日本大百科全書(ニッポニカ) 「蒲焼き」の意味・わかりやすい解説
蒲焼き
かばやき
ウナギなどの長身の魚に用いる料理法。語源については諸説あるが、斎藤彦麿(ひこまろ)の『傍廂(かたびさし)』のなかの、ウナギを裂かずに口から竹串(たけぐし)を刺して焼いた形が蒲(がま)の穂に似ているので蒲(かば)焼きの名ができた、という説が適切らしい。約300年前の元禄(げんろく)年間(1688~1704)に始められている。蒲焼きの材料としては、ウナギ、ドジョウ、アナゴなどが用いられる。ウナギの蒲焼きは関東と関西では作り方が違う。関東ではウナギを背開きにし、内臓を取り出し頭を落として素焼きしたあと、蒸してからたれをつけて焼く。関西の蒲焼きはウナギを腹から裂き、頭はつけたまま、蒸さずに強い火力で焼き、表面の脂肪などを焼き捨てて味をよくしている。蒲焼きは備長(びんちょう)の堅炭を用いて焼くのをよしとするが、現在は熱源も多様化している。
蒲焼きの特色は、たれをつけて焼くときに火の上に落ちる汁が燃えて煙となり、その一部は蒲焼きのウナギの肉に戻って、味をよくするところにある。固体の味、液体の味は、特別の場合、ある種の気体の味が加わって味を増すことがある。蒲焼きは、まさにそのよい例で、ウナギにはこの蒲焼きの料理法が適するのである。ウナギの蒲焼きは日本独特のスモーク料理だが、この方法は日本ばかりではない。北欧にはウナギ料理が多いが、ここではたいていのウナギ料理はフューメfuméeの名のついた調理法によっている。フューメはフランス語で煙の意味である。ウナギの蒲焼きが煙を必要とするものであることを物語っているといえよう。金沢市を中心にドジョウの蒲焼きがつくられているが、これはこの地方独特の味のよい郷土料理である。
[多田鉄之助]