精選版 日本国語大辞典 「趣く」の意味・読み・例文・類語
おも‐む・く【趣・赴】
- ( 「面(おも)向く」が原義 )
- [ 1 ] 〘 自動詞 カ行五(四) 〙 ある方向へ向かう。おもぶく。⇔そむく。
- ① 向かう。向かって行く。行く。
- [初出の実例]「是の人の為に即ち来たりて請に赴(オモムカ)む」(出典:西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)八)
- ② (ある事柄に)心が向かう。心をかける。専心する。
- [初出の実例]「いかなる仏神に大願をたて、なでうことの謀(たばかり)をしてか、女のおもむくべき」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)
- 「ひたみちに行ひにおもむきなんに、さはり所あるまじきを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)御法)
- ③ (相手の考え、教えなどに)従う。同意する。
- ④ (男女の間で)相手に好意をもつようになる。
- [初出の実例]「古風な事の好なお人は急度(きっと)律義で実がありますよと言やアがったが、夫(それ)から些(ちっと)つつ趣(オモム)いて来たやうだ」(出典:滑稽本・七偏人(1857‐63)三)
- ⑤ 物事が変化して、ある状態に向かっていく。次第にある状態になる。
- [初出の実例]「世は、日々開化におもむきて、遂に今日に至りたり」(出典:尋常小学読本(1887)〈文部省〉七)
- ① 向かう。向かって行く。行く。
- [ 2 ] 〘 他動詞 カ行下二段活用 〙 ある方向に向かわせる。
- ① 向ける。向かわせる。向かって行かせる。行かせる。
- [初出の実例]「この笛をば〈略〉たちまちに、仏の道におもむけんも、たふときこととはいひながら、あへなかるべし」(出典:源氏物語(1001‐14頃)横笛)
- ② (人の心を)ある方向に向かわせる。人に説いて同意させる。従わせる。教化する。
- [初出の実例]「恥づかしげなる御気色なれば、強ひても、え聞こえおもむけ給はず」(出典:源氏物語(1001‐14頃)乙女)
- 「バンジノ ココロアテヲ デウスエ vomomuqe(ヲモムケ) タテマツルベキ コト」(出典:コンテムツスムンヂ(捨世録)(1596)三)
- ③ 事がある方向に向かうようにする。うまくことが運ぶようにする。
- [初出の実例]「我が大事の聖(ひじり)の君、このことおもむけしめ給へ」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)
- ④ (そのような方向、趣旨で)考える。また、心に思うことをほのめかす。
- [初出の実例]「もてはなれて、似げなき御事ともおもむけ侍らず」(出典:源氏物語(1001‐14頃)末摘花)
- ① 向ける。向かわせる。向かって行かせる。行かせる。
趣くの語誌
上代、中古においては、四段活用の自動詞とともに、下二段活用の他動詞も広く用いられていた。中世以後、次第に[ 一 ]の四段活用例に限られるようになり、意味の上でも、現代では①の意に限られるようになる。