肺結核(読み)ハイケッカク(その他表記)pulmonary tuberculosis

精選版 日本国語大辞典 「肺結核」の意味・読み・例文・類語

はい‐けっかく【肺結核】

  1. 〘 名詞 〙 結核菌の感染によって起こる肺の慢性伝染病。感染のはじめの頃は、ほとんど無症状。病状が進むと、咳(せき)・痰(たん)が出、進行とともに肺活量が減少し、呼吸困難を示す。一般に結核といった場合、この肺結核をさす。肺病。
    1. [初出の実例]「母さんが肺結核(ハイケッカク)といふを煩って死(なく)なりましてから」(出典:にごりえ(1895)〈樋口一葉〉六)

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改訂新版 世界大百科事典 「肺結核」の意味・わかりやすい解説

肺結核 (はいけっかく)
pulmonary tuberculosis

結核菌による肺の感染症。日本では古くは労咳(ろうがい)と呼ばれ,ヨーロッパでも〈白いペスト〉の名で恐れられた。かつて肺結核は結核全体の大部分を占めてはいたが,結核そのものの減少のなかで,呼吸器以外の結核が著しく減少したため,近年,肺結核の占める率は相対的に大きくなり,1994年の結核登録者調査では,結核全体の90%以上となっている。また罹患率,死亡率ともに,第2次大戦直後までは,10歳代後半から30歳代前半にかけて大きなピークがみられたが,近年では,60歳以上で高率となり,老人結核が問題になっている。なお,肺結核の疾病史については〈結核〉の項を参照されたい。

肺結核についての研究は,R.コッホが結核菌を発見する以前に,すでに17~18世紀から始まっていた。たとえば17世紀のオランダの医師F.シルビウスは結核結節について記載しているし,イギリスのベーリーMatthew Baillie(1761-1823)も《人体諸器官の病的解剖学》(1793)において,肺結核について詳細に記載している。19世紀に入り,聴診器を考案したフランスのR.T.H.ラエネクは多数の結核患者の解剖から,肺結核を滲出型と増殖型に分けた(1819)。この考えは今でも失われていない。さらに1865年,フランスのビユマンJean Antoine Villemin(1827-92)は結核患者の喀痰を動物に接種して,肺結核の感染性を初めて立証した。コッホの結核菌発見は,これを実証したものであった。

 肺結核の治療法として,イタリアのフォルラニーニCarlo Forlanini(1847-1918)は1882年人工気胸療法を創始した。また95年のレントゲンのX線発見は,肺結核の臨床診断に画期的進歩をもたらした。さらに1908年,パスツール研究所のA.カルメットとC.ゲランは,病原性なしに人体に結核免疫を人工的に与えることのできるBCGの発見に成功し,21年フランスのアレAdrien Hallé(1859-1947)はBCGワクチンを新生児に初めて結核発病予防の目的で接種した。このBCGは25年志賀潔によって日本にもたらされ,昭和の初めのころから今村荒男を中心とする研究が始まった。

 この間,肺結核の外科手術として,19世紀末ころからしだいに発達をとげた胸部成形術が隆盛となり,人工気胸療法の隆盛と相呼応して,ともに肺結核治療の主座を占めるようになった。それは有力な肺結核の治療薬が出現しないためでもあった。

 しかし,44年に至ってアメリカのS.A.ワクスマンが,土壌の中の放線菌の1種から抗生物質であるストレプトマイシンを発見し,結核化学療法の輝かしい第一歩をふみだした。同年,パラアミノサリチル酸パス,PAS)が人体に用いられ,46年スウェーデンのO.レーマンによって,その臨床効果が発表された。52年にはイソニアジドイソニコチン酸ヒドラジド)が有力な抗結核剤として登場した。日本ではこの三つの薬の長期間(2年以上)併用が標準化学療法として行われ,肺切除術の安全性も非常に高まったため,かつて〈気胸と成形〉を主とした肺結核治療は,〈化学療法と肺切除〉を主とした様相を呈するに至り,結核死亡率は著しい減少を示した。その後ピラジナミドエチオナミドカナマイシンエタンブトールなどが相次いで開発され,これに続いて66年,イソニアジドと同等の殺菌力をもったリファンピシンが登場した。このリファンピシンの登場は,これまでの化学療法の限界を打破するきっかけとなった。そしてリファンピシン,ストレプトマイシン,イソニアジドの強化処方の短期間(6ヵ月)投与によって全例結核菌が陰性化し,再発率がわずか2%以下に抑えられるという優れた成績が,イギリスのフォックスW.Foxらによって75年に報告された。これによって肺結核の初回治療例のほとんどが,手術によらず化学療法によって発病1年以内に治すことができるという新しい時代が到来した。コッホが結核菌を発見して以来ほぼ100年で,日本でも1950年代までは広くまん延していた肺結核を制圧することに成功したといえるだろう。

肺結核の起り方に二つの様式がある。

(1)初感染結核症 個体の抵抗力と感染菌量とのかねあいで,初感染にひきつづき病勢が進展する場合をいい,初期結核症ともいう。家族内感染のような乳幼児の濃厚感染例に多くみられる。肺門リンパ節結核は一つの病型で,肺門リンパ節が腫大して起こる。自覚症状は軽く,ほとんど無自覚のこともある。大多数は治癒するが,なかには結核性胸膜炎,血行性結核または肺結核へ進展するものもある。結核菌が血流中に入ると,粟粒(ぞくりゆう)結核結核性髄膜炎を起こす危険が高い。

(2)慢性肺結核症 初感染がいったん治まったのち,数年ないし数十年後に再び発病する場合をいい,既感染発病とも呼ばれる。初感染後病巣内に生き残っていた結核菌により再燃するもので,成人層の発病はほとんどが既感染発病である。再燃の原因として,(1)過労,(2)低栄養(胃・十二指腸潰瘍の手術後など),(3)高齢,(4)副腎皮質ホルモン,抗癌剤などの免疫抑制薬投与,(5)糖尿病,塵肺(じんぱい),慢性腎不全の血液透析などがあげられ,抵抗力が低下するような条件があると発病しやすい。

 既感染発病は肺上葉の肺尖部や下葉の上部に好発する。肺の乾酪巣が融解して空洞形成が起こると,結核菌を多く含んだ空洞内容物(咳で排出されると痰となる)が気管支を経由して広がり,新しい病巣をつくる。初期感染発病と同様に,結核性肺炎,胸膜炎および膿胸,粟粒肺結核なども起こりうる。

肺結核の症状は少なく,本人が病気であることに気がつきにくい。診断が確定してからさかのぼって調べてみると,多くの場合,なんとなく疲れやすかったということが非常に多い。自覚症状として,全身倦怠感,食欲不振,微熱,寝汗,やせ(体重減少)がみられ,呼吸器症状として,持続性の咳,痰が主であって,ときに血痰,喀血をみることがある。胸膜に病変が及ぶと胸痛が自覚される。結核という病気は,従来は軽いうちは自分で気がつきにくいため,早期発見には定期的な検診が必要とされていた。しかし今日では,患者の早期発見にはこれらの症状が現れたときに受診することがたいせつであるとされている。

胸部X線検査,ツベルクリン反応検査,結核菌検査などが行われる。

(1)胸部X線検査 肺は空気含量の多い臓器なので,そこに発生した病変はかなり小さいものでも,普通のX線検査で発見することができる。したがってX線検査が結核診断の第一の手がかりとなる。側面撮影,断層撮影は病巣の位置や性状を詳しく分析するのに役立つ。結核の特徴として,好発部位が後上方であるほかに,しばしば空洞を伴い,おもな病巣の周辺に散布をみることや,石灰化巣を伴うことも多い。慢性になると新旧種々の病変が混在し,古い病巣は収縮傾向が著しい。

(2)ツベルクリン反応検査 胸部X線所見で結核が疑われた場合に,次に行うべき検査はツベルクリン反応と結核菌検査である。ツベルクリン反応は,もし陰性か疑陽性なら結核を否定する有力な根拠となる。一方,ツベルクリン反応が陽性であったとしても,結核という病気の診断を支持するものではない。その理由は,中高年層では過去の結核感染により,また若年層ではBCG接種の普及によって,ほぼ80%がツベルクリン反応陽性となっているからである。ただ青少年層では,初感染後あまり長期間たたずに発病するものが多いので,ツベルクリン反応が強陽性に出ているときには,結核診断を支える一つの根拠となる。

(3)結核菌検査 胸部X線検査は非常に鋭敏に異常を発見することのできる手段であるが,特異的な検査法ではない。細菌検査で結核菌を証明しないかぎり,結核という病気の診断をつけることができない。結核菌検査は鋭敏度では胸部X線検査に劣るとしても,特異性の高い検査である。X線検査で異常影がみられた場合に,結核菌検査は必ず行われなければならない。検査材料としては,なるべく痰を用いる。痰がどうしてもとれない場合には,喉頭粘液か胃液を材料にして検査を行う。痰を材料に用いるときには塗抹標本にしたり培養を行い,喉頭粘液,胃液については培養を行う。塗抹標本で結核菌が見つかったとき塗抹陽性というが,これは排菌量が多いことを示し,他人への感染源として最も危険であることを意味する。培養陽性のときには耐性検査を実施し,治療方針を決める参考とする。

(4)その他の検査 赤沈検査は病状経過をみる参考となる。

最も問題になるのは,肺炎や肺癌との鑑別である。肺炎の場合には,結核に比べて病状が短期間に変化するので鑑別ができるが,痰の細菌検査は必ず行っておかねばならない。肺癌の場合には,結核と同じようにあらゆる型のX線写真像を示しうるので,40歳以上になって新たに病巣が発見された場合には肺癌を疑い,痰の結核菌検査と細胞診,必要によっては気管支鏡を用いて得られた擦過物の結核菌塗抹標本の検鏡,培養と細胞診,ツベルクリン反応を行わなければならない。

肺結核の予後は病状と治療によって大きく左右される。化学療法のない時代の結核の予後は悪く,痰の塗抹標本で結核菌陽性の患者は2年間でほぼ1/2が死亡し,1/4が慢性化し,1/4が自然に治癒していた。ところが,化学療法が出現し,薬の処方が強化されるにともなって,肺結核の大半が治るようになった。

 しかし最近の結核死亡例を分析すると,発見時すでに重症で1年以内に死亡する場合,結核菌に薬剤耐性ができて慢性の経過をとって死亡する場合,結核は活動性でなくなったが心肺機能不全で死亡する場合に分けられ,その割合はほぼ1対1対2である。したがって,肺結核の予後は必ずしも非常によくなっているとはいえない。予後を向上させるためには,早期発見と適切な処方,それに確実な服薬がたいせつである。

肺結核の治療には化学療法,外科療法などがある。

(1)化学療法 肺結核は初回治療で確実に治すことがたいせつである。このためには適切な処方を選び,患者に確実に服薬させなければならない。現在ある12の抗結核薬中,治療の主軸となるのは殺菌性の最も強力なイソニアジドisoniazid(INHと略記)とリファンピシンrifampycin(RFPと略記)である。塗抹陽性または空洞のある患者ではINHとRFPに当初6ヵ月はストレプトマイシンstreptomycin(SMと略記)(初め2~3ヵ月は毎日,その後は週2回)かエタンブトールethambutol(EBと略記)を併用し,その後はINHとRFPのみとして,全体の治療期間9~12ヵ月で治療を終了するのが標準処方である。塗抹陰性で空洞のない患者では,初めからINHとRFPの2者併用で,治療期間は6~9ヵ月とする。上記の処方中の抗結核薬のいずれかに耐性が生じたり,副作用で使えないときには,その薬に代えて他の薬を用いることになるが,効果と副作用からみて用いやすいのはカナマイシンkanamycin(KMと略記),エチオナミドethionamide(THと略記)などである。ピラジナミドpyrazinamide(PZAと略記)は欧米では高く評価され,短期化学療法の当初2ヵ月くらい用いられているが,副作用が強く日本では多くは使われていない。

 副作用のおもなものは,マイシン系薬剤による聴力障害,硫酸ストレプトマイシンによる平衡障害,TH・PZA・RFPの肝臓障害,EBの視力障害,サイクロセリンcycloserine(CSと略記)・THの精神障害,INH・EBの末梢神経炎,TH・パスによる胃腸障害,各種薬剤に対するアレルギー反応などである。これらの副作用については,定期的検査と患者からの申出によって早期に発見し,服薬を中止して他剤に変更したり,減感作療法を行うなどの対策を講じなければならない。

(2)外科療法 化学療法の進歩に伴って,肺結核に際しての手術の必要性は,以前に比べてかなり少なくなってきている。しかし,化学療法を行ったにもかかわらず排菌が続く場合は絶対的に必要になる。手術に際しては,術後の肺機能を十分に保つように配慮することが必要である。

(3)生活指導 化学療法が有効に行われているときには,あまり厳重な生活規制は必要ではない。塗抹陽性時には短期間入院を要するが,排菌陰性後は外来で治療する。また喀血,血痰,発熱などの著しい症状がある間は安静が必要である。食事についても体重減少の著しい例を除いては,特別な配慮は必要としない。なお,医療費については公費負担制度があるので,医師としてはこれを活用して,患者が安心して治療を受けられるように配慮することがたいせつである。
ツベルクリン反応 →BCG
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家庭医学館 「肺結核」の解説

はいけっかく【肺結核 Pulmonary Tuberculosis】

◎すぐに発病せず長く体内にひそむ
[どんな病気か]
[原因]
[症状]
[検査と診断]
◎治療は薬物療法が主体
[治療]
[日常生活の注意]
[予防]

[どんな病気か]
 結核菌という細長い棒状の菌(長さ2~4μm(マイクロメートル)。1μmは1000分の1mm)が、肺に感染してひきおこす慢性の炎症です。
 かつては、死にいたる国民病として恐れられていましたが、第二次世界大戦後に有効な薬剤が次々に登場し、生活レベルの向上などもあいまって、現在では、早く正しく診断され、適切に治療されれば、完全に治る病気です。

[原因]
 結核菌は、抗酸菌(こうさんきん)という細菌の一種です。抗酸菌は、非常にじょうぶな膜(まく)におおわれた、酸にとても強い細菌です。一般の細菌を調べるために行なうグラム染色では染まらず、抗酸性染色という染色法ではじめて染まるので抗酸菌といいます。抗酸菌には、ほかに非定型抗酸菌(ひていけいこうさんきん)とらい菌がありますが、結核菌がその代表です。
 結核菌は、アルカリアルコール、乾燥、寒冷に対しても強いのですが、高熱や直射日光には弱いという特徴があります。
感染経路
 結核菌は、人から人へと感染します。患者さんが、せきやくしゃみをしたときに飛び散った細かい水の粒(飛沫(ひまつ))に結核菌が含まれていて、それを吸い込むと感染します。ただし、ふつうの感染症とちがうのは、感染してもすぐには発病しないことです。
 吸い込まれて肺のもっとも奥深いところに達すると、結核菌はマクロファージという異物を処理する細胞に食べられてしまいます。しかし、死滅することはほとんどありません。結核菌がマクロファージの中で分裂・増殖を始めると、マクロファージから変化してできる類上皮細胞(るいじょうひさいぼう)という特殊な細胞や、炎症があるとかけつける炎症細胞がその周囲に集まってきて、肉芽腫(にくげしゅ)というかたまりを形成します。これを初感染病巣(しょかんせんびょうそう)といいます。
 つぎに結核菌はリンパ管に入り、肺の入り口(肺門(はいもん))にあるリンパ節に流れ込み、ここでも病巣をつくります。
 初感染病巣と、この肺門(はいもん)リンパ節病巣(せつびょうそう)を合わせて、初期変化群(しょきへんかぐん)といいますが、このころには結核菌に対する抵抗力、つまり免疫力(めんえきりょく)ができてきます。
●発病
 多くの人は結核菌を抑え込むのに十分な免疫力がつきますが、完全に殺菌するほどの力ではないため、結核菌は、しぶとく何年でも生き残り、過労や酒類の多飲などで抵抗力が落ちると、再び増殖を始めます。これを二次結核症(にじけっかくしょう)といい、肺結核はこうして発病するのが一般的です。
 病変は、肺の上方の背中側によくおこります。病巣の肉芽腫は、中心部にある類上皮細胞が死滅しやすく(チーズ状になるため乾酪壊死(かんらくえし)という)、その壊死物質が気管支から排出されると、あとは空洞になります。
 排出された壊死物質は、結核菌を豊富に含み、呼吸にともなって周辺の肺に散って散布巣(さんぷそう)という新しい小さな病変がたくさんできます。
 ところが免疫力が弱い人は、初感染であっても、結核として早期に発病します。これを初感染結核症(しょかんせんけっかくしょう)といいます。
 初感染病巣が、肺をおおう胸膜(きょうまく)をおかすと結核性胸膜炎(けっかくせいきょうまくえん)がおこります。また、肺門のリンパ節や、それに連続した縦隔(じゅうかく)のリンパ節がおかされると、肺門(はいもん)・縦隔(じゅうかく)リンパ節結核(せつけっかく)がおこります。
 さらに、血液中に結核菌が入り込むと、全身の諸臓器に粟粒(あわつぶ)のような病巣を多数つくり、粟粒結核(ぞくりゅうけっかく)と呼ばれる状態がおこります(コラム「粟粒結核」)。

[症状]
 症状は、病巣の部位、広がり、程度によってさまざまで、無症状のこともありますが、大きく、呼吸器症状と全身症状とに分かれます。
●呼吸器症状
 せきは、症状のある人の半分以上におこり、もっとも多くみられるものです。ほかに、たん、胸痛、血(けっ)たん、呼吸困難などもみられます。
 2週間以上続くせきは、とくに注意しなければなりません。
●全身症状
 全身の倦怠感(けんたいかん)(だるさ)、発熱、体重の減少、寝汗(ねあせ)、食欲不振などがあります。発熱の多くは、午後の微熱です。ときに高熱もみられますが、寒けや震えはほとんどありません。
 結核は、激しくエネルギーを消耗する病気で、食欲不振よりも体重減少のほうが目立ちます。寝汗も、結核を疑わせる症状の1つです。

[検査と診断]
 からだのだるさ、微熱、体重の減少、寝汗、せきなどが長引くときは、医療機関を受診しましょう。もっともよいのは、結核療養所や呼吸器科のある病院ですが、保健所でも簡単な検査はできます。
 検査としては、胸部X線写真と、たんから結核菌を検出することがもっとも重要です。
●胸部X線検査
 結核の病巣は、肺の上のほうの背中側によくみられます。
 X線写真にみられる異常な影(陰影)には、肉芽腫でできるかたまり状の結節影(けっせつえい)、その中が抜けた空洞影(くうどうえい)、ふつうの肺炎でもみられるような周囲がぼやけた浸潤影(しんじゅんえい)など、さまざまなものがあります。これらの陰影の周囲には、多数の小さな陰影が散らばってみられることがよくあります。
●結核菌の検出検査
 空洞から排出されたたんは、結核菌を大量に含んでいます。空洞がない場合でも、たんには結核菌が含まれているので、重要な検査材料です。
 たんが出ないときは、胃液も同じくらいに検査価値があります。朝の空腹時に、飲み込んだチューブから胃液を吸引して採取します。
 これらの検査材料を、抗酸性染色して顕微鏡で調べる方法を塗抹検査(とまつけんさ)といいます。ある程度の菌量があれば、菌が染色され、陽性と判定されます。
 染色されず陰性でも、微量の菌がいる可能性があるので、かならず培養して確認します。ただ、菌の発育が遅いため、4週後と8週後に判定しますが、これでは時間がかかり、治療にさしつかえるため、最近は結核菌の遺伝子を構成しているDNA(デオキシリボ核酸)を調べ、微量な菌から判定できるようになっています。
 結核菌以外の抗酸菌も肺の炎症をひきおこすことがあります。それらの菌は非定型抗酸菌(ひていけいこうさんきん)といい、治療法が異なるのですが、DNA判定では、この区別も容易につけることができます。
●感受性試験(かんじゅせいしけん)
 ときに、治療薬が効かない結核菌(耐性菌(たいせいきん))に感染して発病することがあります。そこで、治療前にはかならず菌を培養して、増殖した菌に薬が効くかどうかを判定する試験(感受性試験)を行なう必要があります。その結果がわかるまでには、かなり時間がかかるので、まず治療を開始してからその結果を役立てます。
●血液検査
 炎症の強さや重症度は、血液沈降速度(けつえきちんこうそくど)(血沈(けっちん))、白血球数(はっけっきゅうすう)、C反応性たんぱく(CRP)の量にあらわれますので、血液を検査し、それらの数値を調べます。
●ツベルクリン皮内反応(ひないはんのう)
 結核菌の培養液から、人に安全なかたちでその成分を取り出したものがPPDという液です。これを腕の内側の皮膚に注射すると、感染していれば、一種のアレルギー反応がおこり赤く腫(は)れるので、48時間後に、この大きさを判定します。感染して、初期変化群が形成されるころには、免疫力ができており、赤い腫れの径が10mm以上になります。これが陽性で、9mm以下なら陰性です。
 BCG接種で陽転させた場合は別ですが、ふつう、この皮内反応陽性は一生続きます。しかし、結核感染後でも、重症結核の人、免疫力が低下した高齢者、免疫抑制薬使用中の人、急性ウイルス感染症の人、妊婦などは陰性を示すことがあるため、要注意です。

[治療]
 抗結核薬を使った薬物療法が主体です。せきなどで大量に菌を出している人(せきの激しい人は感染力が強い)は、隔離するために、また消耗の激しい人や重症者は、安静と栄養補給のために、最低でも4か月の入院が必要です。
 菌の出ない人、少ない人は、最初から外来で治療できますが、初めの2~4週間は、入院したほうが病気と治療に対する理解が深まり、効果的です。
 また、この期間は薬の副作用がひととおり出そろう時期で、的確な対処をするためにも、入院したほうがよいのです。
●薬物療法
 原則として、結核菌に効くもっとも強力な薬を3種類以上使用します。初めて発病した患者さんには、イソニコチン酸ヒドラジド(INH)、リファンピシン(RFP)、硫酸ストレプトマイシン(SM)またはエタンブトール(EB)という3種の薬を併用して治療を開始します。
 検査で、結核菌陰性となっても6か月は治療を続けます。全治療期間としては9~12か月ぐらいかかります。
 治療期間がとても長いようですが、リファンピシンの登場以前は、数年かかったのですから、これでも長足の進歩といえます。
 最近は、ピラジナミド(PZA)の有用性が評価され、これを加えた4種の薬の併用療法で治療を開始し、全治療期間を6か月に短縮する方法も一般化してきました。
 治療を始めてから、その薬に耐性がある菌とわかったり、副作用で使用できない薬がある場合は、その次に強力な薬剤に変更し、長めに治療します。
 抗菌薬のニューキノロン類にも、結核に有効なものがあり、エタンブトールの次ぐらいに選択することが多くなりました。
 リファンピシンは、薬剤アレルギーをおこしやすいのですが、強力な殺菌力をもつ薬なので、ごく少量の薬から始めて徐々に増量し、アレルギーを防ぐ(脱感作(だつかんさ))ようにして内服を続けるように努めます。
 どうしても使えない場合は、ほかの薬剤にかえ、慎重に長期治療します。

[日常生活の注意]
 菌を出さないような軽症の患者さんは、ふつうに生活してかまいません。
 しかし、薬が肝臓に負担をかけるので、飲酒は禁物です。
 軽症でも、治療開始後1~2か月は、せきなどで他人に感染する可能性があるので、マスクをし、人との接触を控えるべきです。
 菌を出している中等症以上の患者さんは、今でも安静と栄養補給が重要であることに変わりはありません。

[予防]
 免疫力をつけるため、結核菌から、人に安全な形でつくりだされたものが、BCGワクチンです。
 1度の接種で乳幼児から青少年期にかけて発病予防効果があることと、乳幼児が結核に感染すると重症化しやすいことから、予防接種法によって生後6か月未満の乳児にBCG接種が勧められています。
 乳幼児、学童などに義務づけられていたツベルクリン検査は廃止されていますが、結核に感染したおそれがある場合には、検査が行われます。
 ツベルクリン反応だけが陽性の場合には、イソニコチン酸ヒドラジドを6か月間、発病を予防するため、内服します。
 青少年で、周囲の環境などから、ツベルクリン検査が自然に陽転するだろうと思われるケースでも、発病を予防するため、この薬を内服します。

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百科事典マイペディア 「肺結核」の意味・わかりやすい解説

肺結核【はいけっかく】

肺の結核病変。結核菌の吸入によって起こる慢性伝染病で,症状は(せき),痰(たん),胸痛,発熱,倦怠(けんたい)感,喀血(かっけつ)など。まったく無症状の場合もある。血沈促進,胸部X線検査,ツベルクリン反応,喀痰中結核菌の証明などで診断される。治療は抗結核薬による内科的治療と種々の外科的手術による。近年,結核による死亡率は低下,また青少年の発病は減少したが,老人の結核が増加。
→関連項目気象病喉頭結核在宅酸素療法腸結核寝汗肺気腫ハイキュウチュウ肺外科肺切除術肺尖カタル

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食の医学館 「肺結核」の解説

はいけっかく【肺結核】

《どんな病気か?》


 結核菌(けっかくきん)が肺に感染して起こる感染症です。人から人へと空気感染しますが、ほとんどの場合は、体内で菌が増殖(ぞうしょく)するまえに外へ運び出され、治ってしまいます。
 ところが、そのときの体の栄養状態が悪かったり、疲れがたまっていたり、アルコールの多飲などで抵抗力が落ちていると、病巣が大きくなって発病するのです。
 おもな症状は、せき、たん、胸痛(きょうつう)、血(けっ)たん、呼吸困難、体がだるい、発熱、体重減少、寝汗、食欲不振などです。
 結核菌に感染してから10~20年たって発病することもあり、抗生物質(こうせいぶっしつ)が効かない結核菌も登場しているので、日常の食事管理が重要です。

《関連する食品》


〈高たんぱく食にして、ビタミン、ミネラルを〉
○栄養成分としての働きから
 免疫力を高め、体力を回復させるために、高たんぱく食にし、各種ビタミン、ミネラル類が不足しないように気をつけましょう。
 とくに有効な栄養素・成分と、それを多く含む食品は、肺炎の場合と同じです(「肺炎」参照)。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「肺結核」の意味・わかりやすい解説

肺結核
はいけっかく
pulmonary tuberculosis

結核菌の吸入によって起る肺の感染症をいう。結核患者が咳をしたときに飛び散る飛沫に混じった結核菌が吸引されて感染する。普通は胸膜に近い部分にまず初感染による原発巣ができ,次いで肺門部リンパ節に病変が生じる。この2つを合せて初期感染変化群という。結核菌に感染するとツベルクリン反応が陽性になる。結核は感染しても必ずしも発病するものではなく,大多数の人はこのままで治癒するが,さらに病勢が進行すると,2次感染が始る。肺結核は大別して増殖型と滲出型に分けるが,そのどちらの場合でも,経過中に形成される病巣のチーズ状になった空洞は,結核菌の喀出源となるので,感染の可能性が大きいし,同時に自己の体内に新しい病巣をつくる危険がある。早期に発見されれば,抗結核剤の使用によって,空洞の形成もなく容易に治療できる。近年はリファンピシピン,イソニアジド,ストレプトマイシンの併用で1年以内になおるものが多くなった。かつて日本では国民病とまでいわれた結核も,最近は激滅したが,アメリカなどではエイズの蔓延とともに,免疫力の低下から薬の効かない結核が再び流行の兆しをみせている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「肺結核」の意味・わかりやすい解説

肺結核
はいけっかく

結核菌の感染による肺の伝染性疾患。

[編集部]

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世界大百科事典(旧版)内の肺結核の言及

【空洞】より

…したがって気道を通して外界と交通のある肺の病変で最も多く認められるもので,主として肺疾患のときに好んで用いられる言葉である。最も多い疾患は肺結核に際して生じる結核性空洞cavity tuberculousで,中心の乾酪壊死物質は一部は吸収されるが,大部分は気道を通じて咳や痰とともに放出されて中空をつくる。空洞の壁は結核特有の肉芽腫性炎症組織で厚く囲まれ,胸部レントゲン写真で明りょうに写し出される。…

【結核】より

… 結核菌の感染を受けてできた上記の小さな肺の病変は,大部分は石灰がたまって治るが,一部の人では1年後,2年後,あるいは10年以上たってから発病する。最近では初感染発病は減少し,既感染発病が目だっており,また結核のなかでは肺結核が大多数を占めている。結核の広がり方には管内性転移,血行性転移,リンパ行性転移の三つの経路がある(なお転移metastasisとは,病原体や癌細胞などがある場所から離れた別の場所に移行し,そこに原発巣と同じ病変を起こすことをいう)。…

【呼吸機能】より

…換気分布も同じ方向の差があるが,血流の上下差のほうが大きいため,換気と血流の比(換気血流比)は,肺尖で大きく,その結果肺胞気酸素分圧は高く,肺下部ではいずれの値も小さくなる。肺結核はヒトでは肺尖に多く,ウシでは背部に多いといわれるが,いずれも換気血流比の大きい場所にあたるという人がいる。血流分布の変化として,肺鬱血(うつけつ)の場合,肺尖で血流が増加し,肺下部で減少する。…

※「肺結核」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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