化学辞典 第2版 「自由電子模型」の解説
自由電子模型
ジユウデンシモケイ
free electron model
金属結晶内の電子の一部,または共役分子内のπ電子が,外力を受けずに自由に運動しているとするモデル.【Ⅰ】金属の種々の物理的性質は,多数の電子が結晶内を自由に運動すると仮定する金属の電子論によって説明される.金属の自由電子模型では,結晶内のポテンシャルは外部よりある大きさだけ低く,このなかだけで電子は自由に運動する.このように仮定して古典統計力学を適用すれば,電気伝導性はよく説明される.また,ポテンシャルが結晶格子と同じ周期的格子をつくり,この場のなかを種々の量子数の電子が運動するとして,いわゆるバンド理論が発展した.この理論によって金属の種々の性質が説明されている.【Ⅱ】共役二重結合系がつくるπ電子系では,π電子系の骨格にそってπ電子はかなり自由に動くことができると考えられる.金属と同様な自由電子模型をπ電子に適用することにより,π電子系による可視,紫外領域の電子スペクトルを説明することができる.ことに,ベンゼンをはじめとする多くの環状芳香族化合物については,π電子は環の周縁にそって自由に運動できると考えることにより,π電子の角運動量の量子数変化による電子スペクトルの分類が巧みに行われている.また,環にそった電子の運動の自由性は,円電流に対応できるわけで,この考えを発展させて環状π電子系の円二色性の現象が説明される.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報