日本大百科全書(ニッポニカ) 「農業神」の意味・わかりやすい解説
農業神
のうぎょうしん
農耕の守護神で、東北地方では農神(のうがみ)、関東・中部地方では作神(さくがみ)、近畿地方では野神(のがみ)・作り神などとよばれる場合が多く、さらに田の神の名称はほぼ全国的にみられる。農業神はこれらを汎称(はんしょう)とし、それぞれ個別には地神(ジガミ・ジジン)、竈神(かまどがみ)(オカマ様・荒神(こうじん))、恵比須(えびす)、大黒、亥子神(いのこがみ)、案山子(かかし)、サンバイ様、ソウトク様などが祀(まつ)られている。これら日本の農業神は、田の神の名称が広く使われていることからもわかるように稲作神としての性格が顕著で、稲作の作業過程に対応して去来するという伝承が広くみられる。田の神には、春に山の神が田に降りて田の神になり、秋にふたたび山に帰って山の神になるという伝承が各地にある。また、日本では、農業は古来から国民の全体的生業と考えられてきたため、年中行事に現れる神や各家で祀る神は農業神としての性格・要素をもつ場合が多く、この神は複雑に習合し、錯綜(さくそう)した様相を示している。
[小川直之]
『倉田一郎著『農と民俗学』(1969・岩崎美術社)』▽『西谷勝也著『季節の神々』(1970・慶友社)』