一個の行為について複数の犯罪が成立する場合をいう(刑法54条1項前段参照)。たとえば、人を殺害する目的でピストルの弾1発を発射したところ、ねらった人ではなく、たまたま近くにいた人に命中して死亡した場合、建物の居住者を殺害する目的で建物に放火して焼死させる場合などである。判例によれば、前の事例では殺人未遂罪と殺人既遂罪の二罪が、また、後の事例では殺人罪と放火罪の二罪が成立するが、行為者の行為は一個であることから、観念的競合として、科刑上は一罪として扱われる。このような場合、一個の行為に対して複数の犯罪が成立するにもかかわらず、刑法第54条1項前段によって、「その最も重い刑に処する」ことになる(なお、科刑上の一罪には、このほかに牽連犯(けんれんはん)がある。刑法第54条1項後段)。
[名和鐵郎]
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
… 実体法上数罪の成立が認められる場合でも,科刑上はなお1罪として取り扱われ,成立する犯罪の法定刑のなかから,その上限および下限についていちばん重い法定刑を選択し,その法定刑で処断することが認められている(科刑上一罪)。その第1が〈観念的競合〉であり,1個の行為で数個の罪名に触れる場合である(54条前段)。たとえば,1個の爆弾で被害者の家屋を損壊すると同時に被害者を殺害した場合,1個の爆弾で同時に3人を殺害した場合等がこれにあたる。…
※「観念的競合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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