デジタル大辞泉
「案山子」の意味・読み・例文・類語
かかし【案=山=子/鹿=驚】
《「かがし」とも》
1 竹やわらで作った人形。蓑や笠をつけて田畑に立て、人に見せかけて鳥などが作物を荒らすのを防ぐ。もと、鳥獣がその臭気を嫌って近づかぬよう、獣肉や毛髪などを焼いて竹などに付け立てたもの。「かがせるもの」の意で、「かがし(かがせ)」といったところからいう。おどし。かがせ。《季 秋》「倒れたる―の顔の上に天/三鬼」
2 地位・外見ばかりよくて、それ相応の能力のない者。見かけ倒し。
「私は―で来たので、向うの申出を信じて従う他はなかったのであります」〈滝井・無限抱擁〉
そおず〔そほづ〕【案=山=子】
「そおど」の音変化。
「あしひきの山田の―おのれさへ我をほしてふうれはしきこと」〈古今・雑体〉
そおど〔そほど〕【案=山=子】
かかし。そおず。
「久延毘古は、今に山田の―といふぞ」〈記・上〉
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かかし【案山子・鹿驚】
- 〘 名詞 〙 ( 「かがし」とも )
- ① ( においをかがせるものの意の「嗅(かが)し」から ) 田畑が鳥獣に荒らされるのを防ぐため、それらの嫌うにおいを出して近付けないようにしたもの。獣の肉を焼いて串に刺したり、毛髪、ぼろ布などを焼いたものを竹に下げたりして田畑に置く。おどし。
- ② ( ①から転じて ) 竹やわらで作った等身大、または、それより少し小さい人形。田畑などに立てて人がいるように見せかけ、作物を荒らす鳥や獣を防ぐもの。かがせ。そおず。かかし法師。《 季語・秋 》
案山子②〈一遍聖絵〉
- [初出の実例]「かかしをもこしらへ、垣をも念の入てゆふて置うと存る」(出典:虎寛本狂言・瓜盗人(室町末‐近世初))
- 「物の音ひとりたふるる案山子哉〈凡兆〉」(出典:俳諧・猿蓑(1691)三)
- ③ 見かけばかりで、地位に相当した働きをしない人。つまらない人間。見かけだおし。
- [初出の実例]「島原で年迄取った此案山子」(出典:雑俳・初桜(1729))
案山子の語誌
( 1 )①から②の意に転じて用いられるようになるのは中世頃からと考えられる。近世には、「かがせ」という変化形も生じた。古くは、「古事記‐上」に「山田の曾富騰(ソホド)」とあるように、「そほど」あるいは「そほづ」と呼ばれた。
( 2 )当初は、「かがし」という濁音形が多く用いられたと考えられるが、関東地方では「かかし」と発音されており、江戸時代後半には「かかし」が勢力を増していったものと思われる。
( 3 )語源については、「かがし(某)」からとする説もある。
( 4 )「案山子(あんざんし)」は、もと中国の禅僧が用いた言葉で、案山(山中の低地の意)の田畑に鳥獣を防ぐために立てた人形を意味する語。それを借りて、日本で「かかし」に当てるようになった。
あんざん‐し【案山子】
- 〘 名詞 〙 田畑に立てて、鳥獣をおどし、その害を防ぐ人形。→案山子(かかし)。
- [初出の実例]「案山子の文字は伝灯録〈略〉の語あり。注に曰、民俗刈レ草作二人形一令下置二山田之上一防中禽獣上、名曰二案山子一」(出典:俳諧・随斎諧話(1819)乾)
- [その他の文献]〔景徳伝燈録‐一七・道膺禅師〕
そおどそほど【案山子】
- 〘 名詞 〙 =そおず(案山子)
- [初出の実例]「其少名毘古那神を顕はし白せし謂はゆる久延毘古は、今者に山田の曾富騰(ソホド)といふぞ。此の神は、足は行かねども、尽(ことごと)に天の下の事を知れる神なり」(出典:古事記(712)上)
そおずそほづ【案山子】
- 〘 名詞 〙 ( 「そおど(案山子)」の変化した語 ) 田畑を荒らす鳥獣を追うために田畑に置く人形。かかし。くえびこ。そおど。
- [初出の実例]「あしひきの山田のそほづおのれさへ我をほしといふうれはしきこと〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)雑体・一〇二七)
かがせ【案山子】
- 〘 名詞 〙 「かかし(案山子)」の変化した語。
- [初出の実例]「今夜は、某(それがし)がかがせに成ってとらよう」(出典:狂言記・瓜盗人(1700))
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
案山子 (かかし)
農作に害を及ぼす鳥獣を排除する目的で田畑に設ける装置。人形や神札などによるもの,においや音・色などによるものなどがある。かかしに案山子の字をあてる由来は明らかでない。かかしは〈鹿驚(かがせ)〉の意から出たともいわれるが,一般には悪臭を発して鳥獣を追う〈嗅(か)がし〉が語源とされている。現在ではかかしの語が一般的であるが,これをソメという地方が長野や岐阜,愛知に分布し,徳島や種子島ではこれをシメという。ソメ,シメとも〈占〉に関係した言葉であろう。また,かかしをオドシと呼ぶ地域も中国,四国,九州,北陸と近畿地方の一部にあり,その目的をよくいいあらわしている。毛髪を焼いたり,鳥獣の死体をつるしたりするのは嗅がしの一般的な方法であるが,焼くことによりいっそう臭気が発散するので,元来は焼き焦がしたものが本式であったと考えられる。岐阜では猪の皮を焼き,あるいは鹿の脂を煤に混ぜてこれを用いた。このほか,鳴子やししおどしのサコンタロウ,ソウズのように大音を発する装置や,新しくは銀紙や反射テープを利用し光を発して鳥獣を追うものなどもある。かかしに神札など神の依代(よりしろ)を利用するのは鳥獣の背後に悪霊などの存在を考えたためである。かかしはまた神の依代そのものでもあった。《古事記》ではかかしは〈久延毘古(くえびこ)〉の神であるとされる。かかしを田の神の依代としてまつる民俗例もある。長野県下では旧10月10日の十日夜(とおかんや)の行事に,カカシアゲまたはソメノ年取リといい,かかしに蓑笠を着せて箒・熊手を両手に持たせ,餅や二股大根を供えてこれをまつる。同県諏訪地方ではこの日はかかしの神が天に上がる日といい,同じく南安曇地方ではかかしが田の守りを終えて山の神になる日だとの伝承がある。また,群馬県下では正月14日にかかし神を作り,新潟では同日かかしを立て膳を供える風習もある。
執筆者:大島 暁雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
案山子
かかし
農作物を害する鳥獣を追払う装置や設備。音や光でおどすもの,臭いで退散させるもの,人形を立てるものなどがある。音や光でおどすものには,水車や鳴子を使ったり,空缶をたたいたり,空砲を撃つなどして大きな音をたてたり,ひらひらする布や,きらきら光る金属片などで幻惑させたり,鳥の死骸をぶら下げておどすものなどがある。臭いによるものは,髪の毛,油をしみこませた布,魚の頭,獣肉などを焼き焦がし,その悪臭で鳥獣を近づけまいとする方法で,本来カカシの語も,嗅がしの転じたものといわれる。人の形に似せたものは,人と見まちがわせようとするものであるが,これは田の神の依座でもある。長い期間にわたって田畑を見守り,収穫が終れば用がなくなるところから,カカシ上げ,カカシ祭などといって,田から家に迎え入れ,庭で供物をあげて祀る行事が行われる。
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案山子【かかし】
農作物を鳥獣の害から防ぐため田畑に立てるもの。〈かかし〉が一般的な呼称であるが,長野,岐阜,愛知では〈ソメ〉,徳島,種子島では〈シメ〉,北陸,近畿,中国,四国,九州の一部では〈オドシ〉ともいう。毛髪,魚の頭,焼いた獣肉や鳥など悪臭を放つもの(かかしの語源は〈嗅(か)がし〉説が有力),鳴子(なるこ),空缶など物音をたてるもの,神札や護符などを竹の先にはさみその威力で作物を守ろうとするものなどがある。みの笠姿のかかし人形は田の神の依代(よりしろ)と考えられ,長野県では収穫後これを焼いてまつる。
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案山子
田畑が鳥獣に荒らされるのを防ぐために麦藁などで作って田畑に置いた人形。もとは、獣の肉を焼いて串に刺したり毛髪やぼろ布を焼いて竹に下げ、鳥獣の嫌う臭いを出し、それを田畑に置いたため、嫌な臭いをかがせる意味の「嗅がし」が語源。
出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報
世界大百科事典(旧版)内の案山子の言及
【久延毘古】より
…《古事記》にみえる神の名。〈クエ〉は〈崩(く)ゆ〉の連体形で身体の崩れた男を指すと思われ,また案山子(かかし)のことである。[大国主(おおくにぬし)神]が出雲の御大(みほ)(美保)の岬にいたとき,海上から羅摩(かがみ)の船(ガガイモの船)に乗り,鵝(ひむし)の皮(蛾の皮)の衣服を着た神が近づいた。…
【少彦名命】より
…《古事記》によれば,大国主神が出雲の御大之御前(みほのみさき)にいたとき,波のかなたより天之羅摩船(あめのかがみのふね)(ガガイモのさやでできた船)に乗り,蛾の皮を衣服として漂着した神があった。名を問えども答えず,まただれもその素姓を知らなかったが,ヒキガエルと[久延毘古](くえびこ)(山田の案山子(かかし))によって,神産巣日(かむむすひ)神([神皇産霊尊])の子スクナビコナであることが知れた。カムムスヒは,わが子のうちで〈手俣(たなまた)より漏(く)きし子ぞ〉(指のあいだから落ちた子だ)といい,オオナムチと兄弟になってその国を作り固めよと命ずる。…
※「案山子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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