改訂新版 世界大百科事典 「衆賢」の意味・わかりやすい解説
衆賢 (しゅげん)
インド仏教の一学派である説一切有部(せついつさいうぶ)の学僧。サンスクリット名はサンガバドラSaṃghabhadraで,僧伽跋陀羅(そうがばつだら)と音写されている。世親と同じ世代の人。5世紀ごろ北インドのカシミールに生まれ,悟入の弟子となって《大毘婆沙論》を研究した。世親が経量部(きようりようぶ)の立場から説一切有部を批判しつつ《阿毘達磨俱舎論》を著すと,12年を費やして反論の書《阿毘達磨順正理論》80巻(《俱舎雹論(くしやばくろん)》ともいう)を書き,さらに,学徒数名と共に世親に直接会って反論しようとした。しかし,世親は対決を避け中インドへと旅立ったため,衆賢らもまた彼を追って中インドへ向かったが,途中,秣底補羅(まつていふら)国(現在のマダーワル)あたりで病に倒れ没したという。彼の著作には,前記の《阿毘達磨順正理論》のほかにも《阿毘達磨顕宗論》40巻があり,ここでは,説一切有部の正統説を明らかにしている。しかし,これら2書には,新しい思想も加味されているため,《大毘婆沙論》などの思想と区別して,新薩婆多(しんさつばた)(新しい説一切有部)といわれる。
執筆者:田中 教照
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報