日本大百科全書(ニッポニカ) 「蛤女房」の意味・わかりやすい解説
蛤女房
はまぐりにょうぼう
蛤の化身した女が男の妻になって、なんらかの恵みを与えたのち去ってしまうという昔話。ほぼ全国的に分布しているが報告例は少ない。内容は次の二型に分類される。男のもとに女が訪ねてきて女房になり、おいしい汁をつくる。不思議に思った男が隠れてのぞくと、女房は汁の中に小便をかけている。怒った男が追い出すと、女房は蛤の姿となって去る。この話はおもに長野県以西で語られている。構造的には、女房の正体を魚であるとする「魚女房」の昔話と類似している。ただ、魚女房の場合には、女房に入るきっかけとして報恩を説くのに対して、蛤女房ではこの点が判然とせず、押しかけ女房の形となっている。
いま一つの型は、男が海で釣りをしていると蛤がかかり、中から姫が現れる。蛤姫は機(はた)織りが上手で美しい布を織り上げ、男はそれを高い値で売る。男が裕福になると蛤姫は安心して去っていく。現在、青森、山形、島根県下で採集されている。島根県の例では、機を織っているところをのぞき見られたために破局を迎える結末になっていて、「鶴(つる)女房」譚(たん)に近い。機織りの型は、版本『御伽草子(おとぎぞうし)』二十三篇(ぺん)の『蛤草子(はまぐりのそうし)』ときわめて類似していて注目されるが、両者の関係は明らかでない。
[野村純一]