近赤外線吸収色素(読み)きんせきがいせんきゅうしゅうしきそ(英語表記)near-infrared absorbing dye

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

おおむね760ナノメートルから2.5マイクロメートルの波長範囲の電磁波を近赤外線といい、厳密には、この波長領域に吸収を有する色素。慣用的には、単に赤外線吸収色素ともいう。おもに光エネルギーを熱エネルギーに変換するために用いられるので、光熱変換色素という用語がほぼ同義で用いられることもある。光学的に情報の読み出しや書き込みが可能な円盤を光ディスクといい、このうちコンパクトディスク(CD)は1982年から生産が開始された。当初は読み出し専用であったが、1988年、いわゆる追記型(書き込みは1回限りで、書き換えはできない)光ディスクのCD規格がCD-R(Compact Disc Recordable)として提案され、現在、コンピュータの安価な記録媒体として普及している。CD-Rは波長780ナノメートルの半導体レーザーの光で書き込みを行うことから、シアニン系、フタロシアニン系、含金属アゾ系などの色素の吸収位置を分子設計の手法によって調整した機能性色素が開発された。

 光ディスクに塗布されたこれらの色素が、レーザー光照射で発生した熱により化学変化を起こして変形し、ビットとよばれる穴を生成することで情報が記録できる。熱転写色素を転写するためのサーマルヘッド(感熱ヘッド)の抵抗体のかわりに近赤外線吸収色素と半導体レーザーの組合せが用いられることがある。この場合は、近赤外線吸収色素は繰り返し使用されるので、化学変化を起こさない程度に加熱される。

 近赤外線吸収色素は、冷房の効率向上のため、太陽光中の熱線(赤外線)を遮る材料としても利用される。この場合、光ディスクやレーザー熱転写記録の場合よりも幅広い波長領域を吸収する色素の設計が必要となる。自動車の前面ガラスの場合は可視光透過率70%以上という規制があるために設計はよりむずかしくなる。たとえば、1.3マイクロメートル以上は無機セラミックス系材料を用い、800ナノメートル~1.3マイクロメートルの範囲はジイモニウム系の有機色素を使うなどのくふうがなされている。この色素は、可視光の透過率が高いことから、プラズマディスプレー・パネル(PDP)から放出される近赤外線を遮断するフィルターとしても有用である。色素増感太陽電池の吸収波長域を、可視光だけでなく、赤外光にも拡大すると、エネルギー効率を向上させることができる。この目的に沿った新しい色素の設計も行われている。

[時田澄男]

『北尾悌次郎著「近赤外吸収色素」(有機合成化学協会カラーケミカル事典編集委員会編『カラーケミカル事典』所収・1988・シーエムシー出版)』『前橋達一・前島勝己・奥沢二郎・竹田克之著「レーザー熱転写型DDCPシステムの開発――Color Decision Ⅱ 用材料の開発」(『KONICA TECHNICAL REPORT VOL. 14』所収・2001・コニカ株式会社)』『橋詰賢一・田村正明著「熱線吸収色素とその応用」(時田澄男監修『エレクトロニクス用機能性色素』所収・2005・シーエムシー出版)』『時田澄男著「光ディスク」(杉森彰・時田澄男著『光化学――光反応から光機能性まで』所収・2012・裳華房)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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