精選版 日本国語大辞典 「肺結核」の意味・読み・例文・類語
はい‐けっかく【肺結核】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
結核はあらゆる臓器に感染して障害を与える全身の疾患です。代表的なものは肺結核です。それは、活動性肺結核の患者さんが
しぶきは結核菌と水分の小さな塊ですが、水分が蒸発すると、結核菌の塊は重さが軽くなり、空気中に長い時間漂い、それだけ感染の機会が増えます。この菌には乾燥に強く紫外線に弱いという特徴がありますが、結核の感染は空気感染がほとんどです。
欧米や以前の日本では不完全な滅菌操作を受けた牛乳から感染(この場合は腸結核などの消化管結核)した
他の感染症と結核とで違っている点は、感染してもすぐに全員が発病するのではないということです。感染した人のうち、発病するのは約10~20%です。発病時期は感染後1年以内が約半分、残りは一生の間にですが、発病しない人も80~90%います。これが、結核の不思議な点でもあり、また、なかなか根絶できない理由でもあります。
空気感染によって、結核菌は気道を通って
肺胞マクロファージがリンパ液の流れに乗って肺門リンパ節に移行すると、そこでも病巣をつくります。これを、肺門リンパ節結核と呼び、また、初期変化群とも呼びます。結核菌の勢いが強いとそのまま発病してしまいます(一次結核症)。
通常はこの段階で生体の
ヒト型
つまり、HIVに感染した人、長期のステロイド治療を受けている人、免疫抑制薬を使っている人(米国では慢性関節リウマチに効果がある抗リウマチ薬を使って結核発病者が出たと報告されている)、コントロール不良の糖尿病の人、血液
発熱、
放置すると、血痰、息切れ、体重の減少も加わります。肺結核症の一型である喉頭・気管支結核では、早期にがんこな咳と
①結核菌の存在証明
基本は、結核菌が実際に病巣部に存在するという証明です。
痰が出ない人の場合は、気管支鏡を用いて得られた気管支肺胞洗浄液(BAL)で塗抹と培養の検査を行います。気管支鏡検査後の痰も検体として使用できます。
陽性に染まれば、極めて感染性の強い結核を発症しているといえますが、後日、非結核性抗酸菌との区別が問題になります。
同じ検体を用いて、結核菌のDNAあるいはRNA遺伝子があるかどうかを遺伝子学的手法で確認します(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR))。この方法は感度がよく、数時間で結果が判明しますが、死んだ結核菌が検体に含まれていても陽性と判定してしまう欠点があります。そこで、生きた菌ならば人工的な培養シャーレで増殖するので、培地に検体を塗りつけます。これを培養検査と呼びます。
この方法で結核菌感染の最終判断をするわけですが、結核菌は極めてゆっくり増殖するので、肉眼でコロニー(菌の塊)が認められるまでに4~5週間必要です。すなわち、迅速診断はできません。
次いで、得られた抗酸菌が結核菌か、それとも
気管支鏡を用いて採取した病巣組織についても、結核菌培養、遺伝子検査を行います。なお、胸水(結核性
②特異的組織像の証明
該当する肺の病巣から気管支鏡を用いて組織を採取して、
③結核感染病巣の画像的証明
胸部X線、CT検査を行います。結核病巣の存在と広がりとを確認します。初感染型では肺野の
④免疫学的証明
結核感染に特有な人体の免疫反応の検査を行います。ツベルクリン反応が陰性から陽性(
そのため、結核の発病者にそれまで接触していた多くの人々に対して、ツベルクリン反応で感染者を判定しようとすると、化学予防者が実際よりも激増する恐れがあります。そこで近年、判定能力がツベルクリン反応をしのぐクウォンチフェロンテスト(QFT)が開発され、日常の診療に導入されました。後述のコラムに詳しく述べますが、感染者の血液を試験管内で結核菌にしか存在しない特異蛋白(ESAT6とCFP10)と作用させて、20時間後にインターフェロン
⑤炎症の程度の把握
赤沈(胸膜炎を合併すると100㎜/1時間以上を示す)、CRP、白血球増多(軽度の場合が多い)が活動性の評価と治療効果判定のひとつとされます。
⑥鑑別疾患
感冒(かぜ)のような症状を示し、胸部X線写真で肺炎に似た陰影や小結節影、空洞性陰影が認められる時は、細菌性肺炎、マイコプラズマ菌などの
日本ではWHOが推奨している強化治療法を行っています。
すなわち、排菌陽性者にはピラジナミド(PZA:殺菌作用、半休止期の菌に効果)にイソニアジド(INH:殺菌作用、増殖する菌に効果)、リファンピシン(RFP:殺菌作用、増殖する菌、半休止期の菌に効果)およびストレプトマイシン(SM:殺菌作用、増殖する菌に効果)またはエタンブトール(EB:静菌作用、増殖する菌に効果)の4種類の抗結核薬を、まず2カ月併用します。
その後4カ月はINH+RFPにEBを加えたり、加えなかったりします。なお、肝機能異常がある人や80歳以上の高齢者では、PZAの副作用として肝炎が出現もしくは悪化しやすいので、使用をひかえます。PZAが使用できない場合や排菌の確認の得られない場合は、INH+RFPに、EBもしくはSMの三者で6カ月治療し、その後3カ月はINH+RFPで治療します。
いずれの治療法でも基礎疾患に糖尿病があったり、粟粒結核の場合は、さらに3~6カ月治療を継続してもよいでしょう。また、じん肺に合併した肺結核感染症は治療抵抗性を示すので、やはり長めに治療します。
内服薬は1日1回の内服でよいですが、INHによる末梢神経障害の予防のため、ビタミンB6製剤を同時に内服します。INHは肝機能異常を生じやすく、さらにSMは腎機能障害や第8
表7に抗結核薬の副作用をあげました。治療開始後1カ月以内に肝機能の血液検査を行い、異常がなければそのまま治療を続け、その後も1カ月に1度は肝機能をチェックします。
近年、抗結核薬の服用が指示されたとおりに実行されているかどうか疑わしい患者さんには、耐性菌の出現を避けるため、医療従事者の目の前で服用してもらう方法が米国から導入されました。これをDOTS(Directory Observed Treat-ment, Short Course:直接監視下短期化学療法)といい、「日本版21世紀型DOTS戦略事業」が都道府県・指定都市で行われ始めています。
DOTSは、RFPおよびINHに耐性を示す多剤耐性結核菌患者の治療にも有効です。幸い日本では、初回治療での多剤耐性結核菌の頻度は1%未満と低いのですが、再治療の患者さんからのそれは20%弱ですので、いかに最初の治療が大切かということがわかります。
なお、結核治療を開始したあとも、3週間は毎週1回、その後月1回は喀痰の検査を行い、結核菌の陰性化を確認します。
身近に結核の患者さんがいた人や、学校、職場、医療機関などで集団感染が発生した場合は、ツベルクリン反応、胸部X線検査、症状、血液検査などを総合して結核感染が濃厚と判断されれば、検体から結核菌の存在を証明できなくても、抗結核薬を予防的に内服します。これを化学予防あるいは予防内服といいます。
通常はINHを6カ月間内服します。29歳以下は感染症法によって公費負担となります。もっとも、結核
抗生剤を内服しているにもかかわらず、2週間以上咳と痰、微熱が続く場合は結核を疑い、最寄りの呼吸器科医のいる病院・診療所ないしは独立行政法人国立病院機構(旧国立結核療養所)を受診します。
生活上は歯ブラシ、手ぬぐいを共有せず、痰が出れば決めておいた容器に捨てます。肺結核は空気感染(
診察を行った医師は種々の検査結果も総合して、受診者を結核発病者と診断した場合、結核予防法に基づき2日以内に最寄りの保健所に届け出ます。
石崎 武志
日本の死亡率第1位は1950(昭和25)年までは結核であり、国民病といわれ、全国に
2007年の結核死亡率は人口10万人当たり1.7人、罹患率は19.8人です。「結核は過去の病気」という認識は誤りであり、注意しなければいけない病気といえます。日本の結核罹患率は、欧米の約5倍も高く、結核はアジア(中国、インドなど)やアフリカ・南米に多い病気といえます。
最近、とくに高齢者の集団感染が多発し、学校や老人介護施設、病院での集団感染など、社会の注目が結核に集まるようになりました。一方、リファンピシンとイソニアジドの効かない多剤耐性結核菌(4~5%)だけでなく、ほとんどの薬の効かない超多剤耐性結核菌(日本では30%)が報告され、治療を困難にしている大きな問題も生じています。抗TNF
結核は1950年代まで毎年50万人近い患者さんがあり、この時代に青春期を送った現在の高齢者は、大部分が若い時に結核に感染しています。感染した人の5~10%が発病し、発病を免れた人でも3分の1以上の人は、結核菌を体のなかに抱えたまま高齢に達しています(図3)。結核菌は体の抵抗力(免疫力)によって抑え込まれ、冬眠状態になっています。
高齢者が、①糖尿病、②エイズ、③抗がん薬・免疫抑制薬・副腎皮質ホルモン薬による治療、④悪性腫瘍、⑤
最近20代を中心に若い世代の結核患者の発生が目立ってきています。結核菌に感染した経験がなく、免疫力をもっていないこと、近代化されたオフィスは気密性が高く、結核菌を含んだ空気が職場内にとどまりやすい(職場での集団感染)ことが原因です。
一方、結核に対する医学教育の不足がいわれており、最近の医師の念頭に肺結核がないことも指摘されています。肺炎を発症した場合、まず結核を考える必要があります。
結核の感染・発病は、肺結核患者が
結核の初期症状でよくみられるのは、咳、痰、発熱、
胸部X線写真では、肺の
胸水が認められることもあり、また、血液中に結核菌が侵入すれば粟粒(ぞくりゅう)結核の病像を示し、ほかの臓器にも結核病巣を作ることが時にあります。より詳しく結核病巣を調べるために、断層撮影とCT撮影が必要です。
結核感染の有無は、ツベルクリン反応検査やQFT検査(後述)により診断します。発赤や硬結がとても大きい場合や
しかし、日本ではほぼ全員が幼少時にBCG接種を受けており、多くの人はツベルクリン反応が陽性を示します(90%以上)。したがって、陽性であっても結核感染の確定診断とはなりません。これを補うため「2段階ツベルクリン検査法」を行います。
最近極めて結核感染に特異的な診断法が開発されました。結核菌に存在しBCG菌に存在しない蛋白を用いたQFT(クォンティフェロン)検査(6歳以上)は、接触者検診や集団感染にツベルクリン反応よりも有用であることが示されています。
一方、ツベルクリン反応が強陽性で、かつ患者との接触歴が明らかな場合は、「感染あり」の確率が非常に高いといえます。
標準的な抗結核薬を表4にまとめました。イソニアジド(イソニコチン酸ヒドラジド:INH)、リファンピシン(RFP)、エタンブトール(EB)またはストレプトマイシン(SM)、ピラジナミド(PZA)の4種類の抗結核薬を治療開始後2カ月間投与し、その後イソニアジドとリファンピシンを4カ月間投与し、全期間を6カ月で終わらせるものです(図5)。
80歳以上の高齢者や肝機能障害のある人でピラジナミドが使用できない場合は、最初の6カ月はイソニアジドとリファンピシンを使います。
副作用として、イソニアジドによる手足のしびれ(末梢神経障害)、リファンピシンとピラジナミドによる肝機能障害、エタンブトールによる視力低下(視神経障害)、ストレプトマイシンによる聴力障害があります。
最近、薬が効きにくい耐性菌も出現しており、ニューキノロン系薬(抗生物質の一種)やクラリスロマイシンも使われます。ツベルクリン反応が急激に強陽性となった場合は、予防的にイソニアジドを投与することもあります。
日本では2003年から結核予防ワクチンとしてのBCG(東京株)接種は乳幼児の時の1回のみの施行となりました。小児結核(結核性髄膜炎)にはBCGワクチンが有効であることがわかっています。成人でのBCGワクチンの切れ味が弱いことから、現在新しい結核ワクチンが数種開発されつつあります。
新しい化学療法剤も開発中で、近い将来には臨床応用されるでしょう。
また、医療関係者や患者さんの家族は、結核菌を通さないマスク(N95タイプ)を使用して、結核菌を吸い込まないように注意します。
結核専門医のいる病院(とくに国立病院機構の呼吸器専門病院など)を受診し、相談する必要があります。
岡田 全司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
(1)Essential components of a tuberculosis prevention and control program. Recommendations of the Advisory Council for the Elimination of Tuberculosis. MMWR Recomm Rep. 1995;44(RR-11):1-16.
(2)White MC, Tulsky JP, Goldenson J, et al. Randomized controlled trial of interventions to improve follow-up for latent tuberculosis infection after release from jail. Arch Intern Med. 2002;162:1044-1050.
(3)Blumberg HM, Burman WJ, Chaisson RE, et al. American Thoracic Society/Centers for Disease Control and Prevention/Infectious Diseases Society of America: treatment of tuberculosis. Am J Respir Crit Care Med 2003; 167:603.
(4)Hopewell PC, Pai M, Maher D, et al. International standards for tuberculosis care. Lancet Infect Dis 2006; 6:710.
(5)Controlled clinical trial of four short-course (6-month) regimens of chemotherapy for treatment of pulmonary tuberculosis. Second report. Lancet 1973; 1:1331.
(6)Controlled trial of 6-month and 9-month regimens of daily and intermittent streptomycin plus isoniazid plus pyrazinamide for pulmonary tuberculosis in Hong Kong. The results up to 30 months. Am Rev Respir Dis 1977; 115:727.
(7)Short-course chemotherapy in pulmonary tuberculosis. A controlled trial by the British Thoracic and Tuberculosis Association. Lancet 1976; 2:1102.
(8)British Thoracic Association. A controlled trial of six months chemotherapy in pulmonary tuberculosis. Second report: results during the 24 months after the end of chemotherapy. Am Rev Respir Dis 1982; 126:460.
(9)Hong Kong Chest Service/British Medical Research Council. Five-year follow-up of a controlled trial of five 6-month regimens of chemotherapy for pulmonary tuberculosis. Am Rev Respir Dis 1987; 136:1339.
(10)Hong Kong Chest Service/British Medical Research Council. Controlled trial of 2, 4, and 6 months of pyrazinamide in 6-month, three-times-weekly regimens for smear-positive pulmonary tuberculosis, including an assessment of a combined preparation of isoniazid, rifampin, and pyrazinamide. Results at 30 months. Am Rev Respir Dis 1991; 143:700.
(11)Johnson JL, Hadad DJ, Dietze R, et al. Shortening treatment in adults with noncavitary tuberculosis and 2-month culture conversion. Am J Respir Crit Care Med 2009; 180:558.
(12)Combs DL, O'Brien RJ, Geiter LJ. USPHS Tuberculosis Short-Course Chemotherapy Trial 21: effectiveness, toxicity, and acceptability. The report of final results. Ann Intern Med 1990; 112:397.
(13)Sharma SK, Balamurugan A, Saha PK, et al. Evaluation of clinical and immunogenetic risk factors for the development of hepatotoxicity during antituberculosis treatment. Am J RespirCrit Care Med. 2002;166:916-919.
(14)Bass JB Jr, Farer LS, Hopewell PC, et al. Treatment of tuberculosis and tuberculosis infection in adults and children. American Thoracic Society and The Centers for Disease Control and Prevention. Am J RespirCrit Care Med. 1994;149:1359-1374.
出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
結核菌の感染による肺の伝染性疾患。
[編集部]
…したがって気道を通して外界と交通のある肺の病変で最も多く認められるもので,主として肺疾患のときに好んで用いられる言葉である。最も多い疾患は肺結核に際して生じる結核性空洞cavity tuberculousで,中心の乾酪壊死物質は一部は吸収されるが,大部分は気道を通じて咳や痰とともに放出されて中空をつくる。空洞の壁は結核特有の肉芽腫性炎症組織で厚く囲まれ,胸部レントゲン写真で明りょうに写し出される。…
… 結核菌の感染を受けてできた上記の小さな肺の病変は,大部分は石灰がたまって治るが,一部の人では1年後,2年後,あるいは10年以上たってから発病する。最近では初感染発病は減少し,既感染発病が目だっており,また結核のなかでは肺結核が大多数を占めている。結核の広がり方には管内性転移,血行性転移,リンパ行性転移の三つの経路がある(なお転移metastasisとは,病原体や癌細胞などがある場所から離れた別の場所に移行し,そこに原発巣と同じ病変を起こすことをいう)。…
…換気分布も同じ方向の差があるが,血流の上下差のほうが大きいため,換気と血流の比(換気血流比)は,肺尖で大きく,その結果肺胞気酸素分圧は高く,肺下部ではいずれの値も小さくなる。肺結核はヒトでは肺尖に多く,ウシでは背部に多いといわれるが,いずれも換気血流比の大きい場所にあたるという人がいる。血流分布の変化として,肺鬱血(うつけつ)の場合,肺尖で血流が増加し,肺下部で減少する。…
※「肺結核」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
他の人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物。「推しの主演ドラマ」[補説]アイドルグループの中で最も応援しているメンバーを意味する語「推しメン」が流行したことから、多く、アイ...
11/10 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/26 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典を更新
10/19 デジタル大辞泉プラスを更新
10/19 デジタル大辞泉を更新
10/10 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
9/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新