日本大百科全書(ニッポニカ) 「複合的農業」の意味・わかりやすい解説
複合的農業
ふくごうてきのうぎょう
穀物、野菜、畜産など、いくつかの作目・部門を組み合わせて行う農業経営の一方式。多角的農業、多角経営、複合経営などは同意語であり、単一作目の農業経営を単作農業(単一経営)とよぶのに対応する用語。
農業経営の方式は経営の構造と目標によって規定され、一般に、農業経営が資本主義化し、雇用労働によって大規模に営まれる場合は、労働生産性を高め経営効率をあげるように作目は単純化するが、家族経営ないし小農経営の場合は、年間の家族労働報酬の最大を目標とするので、所有経営要素である家族労働力、土地・機械・施設などの固定資本財の利用度を高めるように作目の複数組合せが行われると考えられている。ほかに複合化を促す経営経済的要因として、家畜の厩肥(きゅうひ)施用や輪作による土壌の豊沃(ほうよく)性保持、副産物の活用、災害や価格変動の危険分散、などがいわれる。とくに、作目相互の補合・補完、利用共同の関係は、テーラーHenry Charles TaylorやブリンクマンTheodor Brinkmannらが20世紀初頭のアメリカおよびドイツの農業を背景に整理している。
農業経営の複合化や単作化には社会経済的条件も強く作用する。日本では、第二次世界大戦前からの農村人口滞留のなかで過重労働と自給の窮迫的多角化がみられたが、昭和30年代以降の経済成長期には、都市産業の労働力需要の拡大に伴って、農外就労と水稲単作の結び付いた経営が広く出現した。
[新山陽子]