インドの仏教論書。200巻。唐の玄奘(げんじょう)訳。異訳に北涼(ほくりょう)の浮陀跋摩(ぶだばつま)・道泰(どうたい)らの翻訳による『阿毘曇(あびどん)毘婆沙論』がある。前者を新訳、後者を旧訳(くやく)の『婆沙論』ともよぶ。この二漢訳しか現存しない。原名はマハービバーシャーMahāvibhāā。成立年代は正確には不明だが、カニシカ王の言及があることから紀元2世紀の後半から3世紀にかけて、説一切有部(せついっさいうぶ)の多くの学者によって編纂(へんさん)されたものであろう。
本書は有部の根本的論書である迦多衍尼子(かたえんにし)の『発智論(ほつちろん)』に対する大注釈書である。その内容はアビダルマ全体にわたり、カシュミール有部の正統説を広く詳細に示している。また有部内の異端者と思われる西方師(さいほうし)、犍陀羅(けんだら)国師、外国師などの異説を数多く引用し論破している点で、有部内の勢力や発展をうかがうことができ、さらに譬喩(ひゆ)者、分別論者、犢子部(とくしぶ)、大衆部(だいしゅぶ)などの他部派の教義を多数紹介し論難している点で、有部以外の部派の主張が明らかになる。とくに本書は、譬喩者(ダールシュターンティカDārāntika)の「法は実有でない」という主張を論破することに激しい情熱を抱いているように思われる。本書の題名から有部はまた「毘婆沙師」(バイバーシカVaibhāika)ともよばれた。部派仏教研究には重要にして不可欠の資料である。
[加藤純章]
『『阿毘達磨論の研究』(『木村泰賢全集 四巻』所収・1968・大法輪閣)』▽『渡辺楳雄著『有部阿毘達磨論の研究』(1954・平凡社)』
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…世親と同じ世代の人。5世紀ごろ北インドのカシミールに生まれ,悟入の弟子となって《大毘婆沙論》を研究した。世親が経量部(きようりようぶ)の立場から説一切有部を批判しつつ《阿毘達磨俱舎論》を著すと,12年を費やして反論の書《阿毘達磨順正理論》80巻(《俱舎雹論(くしやばくろん)》ともいう)を書き,さらに,学徒数名と共に世親に直接会って反論しようとした。…
…アヨーディヤーで師のブッダミトラがサーンキヤ派の外道に論破されたため,《七十真実論》をつくってサーンキヤ派の教義を論破しかえし,それによってビクラマーディティヤ王から賞金を得,その金でアヨーディヤーに三つの寺を建てた。彼は有部の根本聖典《大毘婆沙論》を講義し,毎日その日の講義を詩の形で要約した。その結果,六百偈からなる《俱舎論頌》ができ,さらに彼自らの解説が付された《阿毘達磨俱舎論》ができあがった。…
…有部はまた,大乗仏教から部派仏教の代表のごとくみなされ,批判の矢面に立たされているが,事実,北インドで最有力な部派であった。有部は後2世紀にクシャーナ朝の王カニシカのもとで拡張し,また,その学説は《大毘婆沙論(だいびばしやろん)》に集大成された。有部の名は三世にわたって一切法が実有であるとするその学説に基づくが,《大毘婆沙論》を所依とする点で,毘婆沙師(びばしやし)とも呼ばれる。…
※「大毘婆沙論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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