日本大百科全書(ニッポニカ) 「虚脱療法」の意味・わかりやすい解説
虚脱療法
きょだつりょうほう
1882年イタリアのフォラニーニCarlo Forlanini(1847―1918)により人工気胸術が始められて以来、1940年後半の抗結核剤の開発と普及までの間に、肺結核症の治療界で外科療法の柱となった療法の一つである。肺結核の外科療法は虚脱療法と直達療法に大別されていた。虚脱療法は、肺を縮めて病巣部の安静を保ち、同時に病巣に通ずる気管支を閉鎖して病巣を治癒の方向へ進ませるものである。まず第一に胸腔(きょうくう)に刺入した針を通じて人工気胸器から空気を送り込み、肺を虚脱させた人工気胸術が考えられたが、現在ではほとんどその適応を失っている。ほかに人工気腹術、横隔膜神経麻痺(まひ)術、斜角筋切断術、胸膜外(骨膜外)合成樹脂球(俗にピンポン球とよばれた)充填(じゅうてん)術などが行われたが、近年は化学療法の進歩によってまったく過去のものとなり、わずかに胸郭成形術だけが実用に供されている虚脱療法である。
[山口智道]