原因不明の神経病としてスモンの多発が社会問題となり,厚生省はスモンの研究体制を整備し,1972年に難病対策要綱を定め,難病対策として取り上げる疾病の範囲として,(1)原因不明,治療法未確立であり,かつ,後遺症を残すおそれの少なくない疾病,(2)経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家庭の負担が重く,また精神的にも負担の大きい疾病と定義した。難病対策は,(a)調査研究の推進,(b)医療機関の整備,(c)医療費の自己負担の解消を3本柱として総合的に推進するとした。
95年に対策の見直しがはかられ,特定疾患の対象としてとりあげる疾患の範囲を,(1)希少性,(2)原因不明,(3)効果的な治療法が未確立,(4)生活面への長期にわたる支障(長期療養を必要とする)という4要素にもとづくこととし,これまでの対策の柱に,(d)〈地域における保健医療福祉の充実・連携〉,(e)〈QOL(生活の質)の向上を目指した福祉施策の推進〉を追加して5本柱とした。5本柱の現在の内容は次の通り。
(a)調査研究の推進 96年度に研究体制を再編成し,臨床調査研究グループ,横断的基盤研究グループを創設,研究評価体制の強化,若手研究者の育成強化等をはかることとし,また難病患者のQOLの大幅な改善につながる研究を重点的研究とした。(b)医療機関の整備 重症難病患者の受け入れ施設の確保のため,国立病院・療養所の受入れ体制の強化,病院と連携することによる身体障害者療養施設への受入れ,医療保険制度の診療報酬における支援措置を図る等とした。(c)医療費の自己負担の解消 特定疾患治療研究事業として医療保険の自己負担分を全額公費負担していたが,財政構造改革の推進に関する閣議決定により毎年度1割削減の対象にされた。96年度予算要求では,1割削減の一方,最初の72年度の4疾患(ベーチェット病,重症筋無力症,全身性エリテマトーデス,スモン)から95年度37疾患に拡大されていた対象疾患にさらに1疾患を追加し,重症患者対策の強化として医療保険の枠を超える訪問看護を公費で実施するとしている。(d)地域における保健医療福祉の充実・連携 地域においては,保健所を難病対策事業の拠点とし,国全体に対しては,難病情報センターを設け,インターネットの活用を含め情報発信基地とするとした。(e)QOLの向上を目ざした福祉施策の推進 特定疾患,慢性関節リウマチを含め119疾患を対象に〈難病患者等居宅生活支援事業〉を97年1月より始めた。この事業は,前記の対象者に市町村が行うホームヘルパーの派遣,短期入所事業,日常生活用具給付事業への国庫補助,および都道府県等が行う難病患者等ホームヘルパー養成研修事業への国庫補助を内容としている。実際には,事業に着手している市町村が少なく,身体障害者手帳を有する者,18歳未満の者をも対象にするよう改善するとしている。難病医療に関する調査研究の成果として診療内容および療養環境改善等の向上に関する方法論は進歩したが,実際に地域ですべての患者にこの恩恵が及ぶにはまだ課題が多く残されている。
執筆者:西 三郎
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治療が困難で慢性の経過をたどる疾患を総称する一般用語だが、2015年(平成27)の「難病の患者に対する医療等に関する法律」(難病法)施行により、同法に基づいて338疾患(2021年11月時点)が指定難病とされた。また小児の難病に関しては、2005年の改正児童福祉法によって小児慢性特定疾病対策事業が始まり、16疾患群788疾病(2021年11月時点)が指定されている。行政的にはこれら二つが難病に位置づけられ、一般的な理解による難病とはかならずしも一致しない。また難病法施行以前、政府は原因不明で治療方法が確立されていない56疾患を特定疾患治療研究事業の「特定疾患」と位置づけ、医療費を助成していた。報道などでこれらを指定難病とよぶケースもあるが、厳密には行政的に位置づけられた難病とは異なる。
難病法施行に際し、厚生労働省は難病の定義を、(1)発病の機構が不明、(2)治療法が未確立、(3)希少、(4)長期の療養が必要、の4条件を満たす疾患と整理し、さらに指定難病には、(5)患者数が国内人口の0.1%程度以下、(6)客観的な診断基準が成立している、という2条件を加えた。対象となる疾患は厚生労働省厚生科学審議会指定難病検討委員会で適宜検討され、開始当初の110から5度にわたって追加されてきた。
一方、小児慢性特定疾病は、18歳未満の児童について(1)慢性に経過する、(2)生命を長期にわたり脅かす、(3)症状や治療が長期間生活の質を低下させる、(4)長期にわたり高額な医療費負担が続く、の4要件を満たす疾患を厚生労働省の審議会で検討して指定している。
[高野 聡 2023年10月18日]
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(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…その臨床症状はきわめて多彩で,診断法としては,直腸生検によって組織内にアミロイドの沈着を確認するのが最も安全かつ診断率の高い方法とされている。確立された治療法はなく,難治性の疾患で,1975年には難病に指定され,厚生省特定疾患調査研究班が発足し,また79年には治療研究対象疾患として取り上げられ,その病態究明に努力がはらわれている。欧米に比べ日本では比較的まれな疾患である。…
※「難病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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