日本大百科全書(ニッポニカ) 「オリエント」の意味・わかりやすい解説
オリエント
おりえんと
Orient
インダス川から西の地中海に至る地域。すなわち、現在のイランからアラビア半島、エジプトを含めた地方をいう。ラテン語の、太陽の昇る方向、または地方を意味する「オリエンス」が語源であり、ローマ時代に、イタリア半島を中心として、西方はオクシデンス、すなわち太陽の没する地方とよばれた。ローマ時代には最初はギリシア地方を意味したが、ローマ人の地理的知識の増大、とくにアレクサンドロス大王の東征以来、オリエンスはインダス川まで拡大した。
かつてこの地域はメソポタミア文明、エジプト文明など世界最古文明を生んだが、アレクサンドロス大王の東方遠征によって東方文明の影響を受けた。その後のオリエントの文化的基盤はギリシア文化となったが、完全にギリシア文化化されたものではなく、エジプトのコプト文化、シリアから東方のシリア文化はこの地域独特のもので、オリエント文化とよばれる固有の文化である。7世紀以降イスラム文化が興ったが、一般的にいってこの地方は大部分が不毛の砂漠や山岳地帯で、文化的後進地域であることが多かった。しかし、地理的には3大陸の接点にあたるため、東西文明交流の掛け橋としての役割を果たした。また近代から現代にかけては、軍事的にも重要な地域であるとともに、豊富な石油資源の発見以来、政治的、経済的に重要な地域ともなっている。
[糸賀昌昭]