日本大百科全書(ニッポニカ) 「船徳」の意味・わかりやすい解説
船徳
ふなとく
落語。初代古今亭志ん生(ここんていしんしょう)がつくった人情噺(ばなし)『お初徳兵衛浮名桟橋(うきなのさんばし)』の発端の場が独立して一席物の落語となったもの。道楽の果てに勘当となった若旦那(だんな)の徳兵衛が、船宿の居候になっているうちに船頭になりたくなり、親方の止めるのもきかずに船頭の修業を始める。まだろくに船がこげないとき、浅草観音(かんのん)の四万六千日の日に客がくるが、船頭が出払っていたので徳兵衛が二人の客を乗せてこぎ出す。船が石垣に寄ったり、ひどく揺れたりして客が驚く。やっとのことで浅草河岸までくるが桟橋に着かない。一人の客がもう一人の客を負ぶって水の中を歩いて陸へ上がる。「おれたちは上がるけどねえ、若(わけ)え衆(し)、真っ青な面(つら)してるがいいかなぁ、しっかりおしよ、だいじょうぶかい」「お客さま、お上がりになりましたら船頭を1人雇ってください」。現行『船徳』の演出は明治時代に3代目三遊亭円遊(えんゆう)(鼻の円遊)がくふうしたものだが、8代目桂文楽(かつらぶんらく)が練り上げた。
[関山和夫]