( 1 )漢訳仏典において buddhakṣetra-pariśuddhi あるいは、buddha-kṣetra など「清浄な国土」「仏陀の領域」などの意の梵語を簡約した訳語としてつくられた語。厳浄仏土・浄刹・妙土・仏刹などとも訳す。
( 2 )当初は①の挙例「勝鬘経義疏」のように、一般に広く十方浄土をさし、特定浄土に限定されていない。平安時代に入って阿彌陀仏信仰が広まるにつれて、②の用法が主となって今日に至る。
清浄な国土という意味で,菩薩として衆生を救済せんという誓願を立てて悟りに達した仏陀が住む清浄な国土のことであり,煩悩(ぼんのう)でけがれた凡夫の住む穢土(えど)つまり現実のこの世界に対比していう。浄土は大乗仏教における宗教的理想郷を指す言葉としても広く用いられたが,阿弥陀仏の信仰が鼓吹され流行するにつれて,阿弥陀仏の仏国土である極楽と同一視され,ついには同義語となる。サンスクリットには浄土を意味する術語はないが,漢訳仏典の訳語の用例からみて,仏国土を意味するブッダ・クシェートラbuddha-kṣetraの訳語とされている。すなわち,浄土という理念はインドにはなかったのであって,仏国土が清浄な国土であるとは認めても,それを宗教的理想郷としての浄土として表現することはなく,浄土思想はむしろ中国において発達し展開したといえそうである。
未来仏として修行中の弥勒菩薩が待機している天上の兜率天(とそつてん)を弥勒の浄土として,そこに生まれたという信仰がまず起こった。兜率天の信仰から一歩進んで,浄土そのものを説いた経典,つまり浄土経典の最初は,東方にある阿閦(あしゆく)仏の浄土としての妙喜を説いた《阿閦仏国経》であり,この仏国土には女人もおり,人民はみな樹より五色の衣服を取って着たと述べている。阿閦仏の妙喜は《維摩(ゆいま)経》にも説かれている。ついで東方の阿閦仏の浄土に対して,西方の阿弥陀仏の浄土としての極楽を説いた浄土経典たる《般舟三昧経》と《無量寿経》《阿弥陀経》《観無量寿経》のいわゆる〈浄土三部経〉が現れた。これらの浄土経典によれば,極楽は西方のはるか彼方に存在し,そこには七重の欄楯(らんじゆん)があり,車輪のごとき大きな蓮華の花の咲く蓮池があり,河川には浴場の階段があって,泥がなくて黄金の砂がまかれている。妙なる音楽と芳香に満ちあふれ樹木などの自然も黄金や七宝でできている。そこに生まれた者は男性のみで女性はいず,あらゆる苦しみから解放されて,いつも阿弥陀仏の説法を聴くことができる,と説かれている。この阿弥陀如来の西方極楽浄土の信仰が盛んとなると,それを模倣して,薬師如来の仏国土である浄瑠璃世界も浄土と呼ばれるようになる。東方薬師浄土のありさまは《薬師如来本願経》に描かれている。これら諸仏の浄土は,現実の世界から遠く離れた方角に存在するので,他方浄土とか十方浄土とか呼ばれる。
中国で浄土思想が流布し展開するとともに,本来は浄土思想と何らの関わりもなかった《法華経》に基づいて,霊山浄土という新しい浄土が出現した。霊山つまり霊鷲山(りようじゆせん)とは王舎城の近くにある山の名で,《法華経》が説かれたといわれる場所なのである。このほか,仏ではなく菩薩の世界なのに《華厳経》に基づき,東北方清涼山の文殊浄土や,南方補陀落山(ふだらくさん)の観音浄土の信仰が行われるようになった。弥勒浄土や極楽浄土をはじめとする,これらの浄土信仰は,中国から日本に伝えられ,浄土における仏・菩薩や聖衆たちの姿などを描写した浄土変相も描かれた。
→阿弥陀 →観音
執筆者:礪波 護 日本では,飛鳥・白鳳時代の造像銘に浄土という語がみえるが,どの仏国土を意識したのか明白でない。いわゆる天寿国繡帳(てんじゆこくしゆうちよう)銘にみえる〈天寿国〉も一種の浄土を意味しているが,極楽浄土,弥勒浄土,妙喜浄土,霊山浄土,十方浄土,天竺浄土などの諸説があって定かではない。平安時代になると阿弥陀信仰,叡山浄土教が発達し,今様にも〈浄土は数多(あまた)あんなれど,弥陀の浄土ぞ勝(すぐ)れたる〉とうたわれたように,浄土といえば極楽浄土を指すようになった。また民間信仰では,経典の説とは別に,山岳信仰,霊山信仰のなかで,山に霊魂がいく浄土がある(山中他界観)と考えられている。
→極楽 →浄土教美術
執筆者:伊藤 唯真
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大乗仏教の用語。仏や将来仏となる菩薩(ぼさつ)の住む清浄な国土をいう。煩悩(ぼんのう)で穢(けが)れている衆生(しゅじょう)の住む現実の世界を穢土(えど)というのに対する。浄土という漢語は中国において成語化されたが、しかしこの漢語によって表される観念はすでにインドにおいて成立していた。大乗仏教では、仏の悟りを求める修行者(菩薩)たちは、生きとし生ける者(衆生)を救済しようという誓願をたてて修行し、ついにそれを完成して仏となることを説くが、こうして出現する仏の世界が浄土にほかならない。諸仏の出現すべき国土は、一世界に二仏の並存する道理がないため、われわれのこの世界以外のところにそれぞれ現に存在するという。阿弥陀仏(あみだぶつ)の西方極楽(さいほうごくらく)世界、阿閦仏(あしゅくぶつ)の東方妙喜(みょうき)世界、薬師仏の東方浄瑠璃(じょうるり)世界などがそれであり、これら諸仏の浄土はこの世界から四方、四維、上下の他の方角に存在するから、他方浄土あるいは十方(じっぽう)浄土という。
中国・日本の仏教では、このうち阿弥陀仏の極楽世界が他の仏の浄土に比べてもっとも多く信仰の対象とされてきたので、今日一般に浄土といえば西方の極楽浄土をさし、極楽浄土への往生(おうじょう)を説く教えを浄土教と称し、浄土宗、浄土真宗が成立した。
しかし、このような極楽浄土によって代表される浄土観とは異なった説もたてられている。菩薩がその心を浄(きよ)めるならばこの国土も浄まり(心浄土浄(しんじょうどじょう))、悟りを開けば娑婆(しゃば)世界も浄土となる(娑婆即浄土)という説は禅宗系に認められる。また日蓮(にちれん)宗系では釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)が説法をした霊鷲山(りょうじゅせん)をもって浄土(霊山(りょうぜん)浄土)とみる説を、華厳(けごん)宗系ではこの世界が毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)の現れで蓮華(れんげ)に包まれた浄土(蓮華蔵(れんげぞう)世界)とみる説を、真言宗系では現世がそのまま大日如来(だいにちにょらい)の不思議な働きによって飾られた浄土(密厳(みつごん)浄土)とみる説をたてている。このほかに、仏ではなく菩薩の浄土も説かれており、とくに弥勒(みろく)菩薩の住する兜率天(とそつてん)や観世音(かんぜおん)菩薩の住する補陀落山(ふだらくせん)も一般に浄土とよばれる。
[藤田宏達]
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…仏典に説かれている諸仏とその建立した浄土をとく教説によって発達した教義信仰を総称していう。大乗仏教にあっては,菩薩は衆生を救済するため国土を浄める誓願をたて,無限の慈悲をそそぐ救済者たる仏になったのであって,それらの清浄な仏国土を浄土とよんだ。…
…また性愛論書やタントラにおいては〈蓮華〉は女性性器を表現することばとして用いられ,一方《無量寿経》においては,極楽世界に生まれる者は〈蓮華化生〉と称し,蓮華の中に現れると説かれる。 象徴としてのハスの第2点は〈浄土〉との結びつきである。青,黄,赤,白の光を放つ4種の蓮華の生ずる蓮池は,極楽世界の描写の中心をなし,阿弥陀(あみだ)の蓮台とともによく知られている。…
※「浄土」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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