日本大百科全書(ニッポニカ) 「自然治癒力」の意味・わかりやすい解説
自然治癒力
しぜんちゆりょく
生体が疾病に罹患(りかん)しても、その程度がある程度以下ならば、特別な医療が施されなくても健康状態に回復することのできる力をいう。しかし、ある程度以上の病的状態では、医療の力が与えられなければ回復しないし、医療を加えても回復しえない場合もある。小児期や成人期の疾病では、自然の回復力も期待できるが、先天的な疾病や、生活習慣病(成人病)の代表である癌(がん)や難病では、老人病とともに自然治癒力はあまり期待できない。
生体は病因が作動した時点から、疾病の発現を阻止しようとして、防御反応、たとえば病原微生物の侵入に対する炎症反応や免疫反応、あるいは警告反応すなわち交感神経の緊張によるアドレナリンの分泌などがおこる。これらの反応は、細胞や組織の損傷の回復に結び付くものである。また、機能的な異常に対応しては、肥大や増生というプロセス(過程)もある。心臓弁膜症や高血圧症にみられる心肥大や、左右対称性の臓器たとえば腎臓(じんぞう)の一側が障害された場合に、他側の腎臓が肥大して、その機能を代償したりする。これらの現象は、機能のレベルからみた自然治癒力である。このように、細胞、組織、臓器のあらゆる段階で生体の秩序を維持しようとする生物学的なフィードバック・システム(還元操作の機構)の力が自然治癒力といえる。
[井上義朗]