腹痛症状の強い時には、膵臓を守るために食事を止め、点滴もしくは高カロリー輸液で栄養を補給し、
治療の対象になる膵石は、主膵管内にあり、膵液の流出障害になっていると考えられる場合です。ここで主膵管というのは、膵液を十二指腸に運ぶ導管(膵管)のうち、膵臓の尾部に始まり、十二指腸主乳頭に至る最も太い膵管のことです。
通常、膵液の流出障害があると、その部位より上流の主膵管が太くなります。ちょうどホースから水を流しているときに出口近くを狭めると、ホースの手前部分(蛇口側)の圧が上がってホース全体がふくらんでくるのと同じ現象が膵管にも起こります。このような状態では、多くの場合腹痛症状を伴っています。
膵石治療は入院したうえで、急性炎症がおさまってから行います。現在、日本で保険診療として認められているのは手術のみですが、その他の治療についても普及しつつあり、実際に、ガイドラインでも有用な治療法として推奨されています。
①
ESWLとは、体外から結石に対して衝撃波を当てて細かく砕く(破砕)治療法です。臨床的には
治療の実際は、衝撃波発生装置と一体化した治療テーブルの上に寝た状態で、X線透視もしくは超音波映像下に膵石に照準を合わせて衝撃波を当てて破砕します。1回の治療時間は約1時間で、十分な破砕効果を得るために適宜、鎮痛薬を使用します。
治療後は、腹痛がなければ、当日ないし翌日から食事をすることが可能です。治療翌日の腹部単純X線検査で膵石の破砕効果を確認し、消失ないし3㎜程度に小さく破砕されるまで週2、3回のペースで繰り返し行われます。平均4、5回の治療が必要です。治療に伴う膵炎の増悪を5%程度に認めますが、ほとんどが軽症で、重い合併症は少ないとされています。
膵石症の患者さんの場合、膵石がある部位よりも下流(十二指腸側)の主膵管が炎症により狭くなっている(狭窄)ことが多いため、ESWL単独での治療(排石)効果は必ずしも十分でないことがあります。そのような場合には次に述べる内視鏡治療を併用します。
②内視鏡治療
内視鏡治療は、前述したERCPに引き続き行います。押し出すとバスケット型に広がるワイヤーをチューブ内に格納したバスケット
小さな膵石であれば、1、2回の内視鏡治療で排石できるので、治療効率の面からは優れた方法といえます。ただし、内視鏡単独で治療できる膵石は処置具が到達できる範囲内にあり、かつ保持できる大きさに限られます。このため、ESWLと組み合わせて膵石を細かい破砕片とすることにより相乗効果が得られます。
このほか、膵管が狭くなっている部位をバルーンカテーテルでふくらませる方法(内視鏡的バルーン拡張術)や、十二指腸乳頭の膵管開口部を広げるため内視鏡的に切開する方法(膵管口切開術)などが、膵石の排石を補助する目的で行われます。また、膵管の狭窄が強い場合には、内腔を確保すべく、ステントと呼ばれるプラスチックの筒状の管を留置することもあります。
③外科手術
外科手術には、炎症の強い部分を切除する膵切除術のほかに、切除を最小限にとどめ、膵管と小腸をつなぎ合わせる膵管減圧術などがあり、痛みに対する効果は同等とされています。ESWLや内視鏡治療と比べ、手術そのものの体への負担は大きいものの、術後の経過、とくに痛みの再発は少なく、ESWLや内視鏡治療でうまくいかない場合には、良い治療となりえます。
膵石のある患者さんは、まず禁酒を徹底して、食事療法、薬物療法を行います。多くの場合これらの治療で腹痛症状は改善しますが、症状が長引いたり再発を繰り返す場合には膵石治療が検討されます。
膵石治療にはさまざまな選択肢があります。また、症状がなくても膵がんを併発することがあり、定期的な検査を受けることが必要ですので、まずは、膵臓専門医のいる医療施設に相談することをすすめます。
笹平 直樹
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
膵管内に結石ができる疾患。慢性石灰化膵炎calcifying pancreatitisとも呼ばれるように,膵石は進行した慢性膵炎にきわめて特徴的にみられる。慢性膵炎の増加とともに,日本における膵石保有率も年々増加する傾向がみられる。その成因としては,大多数がアルコール性のものであるが,飲酒歴のない若い世代に発症する例もあり,この場合は遺伝的素因も考えられている。そのほかに低タンパク質,低カロリーといった栄養失調や,副甲状腺機能亢進症なども病因としてあげられている。膵石は腹部単純X線撮影で膵臓部に石灰化像が出ることから診断されるが,X線に写らない非陽性結石も膵石として取り扱われ,十二指腸ファイバースコープを用いた内視鏡的逆行性膵管造影法で確診がなされる。特有の症状は乏しいが,飲酒後や食後の腹痛ないしは背部痛といった慢性膵炎に準じた症状がみられることがある。体外衝撃波療法(ESWL)や内視鏡的に膵石を除去する方法がある。飲酒家では禁酒や食事療法が必要不可欠とされる。
→膵炎
執筆者:中沢 三郎+梶川 学
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