慢性腎不全

EBM 正しい治療がわかる本 「慢性腎不全」の解説

慢性腎不全(人工透析導入前)

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 腎不全(じんふぜん)は腎機能が正常に働かない病気で、このうち数カ月から数年かけて徐々に腎臓の働きが低下していき、体内の老廃物を十分排泄(はいせつ)できない状態を慢性腎不全といいます。腎臓の働きが急激に低下した状態は急性腎不全といいます。
 一般に腎機能が正常の30パーセント以下であれば腎不全とし、血清クレアチニン値で2~3ミリグラム/デシリットル以上となります。慢性腎不全になると、多くの場合、進行性で、完全に治すことはできません。最終的には人工透析(じんこうとうせき)、腎移植などの代替療法が必要になりますが、いかにしてこれら代替療法の必要となる時期を先送りできるかが重要な課題です。
 血液検査上、血清クレアチニン尿素窒素(にょうそちっそ)などの値がある程度まで上昇し、腎臓の働きが低下していても、最初のうちは自覚症状がまったくありません。腎臓の機能が正常時の10~50パーセント程度まで低下すると脱力感や疲れやすさ、頭痛などの自覚症状が現れてきます。
 いわゆる腎不全の末期症状である尿毒症の状態になると、貧血、骨がもろくなる骨粗(こつそ)しょう症や骨軟化症、皮膚のかゆみ、消化性潰瘍(しょうかせいかいよう)や急性膵炎(きゅうせいすいえん)痛風/高尿酸血症脂質異常症、神経症状(中枢神経の機能低下、けいれん、自律神経障害、末梢(まっしょう)神経障害など)、高血圧心筋梗塞(しんきんこうそく)、心外膜炎(しんがいまくえん)、心不全などの症状が出現します。なんらかの症状が現れるころには、かなり進行していることが多いので、健診などで異常が指摘されたら必ず専門医を受診すべきです。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 のう胞腎(ほうじん)などの先天的な病気のほか、慢性糸球体(しきゅうたい)腎炎、腎硬化症、骨盤内腫瘍(こつばんないしゅよう)や前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)などによる尿管や尿道の閉塞(へいそく)、尿路感染症(にょうろかんせんしょう)などさまざまな病気が原因となります。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

■食事療法を行う
[治療とケア]たんぱく質を制限する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] たんぱく質制限が腎機能の低下を抑える効果が乏しくても、代替療法が必要となるまでの時間を延長させることについては、比較的信頼性の高い臨床研究があります。(1)(2)

[治療とケア]食塩を制限する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 食塩の制限は、慢性腎不全で合併の多い高血圧の予防と治療、心血管疾患と末期腎不全の予防のために有効であることが信頼性の高い臨床研究によって証明されていますが、1日3グラム以下の過剰な塩分制限は勧められていません。(3)

 



[治療とケア]降圧薬を使って血圧を下げる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 降圧薬のレニンアンジオテンシン系阻害薬はたんぱく尿を減少させ、腎機能障害の進行を抑制することが、非常に信頼性の高い臨床研究によって報告されています。レニンアンジオテンシン系阻害薬以外の降圧薬も、血圧を下げることによって腎機能を保護する効果がありますが、レニンアンジオテンシン系阻害薬の効果のほうがすぐれているため、レニンアンジオテンシン系阻害薬がどうしても使えない場合を除けば、ほかの降圧薬は第一選択になりません。レニンアンジオテンシン系阻害薬単独では目標の値まで血圧を下げることができないときには、ほかの降圧薬を加えます。(4)~(6)

[治療とケア]利尿薬で排尿を促す
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] むくみや心不全に対して利尿薬が有効であり、慢性腎不全に合併する心血管疾患の発症を抑制するという非常に信頼性の高い臨床研究があります。(7)

[治療とケア]脂質異常症を改善する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 脂質異常症の治療により慢性腎不全の合併症である心血管障害の発症を抑制できることが信頼できる臨床研究で報告されています。(8)
 スタチン系と呼ばれる脂質降下薬はたんぱく尿を減少させ、腎機能の悪化を抑制できることが信頼できる臨床研究で報告されています。(9)

[治療とケア]クレアチニンの吸収を抑制させる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] クレアチニンの吸収を抑制させる球形吸着炭は日本でのみ認可されている薬剤で、腎機能の指標の一部を改善させ、慢性腎不全の進行を抑制させる可能性があると報告されています。(10)

[治療とケア]代謝性アシドーシスを補正する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 重曹などで代謝性アシドーシス(血液が腎不全のために酸性になること)を治療すると腎機能の悪化を抑制することが信頼性の高い臨床研究で報告されています。(11)

[治療とケア]高カリウム血症を改善する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 生理学的に、あるレベル以上の高カリウム血症になると心停止をおこすことがわかっています。このためカリウム結合性レジンを用いて血清カリウム値を下げることで、心停止のリスクを低くします。心停止をおこすことがわかっている以上、倫理的に比較臨床研究を行うことはできません。(12)

■合併症の治療を行う
[治療とケア]腎性骨症の治療を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 活性型ビタミンDを用いることで、生命予後を改善したという報告はありますが、腎不全そのものの進行を遅らせることができるかどうかははっきりしていません。(13)

[治療とケア]腎性貧血の治療を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 腎性貧血に対してエリスロポエチン製剤を用いることで生活の質(QOL)が向上し、急性心筋梗塞脳梗塞などの頻度(ひんど)が低下することを示す臨床研究があります。(14)

[治療とケア]高尿酸血症の治療を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 慢性腎不全に伴う高尿酸血症の治療で、腎不全の進行が抑制されることが臨床研究によって確認されています。(3)


よく使われている薬をEBMでチェック

腎臓を保護する目的で血圧をコントロールする(レニンアンジオテンシン系阻害薬)
[薬用途]ACE阻害薬
[薬名]エースコール(テモカプリル塩酸塩)(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]コバシル(ペリンドプリルエルブミン)(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]レニベース(エナラプリルマレイン酸塩)(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 降圧薬のACE阻害薬が腎機能やたんぱく尿の悪化を抑制するという、非常に信頼性の高い臨床研究があります。

[薬用途]AⅡ受容体拮抗薬
[薬名]ニューロタン(ロサルタンカリウム)(10)(15)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ブロプレス(カンデサルタンシレキセチル)(10)(15)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]アバプロ/イルベタン(イルベサルタン)(10)(15)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ミカルディス(テルミサルタン)(10)(15)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] AⅡ受容体拮抗薬で血圧をコントロールすることにより、人工透析が必要なレベルまで腎機能が悪化したり死亡したりする確率を下げられることが、非常に信頼性の高い臨床研究で示されています。

排尿を促す
[薬用途]ループ利尿薬
[薬名]ラシックス(フロセミド)(7)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 利尿薬によって排尿量が増加し、むくみや心不全を改善させ、慢性腎不全に合併する心血管疾患の発症を抑制するという非常に信頼性の高い臨床研究があります。

脂質異常症を改善する
[薬用途]スタチン系脂質異常症治療薬
[薬名]メバロチン(プラバスタチンナトリウム)(8)(9)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]クレストール(ロスバスタチンカルシウム)(8)(9)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]リポバス(シンバスタチン)(8)(9)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]リバロ(ピタバスタチンカルシウム)(8)(9)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 脂質異常症の治療により慢性腎不全の合併症である心血管障害の発症を抑制できることが信頼性の高い臨床研究で報告されています。スタチン系と呼ばれる脂質降下薬はたんぱく尿を減少させ、腎機能の悪化を抑制できることが信頼性の高い臨床研究で報告されています。


クレアチニンの吸収抑制をはかる
[薬名]クレメジン(球形吸着炭)(10)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 球形活性炭はクレアチニンの吸収を抑制し、慢性腎不全の進行を抑制させる可能性があると報告されています。

高カリウム血症に対するカリウム結合性レジン
[薬名]ケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)(12)
[評価]☆☆☆
[薬名]カリメート(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)(12)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ポリスチレンスルホン酸カルシウムなどのカリウム結合性レジンが高カリウム血症を改善させますが、便秘や腸管壊死などをおこすことがあり、腹部症状に注意して使用する必要があります。

合併症を改善する
[薬用途]腎性骨症/活性型ビタミンD3製剤
[薬名]アルファロール/ワンアルファ(アルファカルシドール)(13)
[評価]☆☆☆
[薬名]ホーネル/フルスタン(ファレカルシトリオール)(13)
[評価]☆☆☆
[薬名]ロカルトロール(カルシトリオール)(13)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 活性型ビタミンD3製剤を用いることで、腎性骨症の進行が抑制できることが報告されていますが、同時に腎不全そのものの進行には影響がないことも確かめられています。

[薬用途]腎性骨症/リン吸着剤
[薬名]カルタン(沈降炭酸カルシウム)(16)
[評価]☆☆☆
[薬名]ホスレノール(炭酸ランタン水和物)(16)
[評価]☆☆☆
[薬名]フォスブロック/レナジェル(セベラマー塩酸塩)(16)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] リン吸着剤により二次性の甲状腺機能亢進症の悪化が抑制され、腎性骨症の進行に寄与する可能性が報告されています。

[薬用途]腎性貧血治療薬
[薬名]エスポー(エポエチンアルファ)(10)(14)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]エポジン(エポエチンベータ)(10)(14)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ネスプ(ダルベポエチンアルファ)(10)(14)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]ミルセラ(エポエチンベータペゴル)(10)(14)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 腎性貧血の治療にこれらのエリスロポエチン製剤を使用することでQOLが向上し、心筋梗塞、脳梗塞など心臓・血管の病気の頻度が低下することを示す、非常に信頼性の高い臨床研究があります。

[薬用途]高尿酸血症
[薬名]ザイロリック(アロプリノール)(17)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 慢性腎不全に伴う高尿酸血症の治療を行うことで、腎不全の進行が抑制されることが臨床研究によって確かめられています。腎不全が進行した場合には減量が必要です。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
治療は食事療法と薬物療法の2本柱で
 慢性腎不全になると、ほとんどは進行性で完全に治すことはできません。腎機能がある程度まで低下すると、透析などの腎代替療法が必要となります。そこで、いかに腎機能を保護して腎代替療法の時期を先送りできるかが治療の課題といえます。
 慢性腎不全の治療は、主として食事療法と薬物療法の二つを基本として進められます。食事では、塩分、たんぱく質、カリウムを多く含む食物、それに過度の水分摂取を制限することが基本となります。
 一方、慢性腎不全の初期から服用すべきと考えられている薬物として、レニンアンジオテンシン系阻害薬をはじめとする降圧薬があります。とくにACE阻害薬、AⅡ受容体拮抗薬の有効性(腎臓を保護することで腎代替療法が必要になるまでの期間を延長できること)が実証されたことは、腎疾患の治療上、もっとも重要な最近の進歩と考えられています。したがってあまりにも腎機能が悪化してしまっているなどの特別な理由がない限り、できるだけレニンアンジオテンシン系阻害薬を用います。

合併症の治療にも重点を
 慢性腎不全の場合、腎機能の低下が強くなるに伴って、合併症が増えてきます。それらおのおのの治療を行う必要があります。
 たとえば腎性貧血を改善するためのエリスロポエチン製剤の使用、高カリウム血症に対するカリメート(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)の使用などが必要になります。

服用する薬にも注意が必要
 ある種の抗菌薬(アミノグリコシド系やテトラサイクリン系など)や非ステロイド抗炎症薬など、いったん腎臓に入ってそこから排泄されるタイプの薬は腎臓に負担がかかるため、これらの薬の服用には注意が必要です。
 なかでも血清カリウム値を上昇させるタイプの薬(利尿薬のアルダクトン、レニンアンジオテンシン系阻害薬など)は十分注意して、専門家の管理のもと指示に従って内服することが必要です。

(1)Fouque D, Laville M. Low protein diets for chronic kidney disease in non diabetic adults. Cochrane Database Syst Rev. 2009; CD001892.
(2)Hansen HP, Tauber-Lassen E, Jensen BR,et al. Effect of dietary protein restriction on prognosis in patients with diabetic nephropathy. Kidney Int. 2002;62:220-228.
(3)日本腎臓学会エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013.東京医学社.
(4)de Galan BE, Perkovic V, Ninomiya T, et al. Lowering blood pressure reduces renal events in type 2 diabetes. J Am SocNephrol. 2009;20:883-892.
(5)Sarnak MJ, Greene T, Wang X, et al. The effect of a lower target blood pressure on the progression of kidney disease: long-term follow- up of the modification of diet in renal disease study. Ann Intern Med. 2005;142:342-351.
(6)Casas JP, Chua W, Loukogeorgakis S, et al. Effect of inhibitors of the rennin-angiotensin system and other antihypertensive drugs on renal outcomes: systematic review andmeta-analysis. Lancet. 2005;366:2026-2033.
(7)Rahman M, Ford CE, Cutler JA, et al. Long-term renal and cardiovasucular outcomes in Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Hearet Attack Trial (ALLHAT) participants by baseline estimated GFR. Clin J Am SocNephrol, 2012;7:989-1002.
(8)Baigent C, Landray MJ, Reith C, et al. The effects of lowering LDL Cholesterol with simvastatin plus ezetimibe in patients with chronic kidney disease(Study of Heart and Renal Protection): a randamised placebo-controlled trial. Lancet 2011;377:2181-2192.
(9)Navaneethan SD, Pansini F, Perkovic V, et al. HMG COA reductase inhibitors(statins) for people with chronic kidney disease not requiring dialysis. Cochrane DatabeseSyst Rev. 2009;15:CD007784.
(10)Bakris GL, Weir MR, Shanifar S, et al. Effects of blood pressure level on progression of diabetic nephropathy: results from the RENAAL study. Arch Intern Med. 2003;163:1555-1565.
(11)de Brito-Ashurst I, Varagunam M, Raftery MJ, et al. Bicarbonate supplementation slows progression of CKD and improves nutritional status. J Am SocNephrol. 2009;20:2075-2084.
(12)Sandal S, Karachiwala H, Noviasky J, et al.To Bind or to Let Loose: Effectiveness of Sodium Polystyrene Sulfonate in Decreasing Serum Potassium. Int J Nephrol. 2012;Article ID 940320.
(13)Shoben AB, Rudser KD, de Boer IH, et al. Association of oral calcitoriol with improved survival in nondialyzed CKD. J Am SocNEphrol. 2008;19:1613-1619.
(14)Pfeffer MA, Burdmann EA, Chen C-Y,et al. A trial of darbepoetin alfa in type 2 diabetes and chronic kidney disease. N Engl J Med. 2009;361:2019-2032.
(15)Parving HH, Lehnert H, Bröchner-Mortensen J, et al. The effect of irbesartan on the development of diabetic nephropathy in patinetst with type 2 diabetes. N Engl J Med. 2001;345:870-878.
(16)Block GA, Wheeler DC, Persky MS, et al. Effects of phosphate binders in moderate CKD. J Am SocNephorol. 2012;23:1407-1415.
(17)Goicoechea M, de Vinuesa SG, Verdalles U, et al. Effect of allopurinol in chronic kidney disease progression and cardiovascular risk.Clin J Am SocNephrol. 2010;5:1388-1393.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

内科学 第10版 「慢性腎不全」の解説

慢性腎不全腎不全(腎障害)

(1)慢性腎不全(CRF)と慢性腎臓病(CKD)の違い
 慢性腎臓病(CKD)は,2002年に米国腎臓財団が“腎臓病の生命に及ぼす影響や生活の質に関する改善策”のガイドラインとしてはじめて提唱した概念である【⇨11-2】.後述のように腎機能の低下や腎臓病の症候が3カ月以上続けばCKDと診断でき,きわめてわかりやすく非専門医でも簡単に診断できるのが特徴である. 一方,慢性腎不全(CRF)とは糸球体濾過値(GFR)に代表される腎の排泄機能の低下が非可逆的で,腎機能が正常の50%以下の状態を指す.したがって,CKDはCRFを包含する広い概念で,今後は慢性腎臓病に関してはCKD概念を中心に論じられることが多いと考えられる.また,一般に尿毒症は腎機能が正常の5%未満に低下した状態で,CKDや急性腎障害(acute kidney injury:AKI)に由来し,多彩な臨床症状を呈し,透析療法が必要なことが多い(図11-10-6).
(2)慢性腎不全(CRF)の概念
 CRFとはGFRに代表される腎の排泄機能の低下を示す病態である.腎不全は,急激に発症し回復の可能性のある急性腎不全と,非可逆性のCRFとに分けられる.急性腎不全は1つのネフロンあたりのGFRの低下を示し,CRFは機能ネフロン数の減少を特徴とし,残存して機能している1つのネフロンあたりのGFRは正常以上であることが多い.通常,ヒトの腎臓は,一側で100万個のネフロンを有しているが,9割以上が障害されれば尿毒症(uremia)になる.CRFは,すべての慢性進行性腎臓病でみられる病態で,排泄能の低下は連続的であり,どの時期からCRFと呼ぶかはあくまでも人為的なものであるが,Seldinの分類(表11-10-9)で第3期以降を狭義のCRF,第2期以降を広義のCRFとしている.
(3)CRFの病期分類
 CRFは前述のように機能ネフロン数の減少を特徴としているが,腎排泄障害の程度から4期に分けられる(表11-10-9).第1期(腎予備力低下期)は,GFRの低下が50%までの時期で,血清尿素窒素(BUN),クレアチニン(Cr)の上昇もなく,臨床的にも無症状である.第2期(腎機能不全期)は,GFRの低下が20~50%(血清Cr 2.0 mg/dL以下)まで低下し,BUNやCrが上昇し始める.夜間尿,貧血や易疲労感が出現し,高血圧の合併も多くなる.第3期(腎不全期)は,GFRは10~20%(血清Cr 2.0~8.0 mg/dL)となり,高窒素血症や貧血も著明となり,アシドーシス,高カリウム血症,高リン血症,低カルシウム血症などの電解質異常が出現する.第4期(尿毒症期)はGFRは10%以下(血清Cr 8.0 mg/dL以上)となり尿毒症により多彩な症状が出現する.中枢神経系,消化器系,循環器系,血液系に多彩な異常がみられ,放置すれば死の転機をとる.
(4)CRFの治療
 CKDの治療に準ずる.腎機能が低下するほど,かかりつけ医と腎臓専門・透析専門医との連携が大切になる.治療にあたっては,原疾患の治療と共に,生活習慣の修正,血圧,血糖,脂質の管理に加え,腎機能低下に伴う病態(腎性貧血や骨・ミネラル代謝異常)を治療する(各項目参照).
 血圧の管理目標は130/80 mmHg未満とし,緩徐に降圧することを原則にする.高血圧は腎機能低下によるものと断定せず,二次性高血圧のスクリーニングを行う.降圧治療薬としてはRA(レニン-アンジオテンシン)系阻害薬を第一選択薬とするが,必要に応じてCa拮抗薬や利尿薬などの降圧薬を併用する.RAS系阻害薬の投与時には血清クレアチニン値の上昇や高カリウム血症に注意する.糖尿病性腎症では血圧の管理に加えて血糖をHbA1c 6.9%未満に,またLDLコレステロールは120 mg/dL未満に管理する.腎性貧血や腎不全進展予防のため,エリスロポエチン製剤や経口吸着薬の投与にあたっては,腎臓専門医と相談する.腎排泄性の薬剤は腎機能に応じて減量や投与間隔の延長を行う必要がある.ことに,非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)や造影剤などは腎機能低下のリスクであり注意する必要がある.[草野英二]
■文献
日本腎臓学会編:CKD診療ガイド2012.東京医学社,東京,2012.
Imai E, et al: Prevalence of chronic kidney disease (CKD) in the Japanese general population predicted by the MDRD equation modified by Japananese coefficient. Clin Exp Nepherol, 11: 156-163, 2007.
National Kidney Foundation: K/ DOQI clinical practical guidelines for chronic kidney disease: evaluation, classification, and stratification. Am J Kidney Dis, 39 (2 suppl 1): S1-S266, 2002.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「慢性腎不全」の解説

慢性腎不全
まんせいじんふぜん
Chronic renal failure
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 慢性(数カ月~数年かけて)に進行する腎臓の病気によって、徐々に腎機能の低下が進行する病態(状態)です。

原因は何か

 すべての腎臓病が原因になります(表15)。透析を導入された患者さんの原因となった病気は、多い順に、糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)慢性糸球体腎炎(まんせいしきゅうたいじんえん)腎硬化症(じんこうかしょう)(高血圧による腎障害)、嚢胞腎(のうほうじん)などです。近年、高齢社会の到来とともに糖尿病性腎症、腎硬化症が増えています。

 症状の現れ方は尿毒症の項目で詳細に解説しているので、参照してください。

検査と診断

 ゆるやかに進行する高窒素(ちっそ)血症、高クレアチニン血症、糸球体濾過(ろか)値の低下などで診断されます。

治療の方法

 まず、慢性腎不全の原因となった病気の治療を行います。その他の治療法は、①禁煙、減量などの生活習慣の改善、②減塩(6.0g/日未満)・蛋白質(たんぱくしつ)制限などの食事指導、③厳格な血圧(130/80㎜Hg以下)、血糖(HbA1C6.5%未満)および脂質管理、④貧血の改善、⑤カルシウムとリンの管理、⑥カリウムとアシドーシスの対策、⑦経口吸着剤などによる尿毒素対策など、すべて慢性腎臓病(CKD)の治療法に準じます。

 これらの治療にもかかわらず、腎機能の低下がさらに進行すると、血液浄化療法を行います。

病気に気づいたらどうする

 重要なことは、患者さん自身が「今、自分の腎不全はどこまで悪化しているのか」を理解することです。そのためには主治医とよく相談し、自分の病期に合った運動・食事療法を指導してもらい実践することです。

 他の病院にかかる時には、腎不全患者であることをよく説明し、安易に薬の投与を受けないことが肝心です。

福井 光峰, 富野 康日己



慢性腎不全
まんせいじんふぜん
Chronic renal failure
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 急性腎不全と同様に自覚症状に乏しく、また、この病気に特有な症状はありません。

 血清クレアチニン(Cr)値は腎機能だけでなく筋肉量にも関係しますが、高齢者では一般的に筋肉量が少ないので、腎機能低下のわりには血清クレアチニンが低値にとどまることが多くみられます。若年者と比較して栄養状態が悪く、蛋白分解による異化も亢進し、尿素窒素(BUN)が高い場合が多いことにも留意する必要があります。

診断

 慢性腎不全の進行度は、糖尿病性腎症(とうにょうびょうせいじんしょう)では早く、良性腎硬化症(りょうせいじんこうかしょう)ではゆるやかであることも診断にあたっては参考にすべきです。腎不全の診断は、高窒素血症(こうちっそけっしょう)の状態をどのように判断するかによりますが、前項の急性腎不全と同様に、腎機能の評価はBUN、Crではなく、可能なかぎりクレアチニン・クリアランスで評価すべきです。最近は、年齢と性別を考慮した推算糸球体濾過率で判定することが多くなっています。

治療とケアのポイント

 食事療法は、蛋白制限(0.6g/㎏以下)とカリウム制限(1500㎎以下)が重要です。薬物療法として、糖尿病性腎症やIgA腎症ではアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬が腎保護作用を示すので、少量から慎重に投与します。また、血清クレアチニン値が2㎎/㎗以上であれば、サイアザイド系利尿薬は使わないで、ループ利尿薬を使います。

 透析導入後は、合併症防止と日常生活動作(ADL)、生活の質(QOL)の維持、社会生活復帰が主体になります。したがって、食事療法も各種の制限は緩和されます。蛋白制限は血液透析(HD)で体重1㎏あたり1.0~1.2g、腹膜透析(CAPD)では1.1~1.3gとなります。カリウム制限は、HDでは1500㎎以下と薬物療法が必要ない保存期腎不全と同じですが、CAPDでは2000~2500㎎に緩和されます。

 薬物療法は500mlの利尿が保持されていれば、体液管理の目的でループ利尿薬を使用します。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「慢性腎不全」の解説

まんせいじんふぜん【慢性腎不全 Chronic Renal Failure】

[どんな病気か]
 いろいろな原因で長期にわたって徐々に腎臓(じんぞう)のはたらきが低下していく状態をいいます。はたらきの落ちている程度によって、軽いほうから腎機能障害、腎不全、尿毒症(にょうどくしょう)(「尿毒症」)に分類されます。正常の2分の1以下に落ちている段階あたりから慢性腎不全といいます。
[症状]
 腎臓のはたらきの落ちている程度が軽い間はほとんど症状がありません。腎臓のはたらきが正常の5分の1以下に落ちてから、いろいろと症状が出てきます。自覚症状として尿の量が増える(とくに夜)、目のまわりや足のむくみ、疲れやすい、食欲がない、息切れがする、皮膚がかゆい、貧血、アンモニアの口臭がする、血圧が高いなどの症状が出てきます。子どもでは身長が伸びません。
[原因]
 原因としては、慢性腎炎、糖尿病性腎症、腎硬化症(じんこうかしょう)、嚢胞腎(のうほうじん)の順となっています。最近は糖尿病からくる糖尿病性腎症が増えています。子どもでは、大部分が腎臓の先天的発育障害が原因となっています。
[検査と診断]
 腎臓のはたらきを調べる検査として、血液、尿の検査が行なわれます。血液検査の尿素窒素(にょうそちっそ)、クレアチニンの高い値、血液と尿のクレアチニンの値から計算するクレアチニンクリアランスの低下などがみられます。腎炎ではたんぱく尿がみられます。そのほか、超音波検査により腎臓の状態を調べます。
[治療]
 食事療法と薬物療法が中心です。食事療法の基本はたんぱく制限と高カロリー食です。状態に応じて、水分、塩分の制限が必要になります。具体的には、専門の医師、食事療法士に相談してください。薬物療法は、腎不全によっておこる症状を改善させるためのものです。たとえば、血圧を下げる薬(降圧薬)、尿量を増やす薬(利尿薬)などが投与されます。いよいよ末期の腎不全になったなら、(人工)透析療法(「人工透析」)に移行します。

出典 小学館家庭医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「慢性腎不全」の意味・わかりやすい解説

慢性腎不全
まんせいじんふぜん
chronic renal failure; CRF

腎機能が徐々に低下し,糸球体ろ過量の減少をきたす症候群。急性腎不全が時間や日の単位で悪化するのに対し,慢性腎不全は月や年の単位で悪化していく。また,一般に急性腎不全の症状は可逆的だが,慢性腎不全の場合は悪化する一方であるといわれる。症状は,糸球体ろ過量により4期に分けられる。第1期は糸球体ろ過量が通常の2/3以上の状態をいい,この段階では自覚症状はない。第2期は通常の2/3以下で,多尿がみられる。第3期は通常の1/3以下,第4期は通常の1/5以下である。第4期まで進むと尿毒症が現れ,人工透析療法が必要となる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の慢性腎不全の言及

【腎不全】より

…腎臓の機能のうち,糸球体のろ(濾)過機能の低下によって,生体内のホメオスタシスが維持できなくなった状態をいう。腎不全は,急速に発症し,回復の可能性のある急性腎不全と,非可逆的に進行する慢性腎不全に分けられる。
[急性腎不全]
 急激に発症し,数時間から数日の間に腎不全になるもので,90%以上は腎臓以外の誘因によって発生する。…

※「慢性腎不全」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

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