日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
調査報道記者・編集者協会
ちょうさほうどうきしゃへんしゅうしゃきょうかい
調査報道を行う新聞社、出版社、放送局などの記者や編集者、フリーランス記者、学生らによるアメリカの非営利組織。英語ではInvestigative Reporters and Editors Inc.といい、IREと略称される。「調査報道」とは、事件や社会事象について警察や官庁、企業などが発表した内容をそのまま報道する「発表報道」に対し、独自に掘り起こした問題点や隠蔽(いんぺい)された不正などについて取材調査して報道することで、IREは調査報道手法の研究、情報交換、相互研鑽(けんさん)などを目的としている。調査報道でニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件(1972~1974年)を契機に、アメリカで新聞社などによる調査報道が活発になった1975年に発足した。当初、若手記者数人による取材手法の研究の場であったが、1976年に協会メンバーの一人がマフィアと政財界のつながりを取材中に暗殺され、この事件の真相究明を同協会が全米の記者に呼びかけて調査報道し、容疑者逮捕や真相解明につなげた実績がある。会員数は世界で約4000人。毎年、内外のジャーナリストを集めて研究大会を開くほか、調査報道による特ダネにIREとして協会賞を贈っている。最近ではコンピュータやインターネットを駆使した調査・分析報道の研究にも力点を置いている。
アメリカではインターネットの普及や購読者数の減少による新聞社の経営難から、商業メディアによる調査報道は大幅に減少している。一方で、非営利の調査報道機関(いわゆる調査報道NPO)が60団体以上誕生し、ピュリッツァー賞を相次いで受賞するなど、その存在感を増している。IREはジャーナリストの自主的会員組織であると同時に、こうした非営利メディアの草分け的存在でもある。
[編集部]