〈うまやごえ〉ともいう。家畜の糞尿や敷わらを堆積して腐熟させたもので,堆肥とともに重要な自給肥料であり,また地力維持のための粗大有機物の供給源ともなっている。家畜の種類や敷わらによって肥料成分の含量は異なるが,平均的には水分75%,窒素0.55%,リン酸0.25%,カリ0.6%程度である。ほかに各種の微量成分を含んでいる。処理法としては,厩肥を畜舎内で数ヵ月も家畜に踏ませながら堆積する方法と,1~2日ごとに敷わらを更新する方法があるが,前者は労力の節減や成分損失の少ない点ではよいが,家畜衛生上の難点がある。厩肥の腐熟過程で発生する熱(60~70℃)により病菌や害虫,雑草種子などを死滅させる。近年は敷わらなども不足しているために,とくに家畜の多頭飼育を行っている所では,おがくずなどを混入している場合が多い。この場合は,比較的長期間の堆積により十分に腐熟させる必要がある。未熟厩肥は土壌施用後の有機物の分解に伴い,作物の発芽障害や初期生育不良,窒素飢餓などを起こすこともある。自動流下式の厩舎からは洗浄水と家畜排泄物の混合物が得られるが,これらは腐熟後,液状に軟化した液状厩肥になる。これは一種の液肥であり,適当な散布機,散布装置を用いることにより,圃場(ほじよう)や牧草地などに随時施用しうるが,悪臭を伴うことが多いので施用条件が限られてくる。土壌中に注入施用する機械類も使用され,悪臭防止,肥効の向上が図られている。
厩肥は植物養分の総合的補給効果があり,また土壌微生物の栄養源ともなる。厩肥中に無数に生息している微生物群の投入などとあいまって,土壌の微生物相の多様化と活性の増大をもたらし,作物の生育を阻害するある種の病害菌などに対して,その異常発生を抑制する効果を生ずるなど,土壌の生物的性質の改善にも役だっている。厩肥の施用により土壌団粒の形成がうながされ,保水性,通気性が良好になり,また良質の腐植が形成され,植物養分の保持能が高まり,土壌反応の変化に対する緩衝能が高くなる。
執筆者:熊沢 喜久雄
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家畜の糞尿(ふんにょう)や敷き料(藁(わら)、おがくずなど)を堆積(たいせき)腐熟させたもので、家畜の種類や敷き料の違いによって、できる肥料成分の含有量には大きな差がみられる。しかし、稲藁や麦藁などの材料に窒素源を添加後、堆積して得られる堆肥に比べると、肥料成分含有量は一般に高い。おもな肥料成分含有率は、窒素0.07~1.07%(平均0.39%)、リン酸0.03~0.57%(平均0.19%)、カリ0.09~2.22%(平均0.70%)である。
厩肥を腐熟させるには、水を十分に加えて踏圧し嫌気的に20~30℃で発酵させる低温堆積と、緩く堆積し60~70℃の高温下で発酵させる高温堆積の二つの方式がある。後者は窒素の損失はあるが、病原菌や害虫が死滅する利点がある。近年、畜舎の清浄化と省力化ならびに材料不足から、敷き藁などのかわりにマット床が利用されだしたり、自然流下式糞尿処理の畜舎構造が採用されてきていることなどから、従来の敷き料を混合した厩肥の生産は一部に限られるようになり、糞尿のみの堆積を野外や畑の一部で行う方法がとられている。自然流下式の施設で得られる腐熟して液状化したものを液状厩肥という。これは牧草地の刈り取り後などに散布されている。
[小山雄生]
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…ほかに各種の微量成分を含んでいる。処理法としては,厩肥を畜舎内で数ヵ月も家畜に踏ませながら堆積する方法と,1~2日ごとに敷わらを更新する方法があるが,前者は労力の節減や成分損失の少ない点ではよいが,家畜衛生上の難点がある。厩肥の腐熟過程で発生する熱(60~70℃)により病菌や害虫,雑草種子などを死滅させる。…
…(4)皮 牛皮は質が緻密(ちみつ)で,強靱であり,良質の皮革として用途は広く,需要がきわめて多い。(5)厩肥(きゆうひ) 1頭で年間8000kgの厩肥が生産され,地力の維持に活用される。しかし近年,都市近郊の多頭飼育経営では,公害源の一つとしてその処理方法が問題となってきている。…
…(4)畜産の発達が著しく不十分で立ち遅れていたことである。第2次大戦後,1950年代ころまでは,大家畜(牛,馬)は主として役畜および厩肥利用のための飼養であり,中小家畜(豚,鶏など)の飼養もあまり進まなかった。それは乳・肉類の消費が少ないという日本人の伝統的な食生活慣行にもよるが,この畜産が本格的に発達してきたのは1950~60年代以降のことである。…
…焼畑農業のように,自然の土壌の肥沃度に依存して植物を栽培している時代には肥料はあまり必要とされなかったであろうが,ある場所に定着して同じ土地で農耕を営むようになると,土壌がしだいにやせるのを防ぎ,失われる養分を補うために経験的に効果の知られていた物質を肥料として土地に施用することに熱心になったであろう。人・畜の糞尿,山野草,草木灰,動植物遺体,あるいはこれらを腐熟させた堆厩肥(たいきゆうひ)など,自然に得られる資材をいわゆる自給肥料として使用していた。古代ローマ人は前200年から後100年にかけてすでに輪作,石灰施用,厩肥,緑肥についての知識をもっていたといわれている。…
※「厩肥」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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