改訂新版 世界大百科事典 「血漿製剤」の意味・わかりやすい解説
血漿製剤 (けっしょうせいざい)
いろいろの病気や手術などの際,血漿量や血漿成分の欠乏を補うために用いられる製剤。抗凝固剤を用いて採血した全血は,低温遠心操作で赤血球,白血球,血小板などの血球成分と血漿成分に分離するか連続成分分離装置で採取することができる。血漿製剤には,このようにして分離した血漿成分製剤plasma componentと,これをさらに冷エタノール分画法など複雑な化学的操作を経て得られる血漿分画製剤plasma derivativeがある。
血漿成分製剤には,液状血漿,新鮮凍結血漿およびクリオプレシピテートcryoprecipitateがある。液状血漿は,採血後6時間以内に血漿分離をした健康人の原血漿であるため,膠質浸透圧はもとより,血漿中の各種血液凝固因子を含んでいる。しかし液状保存ではとくに第Ⅴ,第Ⅷ因子などの凝固因子の低下が著しいので,これを-20℃以下で凍結保存したものが新鮮凍結ヒト血漿である。有効保存期間が1年と長いため,最も一般的に用いられ,肝障害に伴う複合凝固因子の欠乏による出血傾向や外傷,手術の際の出血に対する凝固因子の補給などが適応となっている。クリオプレシピテートは,血漿を凍結・低温融解させた後得られる成分で,血漿中の第Ⅷ因子を多く含むので,血友病Aの第Ⅷ因子補充療法に使用されたが,ウイルスの不活化を行っていないので現在は製造されていない。血漿成分製剤は他の成分と同様,肝炎やその他のウイルス感染の危険があるので乱用してはならない。また期限切れの製剤は血漿分画製剤の原料とされる。
血漿分画製剤には,加熱ヒト血漿タンパク質,ヒト血清アルブミン,ヒト免疫グロブリン,血液凝固因子製剤などがある。前2者は60℃,10時間の加熱処置により肝炎ウイルスを不活性化しており,液状ヒト血漿のような肝炎の心配はない。アルブミン濃度はそれぞれ80%,96%以上であり,ショックなどの際に循環血漿量や膠質浸透圧を維持する目的で輸注され,高度低タンパク血症の際にも用いられる。ヒト免疫グロブリンは,低γ-グロブリン血症,重症感染症で抗生物質と併用され,また麻疹などの予防に用いられる。血液凝固因子製剤は,血友病Bに欠けている凝固第Ⅸ因子など特定の凝固因子を多量に含んでおり,それらの補給に用いられる。
→血漿
執筆者:湯浅 晋治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報