改訂新版 世界大百科事典 「赤犬子」の意味・わかりやすい解説
赤犬子/阿嘉犬子 (あかいんこ)
沖縄県読谷(よみたん)村を中心に伝承される文化英雄。赤犬子の名は,その母が赤犬を寵愛していたゆえとされるが,一説には阿嘉(あか)(小字名)の出身であるので阿嘉いん子と称されたとする。赤犬子伝説には,読谷村楚辺(そべ)の貴重な井泉であった暗井(くらがー)の発見を赤犬子の母が寵愛する赤犬の功績として語る部分がある。そこには,井泉の発見という重大事を赤犬子につなげようとする心意があるが,沖縄・東南アジア一帯に伝承される人犬通婚譚,動物の井泉発見譚が語られており興味深い。赤犬子の業績とされるのは,ノビルや五穀の種子を沖縄島に初めてもたらしたことと,沖縄三味線音楽を創始したことである。なお読谷村楚辺に赤犬子宮がある。
執筆者:波照間 永吉 《おもろさうし》には〈あかのこ〉〈ねはのこ〉,〈あかのおゑつき〉〈ねはのおゑつき〉と対語で出ている。《おもろさうし》巻八は当時の著名な吟遊詩人である〈あかいんこ〉と〈おもろねあがり〉の2人の詩を集めたものである。《琉歌百控》(1795成立)には〈歌と三味線の昔初まりや犬子音東り(いんこねあがり)の神の御作(みさく)〉とあり,この歌によって赤犬子は琉球の古典音楽界では中国から渡来した沖縄三味線に初めて琉歌をのせて歌った人として崇拝されている。
執筆者:宜保 栄治郎
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