臨床推論の思考パターン

内科学 第10版の解説

臨床推論の思考パターン(患者へのアプローチの基本)

 臨床で疾患や病態を診断(臨床推論:clinical diagnostic reasoning)する思考過程は複雑で,いくつかの思考パターンが提唱されている.よく知られている5つの思考パターンを表1-2-6に示す.自分の臨床推論がどのパターンに近いか意識する(メタ認知)ことにより,診断の誤りや偏りを認識しやすくなる.同じ医師であっても,状況によってさまざまな思考パターンを使っている.
1)パターン認識: ゲシュタルト(Gestalt),一発診断,snap diagnosisなどとほぼ同義である.ひと目見ただけで,全体像を把握し正しい診断に至る「名人芸」として逸話的な扱いをされる場合が多いが,経験を積まなければ判断が偏る危険もあり,初学者がこの能力の習得を最初から目指すのは難しい.
2)ヒューリスティクス: 「近道思考」ともよばれ,「その疾患の典型に当てはまる」「以前に診た症例を連想する」「特徴的な所見から診断を連想する」といった方法で診断に早くたどりつく思考過程である.経験がこのような直観を育てるが,早合点や思い込みに注意しなければならない.
3)多分岐法: 論理的分類を情報によって絞り込む手順を繰り返す方法である.たとえば「咳が出る」という症例について「発熱の有無」で分け,熱がある場合はさらに「痰の有無」で分ける.疾患の特徴や差異を学ぶには適しているが,実際の臨床場面では,この例でいえば「少し咳が出る」場合の判断が困難になるなど,この方法だけでは対応できないことが多い.
4)徹底的検討法: 系統的に情報を抽出し可能性のある病名を網羅する方法で,たとえば少しでも可能性のある鑑別診断を20~30個もあげて,1つずつ検討していく方法である.多角的に検討する訓練になるが,実際の臨床場面では時間がかかりすぎるうえに,情報の重要性の見落としや混乱が増える危険も伴うため,症例検討会などで用いられることが多い.
5)仮説演繹法: いくつかの鑑別診断を想定しながら診療し新しい情報を得るたびに鑑別診断のリストを並べ替える方法である.初学者が習得すべき方法として推奨される.たとえ熟練した臨床医でも,パターン認識やヒューリスティクスでは診断が困難な,苦手な領域やまれな症候を扱う場合などには頻用される.表1-2-7に例を示す.[大滝純司]
■文献
Bowen JL: Educational strategies to promote clinical diagnostic reasoning. NEJM, 355: 2217-2225, 2006.
Cole SA, Bird J 著,飯島克巳,佐々木将人訳:メディカルインタビュー−三つの機能モデルによるアプローチ 第2版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2003.
中川米造:過誤可能性.医学の不確実性,pp30-31, 日本評論社,東京,1996.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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