イオン交換膜(読み)いおんこうかんまく(英語表記)ion exchange membrance

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イオン交換膜」の意味・わかりやすい解説

イオン交換膜
いおんこうかんまく
ion exchange membrance

イオン交換機能をもった膜。選択透過膜ともいう。イオン交換樹脂を膜状にしたもので、その膜にきわめて小さい空孔があり、この中に水あるいは有機溶媒浸入が可能な網目構造をもつ膜である。生体膜の研究と電気化学的研究とが結び付いて開発されたもので、イオンの選択透過性がきわめて大きいという特徴がある。

垣内 弘]

歴史

生体の細胞膜にイオンの選択透過性のあることが20世紀の初めに注目され、同時に合成膜の研究が進んだ。1935年ごろに提出されたマイヤーK. H. MeyerらとスレルT. Teorellの選択透過性の理論によって大幅に進歩した。この理論に基づいてポリアクリル酸・酢酸セルロース膜などが検討されてきたが、この学問的研究とイオン交換樹脂の研究とが集約化されて、高度の性能をもつイオン交換膜が出現し、電解質の濃縮および脱塩を効率よく行うことが可能となり、多方面に実用化している。

[垣内 弘]

構造

膜の構造から不均質膜、半均質膜、均質膜の三つに大別される。不均質イオン交換膜は、イオン交換樹脂の微粉末を、適当な造膜性の結合剤、たとえばポリエチレンポリスチレンフェノール樹脂合成ゴムなどを用いてコロイド状に分散させ、加熱して膜状に成形したものである。この膜は製造が容易であり、安定した膜を与えるが、導電性が劣るので1970年ごろには廃れはじめ、これを使用する例はほとんど見られなくなっている。半均質イオン交換膜は、膜は見かけ上均質膜になっているが、膜構成高分子物質とイオン交換性物質とが絡み合って機械的強度が増大したものである。最後の均質膜がイオン交換膜として代表的なもので、膜全体が高度の架橋によって化学的に結合し、多数のイオン交換基が均一に分布した構造の膜である。不均質膜に比べて機械的強度は劣るが導電性がよい。機械的強度を補強するために補強剤を入れたり、網などの補強材を入れて複合化する。具体的にはスチレンジビニルベンゼンDVB)とを含むペーストを補強剤としてポリ塩化ビニルで被覆後加熱し、のち交換基を導入するなどの方式が多い。

[垣内 弘]

交換基の導入

イオン交換基はイオン交換樹脂の場合と同じであり、陽イオン交換膜陰イオン交換膜とがあるが、特殊なものとして、同一膜中に酸性基と塩基性基とが均一に分布する両性イオン交換膜、また両イオン交換膜をそれぞれはり合わせた複合イオン交換膜などが実用化されている。

[垣内 弘]

特徴と応用

イオン交換膜は、形状がイオン交換樹脂の粒状から膜状に変わっただけでなく、イオン交換樹脂にない特異な性質をもっている。

 最大の特徴は異符号イオン間の選択透過性であり、陽イオン交換膜では陽イオンを、陰イオン交換膜では陰イオンが通過し、反対荷電のイオンの通過は困難である。この選択透過性はイオンの輸率(ゆりつ)(イオンがどのくらい運ばれるかの割合)と関係している。イオン交換膜は多くの場合、電気透析に用いられるので、膜のイオン透過性に対し抵抗の少ない導電性を必要とする。

 食塩の工業的製造はイオン交換膜を用いたイオン交換法で行っている。Ca2+、Mg2+、SO42-、CO32-などの2価イオンが透過しにくく、Na+、Cl-のような1価イオンを選択的に透過する陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に並べた透析槽をつくり、直流を通じる電気透析を行い、海水を濃縮する。この方法の採用により、日本の塩田は観光用を除いてすべて姿を消した。また海水の淡水化方式として式根島、伊豆大島その他の水道水に採用されているし、火力発電所の淡水用にも有効に利用されている。ほかには、水銀法にかわる電解カ性ソーダ(水酸化ナトリウム)製造法の隔膜としてナフィオンNafion(アメリカのデュポン社のフッ素樹脂系均質膜で、スルホン酸が交換基)が有名である。日本ではスルホン酸基のかわりにカルボキシ基(カルボキシル基)をもった膜も開発されている。

[垣内 弘]

『山辺武郎・妹尾学著『イオン交換樹脂膜』(1964・技報堂)』『花井哲也著『膜とイオン』(1978・化学同人)』『『テクニカルレポート イオン交換樹脂・膜の最新応用技術』(1982・シーエムシー出版)』『八幡屋正著『エンジニアのためのイオン交換膜』(1982・共立出版)』『高分子学会編『入門 高分子材料――高度機能をめざす新しい材料展開』(1986・共立出版)』『陸川政弘ほか著『固体分子型燃料電池用イオン交換膜の開発』(2000・シーエムシー出版)』『水谷幸雄著『研究者であること――イオン交換膜でスタートした45年』(2000・エヌ・ティー・エス)』


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