虎石とか虎子石、虎御石(とらごいし)ともいう。土地によっては、石の形が虎の姿に似ているためとか、虎のような斑紋(はんもん)があるためと説明している。一般には大磯(おおいそ)の遊女虎御前にまつわる伝説を伴っている場合が多い。神奈川県大磯町の延台寺に伝わる虎が石は、曽我(そが)十郎祐成(すけなり)を賊の矢から防いだところから身代り石といわれる。美男が持てば軽く上がるという静岡県足柄(あしがら)峠の虎子石は、曽我十郎・五郎の兄弟が父の仇(あだ)工藤祐経(すけつね)を討ち取ろうとしたとき、その首尾を案じた虎御前がいつまでも富士の裾野(すその)のほうを眺め暮らすうちに、女の一念が凝り固まって石に化したものだという。大分県大分市の虎御前石は、十郎・五郎の冥福(めいふく)を祈るため尼になって諸国を巡った虎御前が、この地にきて腰をかけた石だと伝えている。トラとかトウロという語は、本来石の傍らで修法をする巫女(みこ)の呼び名ではなかったかと説かれている。兄弟の霊を弔って回国する虎御前が足をとどめた記念の石、あるいは虎女の没した霊を祀(まつ)ったと伝える伝説が広く分布しているのは、かつて、トラ、トウロと称する一団が各地を巡遊し、のちに曽我伝説の流布に伴って、大磯の虎御前と関係あるものと考えられたためであろう。
[野村純一]
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