内科学 第10版 「膵・膵島移植」の解説
膵・膵島移植(糖尿病)
a.膵臓移植(pancreas transplantation)
1型糖尿病には,網膜症,神経障害,腎症など二次的合併症が発生する.慢性腎不全になり透析導入後は予測生存期間が8年まで短くなるといった報告もあり,膵臓移植の適応となる.したがって大部分の症例が脳死ドナーから膵腎同時移植(simultaneous pancreas and kidney transplantation:SPK)として行われる.移植後は血液透析とインスリン自己注射から開放され,社会復帰が可能となり,予測生存期間は約24年まで伸びる(Ojoら,2001).
米国ミネソタ大学に設置されたInternational Pancreas Transplant Registryの報告では,膵臓移植の総数は2010年に37000例をこえ,毎年1200例前後が実施されている.膵臓移植にはSPKのほか,腎移植後膵移植(pancreas after kidney transplantation:PAK),腎症はないが血糖コントロールがきわめて難しい症例に適応となる膵単独移植(pancreas transplantation alone:PTA)の3つのカテゴリーがある.SPKが移植総数の73%,PAK,PTAが各々18%,9%を占める.移植患者の3年生存率はカテゴリーにかかわらず90%をこえているが,膵臓の3年生着率(インスリン離脱率)はSPK 78%,PAK 66%,PTA 57%とSPKが最も良好である.膵臓の拒絶反応診断には有用な指標がないが,同時に拒絶されることが多い腎臓の拒絶反応は血清クレアチニン上昇や腎グラフトの生検で診断できる結果,早期に拒絶反応治療を開始できることがSPKの成績が良好な一因である.移植方法は全膵・十二指腸を右腸骨窩に,腎臓を左腸骨窩において,腸骨動静脈にグラフトの動静脈を吻合し移植することが多い.膵液処理は十二指腸をレシピエントの小腸に吻合することが多くなっているが,十二指腸膀胱吻合で尿中に排泄させ,尿中アミラーゼ値で移植膵機能や拒絶反応の有無を評価することもある(図13-2-23,13-2-24).免疫抑制薬はタクロリムスなどのカルシニューリン・インヒビター,副腎皮質ステロイド,胸腺細胞抗体など多剤併用で行う.
日本国内では,1997年に臓器移植法施行,2000年に法整備後初の脳死膵腎同時移植が施行されたが,ドナー不足で脳死下臓器提供は年10件に満たない年が多かった.しかし,2010年7月の改正臓器移植法施行後は家族承諾の臓器提供が可能となり,膵臓の提供が5~8倍に増加した.それにより改正後から2012年4月までの2年足らずで63例の脳死下膵臓移植が施行され,改正前の13年間で蓄積された64例と合わせて127例(SPK 105例(83%),PAK 19例(15%),PTA 3例(2%))が施行されている.移植成績は欧米の成績と遜色なく,状態の不良なドナーが多いわが国の状況を鑑みると良好な成績といえるが,近年症例が増加しており早い段階で成績の再評価が必要である.
b.膵島移植(islet transplantation)
膵島移植の適応も同じく1型糖尿病であるが,国内では慢性腎不全のない患者に心停止ドナーから提供された膵臓を使用して行うことが基本となっている.一方,欧米では脳死ドナーから行われている.膵島移植は膵臓から分離・純化された膵島を門脈内に点滴で移植するもので,臓器移植にない低侵襲性が大きな長所である.膵島移植は1974年に世界ではじめて臨床実施されたが,当初は移植後1年でインスリン分泌が認められる症例は全体の8%にすぎなかった.しかし,2000年に移植後の免疫抑制に膵島毒性を有するステロイドを用いず,またカルシニューリン・インヒビターを少量に制限し,さらに膵島毒性のないラパマイシンを使用するEdmontonプロトコルで,2~3人のドナーと2~3回の膵島移植を要するものの12例の患者のすべてが移植後インスリンを離脱できた(Shapiroら,2000).国内では2003年にはじめて臨床実施され,2007年3月までに65回の膵島分離が行われ,18人の患者に34回の膵島移植が行われた.これまでのデータの蓄積で,一時的にインスリンから離脱できる症例もあるが,Ryanらによると移植後5年で92.5%のレシピエントにインスリン投与が必要になり長期成績には問題がある.しかし,82%のレシピエントにおいてC-ペプチドが移植前より増加しており,血糖コントロールは容易になる(Ryanら,2005).[鈴木康之・岡野圭一]
■文献
Ojo AO, Meier-Kriesche H-U, et al: The impact of simultaneous pancreas-kidney transplantation on long-term patient survival. Transplantation, 71: 82-89, 2001.
Ryan EA, Paty BW, et al: Five-year follow-up after clinical islet transplantation. Diabetes, 54, 2060-2069, 2005.
Shapiro AM, Lakey JR, et al: Islet transplantation in seven patients with type 1 diabetes mellitus using a glucocorticoid-free immunosuppressive regimen. N Engl J Med, 27: 343, 230-238, 2000.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報