日本大百科全書(ニッポニカ) 「転身譜」の意味・わかりやすい解説
転身譜
てんしんふ
Metamorphoses
ローマの詩人オウィディウスの代表作。15巻の物語詩。伝統的叙事詩の形式を用い、転身(または変形)のモチーフを中心に、大小250に及ぶさまざまな神話伝説をつなぎ合わせながら、宇宙の開闢(かいびゃく)から年代順に、ギリシア、オリエント、ローマにまで及び、カエサルの昇天と星への転身の話で終わる。神話の単なる系譜的羅列ではなく、大筋の物語のなかにさまざまなエピソードを巧みに織り混ぜながら、語り口は変化に富みよどみなく、達者な修辞と豊かな想像力を駆使して、物語作者としての詩人の力量がいかんなく発揮されている。ギリシア・ローマ神話をこれほど網羅した作品はほかに類がなく、神話伝説の宝庫として中世以来多くの人々に愛読され、後世ヨーロッパの文芸や美術に与えた影響は大きい。
[松本克己]
『松本克己訳『転身譜』(『世界文学全集2』1969・筑摩書房)』▽『中村善也訳『変身物語』全二冊(岩波文庫)』