内科学 第10版 「膵胆管合流異常症」の解説
膵胆管合流異常症(肝・胆道の疾患)
膵胆管合流異常症とは解剖学的に膵管と胆管が乳頭括約筋(Oddi筋)の作用が及ばない十二指腸壁外で合流する先天性の奇形をいう.この合流形態のため膵液と胆汁が相互に逆流しやすくなり,種々の病態が生じる.先天性胆道拡張症合併例が多いが,胆道非拡張例も存在する.
頻度
東洋人に多い.女性は男性の約3倍の高頻度である.先天性疾患であるが,約2/3の症例は成人期にはじめて診断されている.わが国では内視鏡的逆行性胆道膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)施行症例の1.5~2.8%に合流異常がみられる.
合併症
合流異常症では膵液・胆汁の相互逆流により,種々の合併症が生じる. 先天性胆道拡張症が合流異常症の73~85%に合併する.逆に胆道拡張症ではほぼ全例で合流異常がみられる.胆道拡張症では肝外または肝内・肝外の胆管が紡錘状~囊状に拡張する. 胆道癌を高率に合併する.胆道拡張例では胆囊,拡張胆管に,胆道非拡張例では胆囊に好発する.合流異常症に合併する胆道癌は若年発症が多いことが特徴であり,さらに加齢とともに増加する.胆囊粘膜過形成,腺腫は胆囊癌の前癌病変として重要である. また膵液胆管逆流により胆管炎・胆石症が,胆汁膵管逆流により急性膵炎が惹起される.
臨床症状
腹痛,黄疸,腫瘤触知,発熱,悪心・嘔吐などがみられる.胆道拡張例でははじめの3つが3主徴とされている.無症状で長期経過した後に,胆道癌が発生してはじめて合流異常症と診断される症例も多い.
診断
合流異常そのものの診断は画像上または解剖学的(手術や剖検)に膵管と胆管が異常に長い共通管(成人例では15 mm以上)をもって合流するか,異常な形で合流するのを確認することによる.胆汁中アミラーゼ濃度の高値は有力な補助診断である. 乳幼児期に発見される症例の多くは先天性胆道拡張症合併例であり,上腹部腫瘤を触知したり黄疸が持続する場合には本症を疑う.超音波検査で胆道拡張症の診断がつくことが多く,胆道系酵素上昇のほか,肝機能障害,膵酵素上昇を伴う. 成人例の合流異常症の診断は,画像診断で長い膵胆管共通管を描出することが実際的である.ERCPのほか,非侵襲的検査法であるMRCPが用いられ,合流異常の確定のみならず,胆道拡張症の診断にも有用である(図9-24-1).
治療
合流異常症は胆道発癌の危険性が高く,発生後の胆道癌の手術成績は必ずしも良好ではない.したがって合流異常症は早期の手術が必要であり,たとえ無症状であっても外科治療の適応である. 胆道拡張症合併例では,分流手術(膵液と胆汁の相互逆流を遮断する)として肝外拡張胆管切除・胆囊摘出・胆管空腸吻合術を行う.内瘻術(胆管空腸吻合術のみを行い拡張胆管を残置する)は胆管炎・胆管癌の合併が多く,禁忌である.胆管非拡張例では,胆汁が濃縮・うっ滞し発癌部位となる胆囊のみの摘出でよいとする意見と,胆管癌がまれに合併するので肝外胆管切除の併施(分流手術)が必要との意見とがあり,統一した見解は得られていない.胆道癌合併例では,肝外胆管切除・胆囊摘出術に加え,通常の胆道癌と同様に癌の存在部位・進展度に応じて合併切除を行う.[杉山政則]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報