世阿弥の書いた能の伝書。能芸における稽古習道に関する考えをまとめたもので,奥書から1420年(応永27)6月,世阿弥58歳のときの著述であることがわかる。内容は,能芸の基礎(舞歌二曲および老・女・軍の三体)と学習の順序について述べる〈二曲三体事〉,芸の主になりえない無主風と,芸を真に我がものとしきった有主風との違いを説き,有主風に進まねばならぬことを教える〈無主風事〉,非風を是風に化かす達人の芸位と,それを初心者が模倣することを戒める〈闌位事〉,芸態を皮(ひ)・肉(にく)・骨(こつ)に分け,それを完備することの至難さを説く〈皮肉骨事〉,基本になる型と,その型から表れる風趣との違いを認識して稽古すべきことを教える〈体用(たいゆう)事〉の5ヵ条および貴人の批判に耐えうる修養鍛錬の必要を説く結辞の一文から成る。その所説は《風姿花伝》や《花鏡》に説く習道論をまた別の面から詳述するものであるが,より簡潔で,要領を得ており,能芸の習道に関する世阿弥の所論の根幹を成すものとして重要視されている。
執筆者:中村 格
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…子弟の成長で観世座は発展の一途をたどり,彼自身の芸も円熟の境に達し,出家前後が世阿弥の絶頂期であったろう。応永27年(1420)の《至花道》,30年の《三道》,31年の《花鏡(かきよう)》など,高度な能楽論が続々と書かれたし,彼が多くの能を創作したのも出家前後が中心らしい。 だが,1428年(応永35)に義持が没し,還俗した弟の義教が将軍になってから,観世父子に意外な悲運が訪れた。…
※「至花道」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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