翻訳|season
天文学的もしくは気候学的な規則的な繰り返しによって1年を区分したとき、これを季節という。季節区分は各地域によって異なるが、もっとも著しい違いは緯度による違いである。
[根本順吉]
熱帯地方では季節区分のおもな目安となるのは降水量であり、ほとんどすべての地域は雨期と乾期に分かれる。もちろん熱帯でも季節の区分に風や気温の要素も考慮され、たとえば東南アジアで、雨期のモンスーン期に寒い季節と暖かい季節が認められるといったぐあいである。
北半球の温帯地方では、春(3~5月)、夏(6~8月)、秋(9~11月)、冬(12~2月)が共通した季節で、日本の本土、韓国、中国の華中や華南には夏の前半の約40日、梅雨(つゆ)という特有の雨期がある。毎年の天気の経過は同じではないが、1年を四つもしくは五つに分けた各季節は統計的には一つのまとまった気象状態として取り扱われることが多いのである。
高緯度地方では夜の長い冬の約半年と、昼の長い夏の約半年の二つの季節が卓越し、春と秋はきわめて短くなる。
気候的な季節の変化に応じて変わる生物現象に注目し、これを季節現象として調べる科学を季節学phenologyという。以上は主として気象学で使われる場合の季節の概略であるが、天文学的に季節をいう場合は東洋と西洋ではその区分が違っている。西洋では冬至から春分までが冬、春分から夏至までが春、夏至から秋分までが夏、そして秋分から冬至までが秋である。東洋の場合は春は立春から立夏前日まで、夏は立夏より立秋前日まで、秋は立秋より立冬前日まで、冬は立冬より立春前日までとなっていて、俳句の季語はこの区分に従っている。
気象学的な季節の区分には日照時間(光の季節)、気温、降水量をおもな目安としたものがあるが、一例として、1日の平均気温を目安とした季節区分に次のようなものがある。
Ⅰ寒冷期間 1日の平均気温が0℃以下、雪氷が多い。
Ⅱ冷涼期間 1日の平均気温が0~10℃、ときどき霜が降りる。
Ⅲ温暖期間 1日の平均気温が10~20℃、霜のない期間。
Ⅳ暑熱期間 1日の平均気温が21℃以上。
このⅠ~Ⅳおよびこの組合せで、世界の季節は次の10種類に分類することができる。
(1)1年中Ⅳ。赤道地帯の低地。
(2)1年中Ⅲ。赤道地帯の高地。
(3)1年中Ⅱ。赤道地帯のさらに高地。
(4)1年中Ⅰ。極地。
(5)1年がⅢとⅣに大別される。赤道帯の外縁部、亜熱帯地方。
(6)1年がⅡとⅢに大別される。中緯度偏西風帯、イギリスなど。
(7)1年がⅠとⅡに大別される。ツンドラ地帯。
(8)1年がⅡ―Ⅲ―Ⅳ―Ⅲの四季に分かれる。緯度の南寄りの地帯、日本など。
(9)1年がⅠ―Ⅱ―Ⅲ―Ⅱの四季に分かれる。緯度の北寄りの地帯。北欧、カナダなど。
(10)1年がⅠ―Ⅱ―Ⅲ―Ⅳ―Ⅲ―Ⅱの6季に分かれる。アメリカ北部、中央アジアなど。
日本の季節を天候により区分することは、注目する気象要素、地域にしたがって、いろいろ異なった結果が現れてくる。たとえば、高橋浩一郎、斉藤錬一、坂田勝茂の求めた結果をみてみよう。立冬に関して、高橋は11月20日プラスマイナス10日としているのに対し、斉藤は11月27日、坂田は11月20日としている。冬の入りは、高橋が12月18日プラスマイナス5日、斉藤が1月1日、坂田12月27日。立春になると、2月3日プラスマイナス13日とした高橋に対し、斉藤は2月20日、坂田は2月10日である。梅雨の入りになると、高橋の5月5日プラスマイナス10日がもっとも早く、斉藤は6月15日~25日、坂田は6月10日と1か月の差がある。これらは、もとより平均的なもので、毎年の経過はこれらとはかなり違っている。たとえば梅雨期間中に雨の少ない「空梅雨(からつゆ)」(洞梅雨(からつゆ))になったり、また一年中でもっとも寒いはずの1月末から2月の初めにかけて暖冬になったりするようなことがおこるのである。また一つの季節の始まる時期(たとえば梅雨入り、梅雨明け)も年によって10日程度までの早い遅いが現れる。
[根本順吉]
気温、雨量などの月平均値をみると、季節はだいたい連続的に変化しているようにみられるのであるが、期間を短くして1日、5日、10日などの平均値を年ごとに平均し、この時間的変化を調べてみるとけっして連続的な変化にはならず、かなり不規則な変化が残存した形が平均値においても残る。これは、季節の変化に不連続があること、ある期間が単一母集団の季節に属さず前後の違った母集団の季節の状態が複合して現れること、海洋の状態などの気候条件の変化を考えたとき、はたして季節変化は一つの平均値に落ち着くかどうか疑問があること、などが原因になっていると思われる。
[根本順吉]
温帯地方の特徴である四季のほかに、晩春から初夏の間に約40日の梅雨期があることが、日本本土の第一の大きな特徴である。このような雨期に注目したとき、秋の彼岸過ぎから顕著になり10月上旬ごろまで秋霖(しゅうりん)期があり、さらに梅雨期に先だつ菜種梅雨(なたねづゆ)、11月にある時雨(しぐれ)期があるが、あとの二つの雨期の雨は、雨量としては少ないものである。日本海側の各地ではこのうえにさらに冬の降雪期がもう一つの雨期となっている。
ヨーロッパなどの温帯地方ではみられぬ日本の季節変化の第二の特徴は、熱帯低気圧(台風)の季節があることである。日本の本土が台風の影響をもっとも受けやすいのは6~11月の半年間であり、上陸、接近のもっとも多いのは8~9月になっている。
日本の季節変化の第三の特徴は、特異日現象が比較的はっきりしていることで、これは他面、季節が段階的変化を示していることを意味している。すなわち、ある長さの間、特定の天候が続いたのち、低気圧や移動性高気圧の通過が境目(この境目が特異日にあたる)となって、次の新しい天候の段階に入るといった変化である。低気圧の場合としては、たとえば9月17日、9月25日(秋の彼岸の入りのころと出のころとみればよい)が特異日であり、このころ台風一過したのち、秋が急に深まるといった季節変化が現れるのである。高気圧性の特異日としては11月3日の文化の日の晴れなどがよく知られている。
[根本順吉]
季節変化のもっとも普遍的な原因は、地球の公転により太陽高度およびその出没の時間が変わることである。昼間の時間の長さと、太陽高度の違いにより、太陽から受ける熱量が緯度によってたいへん違ってくる。これが季節変化の第一原因である。ただし気候的に考えたときには、季節の変化は太陽からの日射量の変化よりは40~50日くらいの遅れが認められる。すなわち北半球における気温の最高・最低は、夏至、冬至よりは40~50日遅れて現れているのである。
季節の変化がこの第一原因だけでおこるなら同一の緯度の所では同じ季節変化を示すはずである。ところが実際はそのようになっていないのは、季節変化に第二の原因があるからである。第二の原因として重要なものは、地表における海陸分布と、これに伴われた季節風の変化、海抜、地形、地面被度、海流などである。
[根本順吉]
昔から「大雪は豊年の兆し」とか「青山に雪(山がまだ青いころから早く雪が降ると暖冬になる)」「五月旱(ひでり)に(豊作になるから)米買うな」など、数多くの季節の相関についての経験が伝承されてきた。これらのなかには験証に堪えられぬものも少なくないが、調べ方によってはある程度関係の認められるものもある。たとえば「大雪は豊年の兆し」というのは、暖地の雪とその地方の早稲(わせ)だけについて関係を調べてみると、ある程度の相関が認められる。寒地や多雪地帯の雪の場合は、大雪は農作業を遅らせ、雪融(ど)けの低温水や洪水の影響も考えられるので相関はほとんどみられない。
季節の相関は同一地点だけではなく、他の場所の天候が、遅れてその地域の天候に関係をもつというような現象も調べられており、これらの関係が統計的に験証されている場合には、季節予報の手段として季節の相関の現象が使われることが少なくない。たとえば「暖冬冷夏」は統計的にも意味のあることであり、このような相関は予想のときには一つの根拠として採用される。
[根本順吉]
1年の四季を満喫できるのは温帯地方であり、高緯度地方は長い夜の半年と長い昼の半年が、それぞれ冬と夏であり、春と秋はたいへん短くなっている。熱帯地方は乾期と雨期の交替が季節変化である。このような季節の変化は当然、その地域に住む人たちの生活様式や生産活動を大きく左右している。さらに同じ温帯地方でもモンスーン地帯の季節的変化と地中海周辺のそれとは大差があり、それぞれの風土を反映した季節変化が1年の生活に特徴を与えている。季節の変化をもっともよく表したものは、各地で広く調べられている農事暦、花暦の類であり、年中行事などにも季節変化が明らかに反映しており、これらをたどることは比較風土論の一つの重要な課題である。 には一例として、日本の山陰地方における花暦(はなごよみ)を示した。
[根本順吉]
『大後美保編『季節の事典』(1961・東京堂出版)』▽『気象庁編・刊『生物季節観測指針』(1971)』▽『倉嶋厚監修、朝日新聞社編『お天気ごよみ』(1973・河出書房)』▽『関口武著『カラー気象歳時記』(1975・山と渓谷社)』▽『根本順吉著『お天気とつきあう――気象歳時百話』(1982・日本エディタースクール出版部)』▽『高橋浩一郎著『カレンダー日本の天気』(1982・岩波ジュニア新書)』▽『倉嶋厚著『季節の旅人』(1985・広済堂出版)』
規則正しく毎年繰り返す天候推移またはそれと関係のある動植物の周年現象などにより,1年をいくつかの期間に区分したもの。
季節の相違をきめる昼夜の時間の長短や気温の高低は,地球の太陽に対する相対的位置が1年の間に変化することにより生ずる。地球は太陽のまわりを1年かかって公転しているが,地球の自転軸が公転面に対して約23度30分傾いているため,北半球についてみれば,夏至には太陽高度が最も高くて,昼間の時間が最も長く,地表で受け取る太陽エネルギーの量も最大となるのに対し,冬至には反対に,昼間の時間が最も短く,太陽エネルギーも最小になる。春分と秋分には昼夜の時間は等しく,太陽エネルギーの量は夏至と冬至の中間になる(図1,2)。
昼夜の時間および気温の季節的な差は低緯度地方では小さく,緯度が増加するにつれて大きくなる。したがって,熱帯地方では気温の年変化が小さく,最暖月と最寒月の平均気温の差すなわち年較差は5℃に満たぬほどであるが,温帯で10~20℃,寒帯で30℃をこす。このような理由で春,夏,秋,冬の四季の区別が明瞭なのは温帯で,熱帯ではむしろ雨季と乾季という区分がふつうであり,寒帯では春と秋が事実上ないといってよく,冬から夏へまた夏から冬へと急激に移り変わる。
古代人は天体運行の規則性の認識から季節の区分を考えた。中国でもヨーロッパでも,季節の区分には古くから冬至,夏至,春分,秋分が利用されている。中国では2至2分の中間点を立春,立夏,立秋,立冬と呼び,それぞれ春,夏,秋,冬の始まりとしたが,ヨーロッパでは2至2分が四季の始まりとされた点が異なる。中国では1年を24等分して,立春,立夏,立秋,立冬を含む24の区分点すなわち節気を設け,さらに節気の間を3等分して,各期間を初候,二候,三候と呼び,1年を72候に区分した。この季節区分は日本にも取り入れられ,二十四節気のいくつかは現在も用いられている。立春などのほかに,例えば啓蟄(けいちつ),大暑,大寒などがそれである。中国流の季節区分は天文学的な,言葉をかえれば太陽光の明るさを基準にしたものであり,気温の季節変化はこれより1ヵ月ほど遅れるので,実際の季節の推移はヨーロッパの区分の方に近い。北半球では慣習的に3,4,5月を春,6,7,8月を夏,9,10,11月を秋,12,1,2月を冬とするが,これは便宜的なもので,それらの境は気候の上からみて意味のあるものではない。
1年の天候推移の特徴に基づいて区分されたものは自然季節と呼ばれ,上記の天文学的な季節とは異なり,真に気候学的な季節である。例えば日本では,北西季節風の卓越する冬(11月末~2月下旬),低気圧通過による周期的天候変化を特徴とする春(2月下旬~6月上旬),梅雨前線の停滞によりひき起こされる梅雨季(6月上旬~7月中旬),高温な晴天の続く盛夏(7月中旬~8月末),秋雨前線と台風による雨が多い秋霖季(8月末~10月中旬),春と同様周期的天候変化のみられる晩秋(10月中旬~11月末)の六つの自然季節が基本である。これをさらに細分して,例えば春は気温により早春,春,晩春と三分したり,冬も同様に初冬,真冬と二分したりする。このように温帯では,ふつう1年が10前後の自然季節に分けられる。
熱帯では,雨季には空が雲におおわれ日射がさまたげられるので,気温の上昇が抑えられて,いくぶん涼しい季節になる。インドや東南アジアの熱帯モンスーン地域では,高日季(太陽高度が高い時期)の6~9月が雨季で,低日季が乾季になる。インドでは雨季に入る直前の5月の平均気温が1年の中で最高になる所が多い。乾季は冬(12月~2月),春ないし初夏またはプレモンスーン(3~5月),秋またはポストモンスーン(10~11月)に分けられる。
世界各地で古くから季節の認識または区分と深い関係をもっていたのは農事暦である。作物の発芽,出穂,開花,成熟,家畜の発情,分娩,換羽などの時期は,その土地の気候の季節的特徴と関連し,農事季節と呼ばれるが,各地の農民は長年の経験に基づき農事季節を記録した独自の農事暦をもっている。近年は,促成・抑制栽培により市場に出回る野菜・果物類の時期には季節的性格はやや薄らいだ面はあるものの,農事季節の大筋は季節推移の特徴を反映している。日本では農作業に参考になる自然界の変化として各地で用いられてきたのは,樹木の発芽,開花,葉の色調,鳥の出現などである。この種の自然暦により始める作業は各種作物の播種,田植,収穫などである。
植物,鳥,昆虫などの季節現象は生物季節と呼ばれ,気候の一側面の示標となる。しかし,その種類により気候への反応の仕方が異なるので取扱いには注意を要する。例えば,ソメイヨシノの開花日は宮崎3月25日,東京3月30日,仙台4月12日,青森4月27日,札幌5月5日(いずれも1953-70年の平均値)と南と北で40日も差がある。一方,ウメの開花日は宮崎1月24日,東京2月5日,札幌5月5日で,そのずれは100日にも達する。しかし,札幌ではソメイヨシノとウメは同時に開花するという面白い現象がみられる。また,人間生活の中で,衣がえの時期,冷暖房の開始・終了日などはその土地の季節推移と関係し,生活季節と呼ばれる。北海道では冬服を着始めるのは10月半ばであるが,九州では11月半ばになる。また,夏服を着始めるのは九州で6月初めであるが,北海道では6月末である。以上のような生物季節と生活季節の特徴は,自然季節の区界とは必ずしも一致しないが,その土地の気候の季節的特徴の一側面を示している。
→秋 →夏 →春 →冬
執筆者:前島 郁雄
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