自由電子模型(読み)ジユウデンシモケイ

化学辞典 第2版 「自由電子模型」の解説

自由電子模型
ジユウデンシモケイ
free electron model

金属結晶内の電子の一部,または共役分子内のπ電子が,外力を受けずに自由に運動しているとするモデル.【】金属の種々の物理的性質は,多数の電子が結晶内を自由に運動すると仮定する金属の電子論によって説明される.金属の自由電子模型では,結晶内のポテンシャル外部よりある大きさだけ低く,このなかだけで電子は自由に運動する.このように仮定して古典統計力学を適用すれば,電気伝導性はよく説明される.また,ポテンシャルが結晶格子と同じ周期的格子をつくり,この場のなかを種々の量子数の電子が運動するとして,いわゆるバンド理論が発展した.この理論によって金属の種々の性質が説明されている.【共役二重結合系がつくるπ電子系では,π電子系の骨格にそってπ電子はかなり自由に動くことができると考えられる.金属と同様な自由電子模型をπ電子に適用することにより,π電子系による可視,紫外領域の電子スペクトルを説明することができる.ことに,ベンゼンをはじめとする多くの環状芳香族化合物については,π電子は環の周縁にそって自由に運動できると考えることにより,π電子の角運動量の量子数変化による電子スペクトルの分類が巧みに行われている.また,環にそった電子の運動の自由性は,円電流に対応できるわけで,この考えを発展させて環状π電子系の円二色性現象が説明される.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の自由電子模型の言及

【自由電子】より

…物質中の自由電子の概念は,20世紀の初め,ドイツのドルーデPaul Karl Ludwig Drude(1863‐1906)とH.A.ローレンツが,金属の価電子が自由電子のガスとして存在すると考えると,金属の電気伝導,熱伝導,光学的性質などをおおよそ説明できることを示したのが最初である。このような考え方を古典自由電子模型と呼んでいるが,この成功の一つは,金属の電気伝導度と熱伝導度との比は同一温度では金属の種類によらず同一の値をもつというウィーデマン=フランツの法則を説明できたことである。しかし,自由電子の古典的なガスの模型では,金属の比熱や常磁性帯磁率などについては実験と矛盾し,またなぜ電子が格子間隔の数百倍の距離を,あたかも真空中にあるのと同じように自由に運動できるかということも説明できない。…

※「自由電子模型」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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