化学辞典 第2版 「製塩法」の解説
製塩法
セイエンホウ
manufacture of common salt
海水や天然かん水から食塩を採取する方法の総称.乾燥した気候のもとでは,天日でかん水を乾燥させる天日製塩が行われている.高温多雨な日本では,このような製塩法は適さず,かつては塩田で塩分濃度の高いかん水を得,火力で熱して蒸発,煮詰めを行う塩田製塩法により製塩が行われていた.塩分濃度の高いかん水を得る工程を採かん工程,濃度の高いかん水を煮詰めて塩を析出させる工程をせんごう工程とよぶ.従来は,自然蒸発式(太陽熱と風力利用)の流下式,枝条架式,入浜式で採かんを行い,常圧下において火力により平がまで加熱するせんごうが行われていた.これに対して,1972年以降,日本では採かん工程をイオン交換膜法により行い,せんごう工程を真空式蒸発缶で行う製塩法がとられている.イオン交換膜法では,陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを交互に並べ,両端から直流を印加する電気透析が行われる.この方法では,Na+ を代表とする陽イオンは陰極に引かれ移動し,陽イオン交換膜を通り抜けるが陰イオン交換膜を通り抜けることができず,逆に Cl- を代表とする陰イオンは陽極に引かれ移動し,陰イオン交換膜を通り抜けるが陽イオン交換膜を通り抜けることができない.そのため,交互にかん水の濃度の高い部分と低い部分ができ,濃度の高い部分より塩分濃度20% 程度のかん水を得る.このイオン交換膜法では,イオンはイオン交換膜を透過し濃縮されるが,有機物や細菌類は透過されず除去されるため,安全な塩を得ることができる.現在では,濃度の高いかん水は直径5 m,高さ15 m 程度の巨大なかまを四つ以上並べた真空式蒸発缶で水分を除去される.この多重効用真空式とよばれる方法は,従来の平がま法に比べて4~7倍の高い熱効率を有している.このように経済的に効率が高く安全性の高い方法により,現在の製塩は行われている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報