改訂新版 世界大百科事典 「視線恐怖」の意味・わかりやすい解説
視線恐怖 (しせんきょうふ)
対人恐怖症の一種。他人の視線を気にし,対人関係が円滑に結べなくなった状態。正常人でも,とくに思春期にはこの傾向がみられるが,社会化とともにこの状態が消失していくのが普通である。視線恐怖はさまざまな疾患にみられる症状であるが,典型的なものは適応障害(神経症)の一類型である森田神経質である。これは,〈人によく思われたい〉〈ぼろを出すまい〉という心理機制から,他人との円滑な人間関係を切望しながらも人間関係を回避しているうちに,症状が悪化する。このような場合は森田療法が効果的で,気分を〈あるがまま〉に受け入れて健康人らしく行動することによって改善される。適応障害以外でも,統合失調症,うつ病,適応障害と統合失調症との境界例などでも視線恐怖はよくみられる。統合失調症,うつ病では,視線恐怖以外にも病気独特の他の症状がみられるのが普通で,森田療法などの心理療法よりも,薬物療法,生活療法などの治療を併用しながら,気長に治療することが好ましい。
執筆者:大原 健士郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報