自然治癒力(読み)しぜんちゆりょく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「自然治癒力」の意味・わかりやすい解説

自然治癒力
しぜんちゆりょく

生体疾病罹患(りかん)しても、その程度がある程度以下ならば、特別な医療が施されなくても健康状態に回復することのできる力をいう。しかし、ある程度以上の病的状態では、医療の力が与えられなければ回復しないし、医療を加えても回復しえない場合もある。小児期や成人期の疾病では、自然の回復力も期待できるが、先天的な疾病や、生活習慣病(成人病)の代表である癌(がん)や難病では、老人病とともに自然治癒力はあまり期待できない。

 生体は病因が作動した時点から、疾病の発現を阻止しようとして、防御反応、たとえば病原微生物侵入に対する炎症反応や免疫反応、あるいは警告反応すなわち交感神経の緊張によるアドレナリン分泌などがおこる。これらの反応は、細胞組織損傷の回復に結び付くものである。また、機能的な異常に対応しては、肥大や増生というプロセス(過程)もある。心臓弁膜症や高血圧症にみられる心肥大や、左右対称性の臓器たとえば腎臓(じんぞう)の一側が障害された場合に、他側の腎臓が肥大して、その機能を代償したりする。これらの現象は、機能のレベルからみた自然治癒力である。このように、細胞、組織、臓器のあらゆる段階で生体の秩序を維持しようとする生物学的なフィードバック・システム(還元操作の機構)の力が自然治癒力といえる。

[井上義朗]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の自然治癒力の言及

【医学】より

…とくに治療に関連して,症状を生体の防衛能力の現れとみて,それを支援することを原則とした。彼の言葉として伝えられる〈病を医するものは自然なり〉,あるいは〈病を治す自然〉から,のちに自然治癒力という概念が生まれる。彼の著作は,没後100年ほどして,アレクサンドリアのプトレマイオス王家の命令で収集,編集され,《ヒッポクラテス全集》として今日まで伝えられている。…

【看護】より

…人の生命の維持や健康の増進もまた,人が身体的,心理的,社会的に不安定な事態におかれると安定しようとして本来的に内部で働く小刻みなバランスの持続の過程といえよう。この働きは一般には〈自然治癒力〉と呼ばれるものであるが,看護は,こうした人に本来そなわっている自律的な安定への動きを助長するような〈環境づくり〉や〈関係づくり〉によって,その個人を支え,みずから健康上の問題にとりくむことのできるように働きかけている。看護の介入は,その個人がより安全で安楽に,しかも1日も早く,より頻繁に自分の身の回りのことを自分自身でできるような方向をめざして行われる。…

※「自然治癒力」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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