江戸時代から明治前半にかけて,全国の廻(回)船の寄港地にあった乗組員の宿屋のこと。当時の回船は港ごとに船宿が決まっていた。とくに回船の多数を占める買積船の場合は,各港で船頭が商売をする権限を持っており,船宿は上陸した船頭たちの商取引の場でもあった。これは船荷の取次を行う回漕問屋が船宿を兼ねている例が多かったことにもよる。船宿は幕府の回船に対する統制の一部を分担するという側面を持っていた一方で,回船をめぐる訴訟などでは,船主または船頭側の保証人として船宿がその利益を代弁した。そのほか船に対する金融業も行っていたし,ときには乗組員に売春の斡旋なども行っていた。このように船宿は近世における全国の回船を実際上支える重要かつ多様な機能を持っており,宿泊機能はその一部にすぎなかったといってよい。これに対し漁港の船宿は近代になってからのことで比較的新しい。
江戸,大坂などの大都会では,遊船,釣船などの貸船を仕立てる場所も船宿という。江戸では,浅草御門から柳橋周辺の河岸,日本橋,江戸橋近辺の河岸を中心に,今戸橋,山谷河岸,本所,深川などに散在し,納涼,花見などの船を出すほか,その座敷は男女の密会や,酒宴の場として使われた。さらに,吉原通いに猪牙船(ちよきぶね)を仕立てることが有名なように,船宿では遊客のためのさまざまな便宜をはかり,実際には待合茶屋,出合茶屋としての機能を果たしていた。
執筆者:玉井 哲雄
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船員を泊める宿。上級船員用を船宿といい、水夫(かこ)らを泊めるのは小宿(こやど)ということがある。荷物の積み下しや風待ちなどで寄港した船の船員を休養させる必要があり、同時に食糧・燃料・漁業資材を供給する施設であった。それが、船員の紹介や難船処理の立会い、漁獲物の売却など、業務の拡大とともに船問屋・荷主・船主への影響力を増し、系列化も生じた。これとは別に、釣り客や船遊びに船を用意する店も船宿といった。有名な江戸の船宿は、吉原の遊客が船便を利用したのでその休憩所となり、また深川芸者との遊興場所にもなった。両種の船宿とも、明治以後は動力船の導入や陸上交通が発達したため急速に衰退したが、釣り客用の船宿だけが残った。
[原島陽一]
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…原則として待合は,芸者などの芸人を招いて客に遊興させる店で,調理設備をもたず飲食物は他から取り寄せることとし,貸席料のほかに飲食代や芸者の玉代(ぎよくだい)および売春料の一部をはねて収入とする。なお,江戸時代の売春仲介貸席業としては,中宿(なかやど),盆屋(ぼんや),船宿などがあった。【原島 陽一】。…
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