蛤の草紙(読み)はまぐりのそうし

改訂新版 世界大百科事典 「蛤の草紙」の意味・わかりやすい解説

蛤の草紙 (はまぐりのそうし)

御伽草子。渋川版の一つ。天竺摩訶陀(てんじくまかだ)国の〈しじら〉は釣りをして母を養っていたが,ある日美しい蛤を一つ釣りあげた。それは船の中でにわかに大きくなり,二つに開いて,中から17~18歳の容顔美麗女房が現れる。40歳になるまで女房を持たないのも母へ孝養を尽くすためと言い訳する〈しじら〉を説きふせて,女房と〈しじら〉とは夫婦になる。女が麻と錘(つむ)と〈てがい〉を求めて紡ぎ,機(はた)を求めて織りはじめると,見知らぬ者が2人来て,ともに織るのを手伝う。〈しじら〉は黒木で機屋を新造し,女は,見知らぬ若い女ともども12ヵ月かけて《法華経》二十八品のことごとくを織りあげ,その翌日鹿野苑(ろくやおん)の市で三千貫に売るよう〈しじら〉に教える。葦毛の駒に乗った齢六十ばかりの老人に,三十三尋(ひろ)の布を売った〈しじら〉は,誘われるままに南方の翁の館へ伴われ,孝行のしるしにと七徳保寿の酒を7杯飲まされる。わが家へ戻ると,女房は,南方普陀落世界の観音浄土使者だと打ち明け,虚空に上り南をさして飛び去る。〈しじら〉は七千歳の齢を保ち,富貴繁昌した。〈しじら〉は,古く大永6年(1526)の写本(慶応義塾大学図書館)には〈師祐〉〈しうゆう〉,近世初期絵入写本(尊経閣)に〈しゆふ〉とあり,語義未詳。渋川版以前の横本奈良絵本も存する(天理図書館など)。民間説話の〈蛤女房〉との交渉が考えられ,観音利益譚,《法華経》の功徳譚としての特色を有する。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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